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「六月の君の嘘 第九話」

秋原 蓮

はっ…え、あれ…?ここ…は…?

秋原 蓮

…海…?

鈴木 涼

おーい!蓮ー!

秋原 蓮

ん?あ、涼…どうした?

鈴木 涼

はぁ?どうした?じゃねーよ。馬鹿。
お前が夜の十二時にここに迎えにこいって言ったんだろーが!
ほい、はやく帰るぞ?車いす、押してやるから、はやく乗れ!

秋原 蓮

あ、ああ…。そっか。

鈴木 涼

おい、どうした?ずっと後ろばかり振り返ってるけど…
なんかあるのかよ?

秋原 蓮

え、いや、なんでもない。

秋原 蓮

なんかさ、忘れている気がして…

鈴木 涼

あ、それ、俺も…。

秋原 蓮

え?

鈴木 涼

いや、お前の事を待ってたら、気づいたら寝ててさ、気づいたらなんか忘れてる
ような気がしてさ…。なんだっけなー。なんか、思い出せそうなんだけど、
思い出せねー、この感じ、めっちゃ気持ち悪い…。

秋原 蓮

あ、まじでわかる。

鈴木 涼

よし、早く病院に帰るぞー

鈴木 涼

つーか、なんでこんな真夜中に海に来たかったんだ?

秋原 蓮

え、いや…それがなんか思い出せねーんだよな…。

鈴木 涼

はぁ?

鈴木 涼

お前がどうしても海に行かないととか言い出すから、この俺が、母さんを
命がけで説得したのによぅ、その努力が…。

秋原 蓮

まぁ、とにかくありがとな。

鈴木 涼

つーか、お前、彼女できたわけ?

秋原 蓮

はぁ?できるわけねーだろ。

鈴木 涼

じゃあ、その指輪、どうしたんだ?

秋原 蓮

指輪?あ…何これ…?

鈴木 涼

いや、俺に聞かれても知らねーよ。

鈴木 涼

左手の薬指っつたら、婚約指輪のポジションじゃね?
やっぱり、俺に内緒で彼女が…

秋原 蓮

ちげーわ!

秋原 蓮

え、でも、なんだ?この指輪…。

鈴木 涼

高そうだし、メル●リとかで売れば、高く売れるんじゃね?

秋原 蓮

確かに…。

秋原 蓮

でも、なんか捨てちゃいけないような気がするんだ…。

鈴木 涼

はぁ?どゆこと…?

秋原 蓮

いや、分かんねーけど。

鈴木 涼

ふーん。つーか、めっちゃ月、綺麗じゃん。満月…?

秋原 蓮

あ、本当だ!

鈴木 涼

写真とっとこ。

秋原 蓮

俺もー。

秋原 蓮

ん、あれ…?

鈴木 涼

どうした…?

秋原 蓮

見て、この写真。

鈴木 涼

……え、お前、自撮りなんかするタイプの奴だったか…?

秋原 蓮

いや、しねーけど…。夕方にさっきの海で一人で撮ったみたい…。

鈴木 涼

はぁ…それも覚えてねーの…?

秋原 蓮

今日は疲れたから、忘れたんじゃね?

鈴木 涼

まぁ、確かに。よし、早く帰るぞー。

秋原 蓮

ああ。

鈴木 涼

って、お前、何、泣いてんだ!?

秋原 蓮

はぁ?あ…あれ?

秋原 蓮

なんか、涙が止まんねーんだけど…。

鈴木 涼

…事故で頭でも打ったのかよ…。後で、母さんに診てもらおーぜ。

なぜか、涙が止まらない… なぜ自分が泣いているのかわからないが、 なにか忘れてはいけないこと。 なにか忘れてはだめだった人。 誰だっけ…。 その時ー。 『私を忘れないで。 愛しています。』

秋原 蓮

え?

鈴木 涼

え?

秋原 蓮

涼、今の、聞こえたか?

鈴木 涼

ああ、聞こえた。お前も?

秋原 蓮

ああ。『忘れないで』って。

鈴木 涼

ああ。なんか、大切なことを忘れている気がする…。

秋原 蓮

俺もだよ。

鈴木 涼

さっきの声も、どこかで聞いたことがあるような…。

秋原 蓮

ああ。俺も。

心に穴が開いたように、胸が痛い。 締め付けられる。 頭の片隅に浮かび上がる、シルエット。 あなたは…。 あなたは…、誰だっけ?

六月の雨は君の嘘

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