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安田
そろそろ、結婚して一年経つね
玲奈
ええ。そうね
安田
君との生活は、まさに夢のような日々だった
安田
僕みたいな平凡なサラリーマンが、人気女優の君と結婚できるなんて思わなかったからね
安田
最初は信じられなかった
安田
家電量販店で働く僕は、店内で突然、君に声をかけられた
安田
「一目惚れした」と言われて、驚いた
安田
そのうえ、君があの女優の「森玲奈」だと知って、さらに驚いた
安田
付き合って三か月のスピード婚
安田
僕は「人気女優を射止めた一般男性」として、テレビに出演した
安田
「格差婚」としてたくさんのメディアにも取り上げられた
安田
君と出会わなければ、こんな華のある世界とは縁がなかったはずだよ
安田
ありがとう
玲奈
お礼なんてやめて
玲奈
もう終わりなんだから
安田
終わり？
安田
どういうこと？
玲奈
今日で離婚することに決めたの
安田
離婚！？
安田
何を言ってるんだ？
玲奈
だから、私たちは別れるってこと
安田
どうして？
玲奈
どうしてもこうしてもないわ
玲奈
私、あなたのこと好きじゃないから
安田
好きじゃない？
安田
いつから？
玲奈
最初から
安田
最初から！？
安田
じゃあ、どうして結婚したんだ！？
玲奈
私があなたと結婚した目的は、好感度を上げるためよ
安田
こ、好感度……？
玲奈
私は１７歳でデビューして以来、ずっと清純派で売ってきた
玲奈
朝ドラのヒロインに抜擢され、素朴で自然体な、国民的若手女優になった
玲奈
でも、人気絶頂の時に、スキャンダルを起こした
玲奈
大御所俳優とＩＴ企業社長を手玉にとった二股不倫
玲奈
それが報じられたとたん、ネットは大炎上
玲奈
仕事は全てキャンセルになり、メディア露出は激減
玲奈
清純派のイメージは崩壊し、芸能活動の存続すらも危うくなった
玲奈
私の好感度を再び上昇させるにはどうすればいいのか？
玲奈
たどり着いた答えが、「平凡な一般男性」と結婚することだった
玲奈
それによって、庶民的なイメージを浸透させる
玲奈
だから、「普通の男」なら誰でも良かったの
玲奈
一年結婚生活を我慢したおかげで、好感度も上昇
玲奈
人気女優に戻れたわ
玲奈
でもこんなつまらない毎日もう限界、だから別れて
玲奈
離婚届は用意してあるから、サインして
安田
……それじゃあ、「一目惚れ」と言ったのは嘘だったのか？
玲奈
そうよ
安田
……付き合ってるとき、「好き」と言ったのは？
玲奈
だから、嘘だって
安田
僕たちの結婚生活は、全て偽りだったというのか！？
玲奈
何度も言わせないでよ
玲奈
そもそも、あんたみたいな安月給のつまんない男を、人気女優の私が好きになるわけないじゃない！
玲奈
私はね、年収５０００万以上のイケメンじゃないと、恋愛対象にもならないの！
安田
……
安田
……フフフ
安田
ハハハハハ
玲奈
何よ、いきなり笑いだして
安田はフラフラと歩き、カーテンのそばへ行った。
そして、カーテンレールの上に置いてあった、黒い小さな箱を手に取って、玲奈に見せた。
玲奈
何、それ？
安田
これ、うちの店で売ってる商品なんだ
安田
超小型カメラだよ
玲奈
！
安田
ここに、さっきのことが、映像と音声で記録されている
玲奈
何でそんなものがあるのよ！
安田
愛の記録だよ
玲奈
愛の記録……？
安田
僕は君のことを本気で愛していた
安田
人気女優との結婚生活を、思い出として記録するだけでは満足できなかった
安田
だから、僕は君の全てをビデオに記録することにした
玲奈
……気持ち悪い
安田
カメラはこれ一つではない
安田
風呂場やトイレ、この家の全ての部屋に設置してある
安田
もちろん、寝室でのSEXも映ってる
玲奈
何てことするのよ！
安田
僕と別れるというなら、全てをネットに流す
安田
そうしたら、君は「好感度の高い女優」ではいられないだろう
玲奈
ふざけないでよ！
安田
君はさっき、僕のことを「平凡な一般男性」と言ったけど、それは違う
安田
僕は「人気女優の夫」として、有名人になった
安田
全て君のおかげだよ
安田
ＳＮＳのフォロワーも３０万人いる
安田
僕の投稿した映像は、瞬く間に拡散されるだろう
玲奈
やめて！
安田
君は僕から、一生離れることはできない
電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
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