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ミノリ
シン
シン
来たか、ミノリ
ミノリ
さっきのメッセージはなに？
ミノリ
呪いの絵の謎が解けたってあったけど
シン
全部わかったんだ
シン
やっぱり呪いなんてなかったよ
ミノリ
ふーん…
ミノリ
詳しく聞かせてよ
ミノリ
シンの推理次第じゃ死ぬからね
シン
ったく、人質を取った悪役みたいだな
シン
もっともお前は一人二役だけど
ミノリ
早く聞かせてよ
シン
オーケー、順を追って説明する
シン
まず、呪いの絵を描いたモエさんは
シン
美術部の人たちにいじめられていたことがわかった
シン
おい
シン
何で笑ってるんだよ
ミノリ
だってさ、やっぱり呪いだと思って
ミノリ
きっとモエさんは幽霊になって
ミノリ
いじめていた奴を呪っていったんだよ
ミノリ
呪いの絵は美術部員たちのこじつけで
ミノリ
結果的にそういうふうに見えただけってこと
シン
（ミノリの奴、やっぱり勘が良いな…）
シン
（だけど否定させてもらうぞ）
シン
（幽霊とか呪いとか）
シン
（お前は信じちゃいけないんだ）
シン
ミノリはバカだな
シン
この世にそんな非科学的なものはない
ミノリ
でも実際に美術部員の人たちは体調不良になったじゃん
ミノリ
しかも揃いも揃って原因不明
ミノリ
これをどう説明するの
シン
その秘密がこれだ
シン
ミノリ
なにそれ？
シン
これはペトロール
シン
油絵で使う画溶液ってやつだ
ミノリ
画溶液…
シン
これが窓際の物陰に落っこちていた
シン
調べたところ、モエさんは死ぬ前に画材を壊されていたんだが
シン
そのときに落ちたんだろうな
ミノリ
そのペトロールってやつがなんなの？
シン
このペトロールの瓶にヒビが入っているだろう
シン
ペトロールは揮発性があって
シン
密閉していないと空気中に拡散してしまうんだ
ミノリ
まさか毒なの？
シン
いや、これ自体は危険なものじゃない
シン
普通に使っている人がほとんどだしな
シン
だけど、とある体質の人にとっては毒になりえる
ミノリ
とある体質？
シン
化学物質過敏症だよ
ミノリ
なにそれ？
ミノリ
そんなの聞いたこともないよ
ミノリ
嘘の病気であたしをだまそうとしてない？
シン
ちゃんと現実にある病気だよ
シン
疑うなら今すぐ調べてみればいい
ミノリ
…………
ミノリ
まあいいよ、続けて
シン
この病気は、その名の通り
シン
化学物質に対して敏感になってしまうんだ
シン
今回の事件における化学物質は
シン
窓際に落ちていたペトロールだ
ミノリ
…それが？
シン
このペトロールは石油から精製されたもの
シン
化学物質過敏症の人にとって石油製品は天敵でね
シン
体調不良の原因になりうるんだ
シン
そしてこの化学物質過敏症における疾病は
シン
医者でも特定が難しいと言われている
ミノリ
あっ…
シン
そう、今回の件がまさにそれ
シン
原因不明の体調不良、その正体は
シン
ペトロールが引き起こした化学物質過敏症だったんだ
シン
これが呪いに見えただけだ
ミノリ
で、でもさ
ミノリ
たしかに話を聞くとそれっぽいけど…
ミノリ
体調を崩した人がみんな
ミノリ
その化学物質なんちゃらだったなんて
ミノリ
そんなのありえないと思う
シン
俺もそう思う
シン
恐らく、化学物質過敏症の人は数人程度だ
シン
これほどまでに体調不良者が続出したのは
シン
他に原因がある
ミノリ
ペトロール以外になにがあるの？
シン
モエさんの自画像にはな
シン
実はある強い想いが込められていたんだ
シン
絵の背景をよく見てみるんだ
シン
ミノリ
ただの怖い背景にしか見えないよ
シン
何の意味もなさそうな背景、模様だけど
シン
これには深い意味がある
シン
ほら、この部分
シン
シン
数字の「202」に見えないか
ミノリ
まあ、言われてみれば
ミノリ
でもこれが「202」だったとして、どんな意味があるの？
シン
この状態ではわからない
シン
だけど、この絵が窓に映るとどうなるか
シン
絵を直接見るんじゃなくて
シン
窓に映った絵を見てみるんだ
シン
ミノリ
…………
ミノリ
あっ
シン
見えたよな
シン
モエさんは、ぱっと見ではわからない
シン
そのメッセージを自画像に込めていた
シン
モエさんをいじめていた奴らは
シン
それを見て、罪悪感に苛まれていったんだ
シン
自分たちがいじめたことで
シン
モエさんを死に追いやってしまったんだ、と
シン
直接加担していなくても
シン
助けてやれなかった人もいたに違いない
シン
彼らはモエさんの強い訴えを受け取り、病んでいったんだ
シン
それがもう一つの体調不良の原因だ
ミノリ
モエさんはずっと助けを求めていた…？
ミノリ
その想いを絵に込めて…
シン
そういうこと
シン
モエさんの自画像に描かれた「202」という数字
シン
これが窓に反射すると…
ミノリ
「SOS」
ミノリ
つまり、助けて…
シン
いじめていた人たちが
シン
本当にこのメッセージに気づいていたかはわからない
シン
だけど何度も視界に入ったはずだ
シン
結果、無意識的にすり込まれていったんだ
シン
モエさんの助けてっていう声がね
シン
それがモエさんを死に追いやったという罪悪感を強め
シン
体調を崩すまでに追い込んでしまったってわけだ
シン
調べたところ、体調不良に陥った人たちは
シン
みな窓際の席に座っていた
シン
このことからも、今の推理の正しさを物語っている
ミノリ
窓際なら、よく見えるから…
シン
モエさんは、一人苦しんでいたんだ
シン
誰も助けてくれない
シン
だけど、声を上げる勇気もない
シン
モエさんができたのは
シン
自画像に助けを求める声を忍ばせることだけだった
シン
そして死後、そのメッセージは呪いとなって伝わった
シン
これが、呪いの絵の真相だよ
ミノリ
たしかに、それっぽくはあるけどさ…
ミノリ
でも、現実にそんなことって…
少女
今の話は、本当なんですか？
シン
あなたは、あのときの…
そこにいたのは、以前に廊下でぶつかった少女だった。
ミノリ
誰？
シン
美術部の人だと思うけど…
少女
ごめんなさい、立ち聞きしていました
少女
それで、「SOS」の話は本当なんですか？
シン
ええ、状況から考えて間違いないかと
シン
モエさんは、助けてという想いを絵に込めていたんです
少女
やっぱり、そうだったんですね…
少女
モエは、助けを求めていた…
少女は嗚咽を漏らし、やがて大声で泣き始めた。
ミノリ
ど、どうしたんだろう
シン
…………
数分後
シン
落ち着きましたか？
少女
すみません…
少女
私は、モエの友だちのサキコです
サキコ
モエとは幼なじみだったんです
シン
そうだったんですか…
サキコ
モエがいじめられているのを知っていたのに
サキコ
私は、何もできませんでした
サキコ
モエを助けたら、私もいじめられると思って…
サキコ
私って、最低ですね…
サキコ
モエは、ずっと助けを求めていたのに
サキコ
ごめんね、モエ…
サキコ
助けられなくて、ごめんね…
シン
もしそう思っているのなら
シン
自殺を考えないことです
サキコ
……っ
サキコ
でも、自分が許せないんです
サキコ
モエはいじめを苦にして車道に飛び出したのかもしれません
サキコ
私がいじめを止めていれば、モエは死ななかったかもしれないし…
サキコ
モエは、私を恨んだまま死んだんじゃないかって…
シン
モエさんは交通事故で死んだんですよ
シン
あなたの行動は関係ない
シン
そもそもモエさんは、あなたを恨んではいない
サキコ
でも…
シン
もし、モエさんが本当に助けを求めていたのなら
シン
直接、あなたに訴えかけていたでしょう
シン
あのような回りくどいメッセージにしたのは
シン
誰かに助けを求めたいけど、はっきりと声を出せなかったからです
シン
その理由は恐らく
シン
あなたをいじめに巻き込みたくなかったからです
シン
だから、あなたが動かなかったからといって
シン
モエさんはあなたを恨んでいないと思います
シン
あなたのせいで死んだんじゃない
シン
だから、モエさんの分も生きるべきです
サキコ
モエ…
それからしばらく、美術室にサキコのすすり泣きが響いた。
その泣き声は、呪いの絵から発せられたものではないかと噂が立ち、
後に学校の七不思議の一つとして語られるようになるのだった。
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