⚠︎ この物語に出てくる病気は架空のものとなっています。 実在する病気ではありません。
僕は自宅を飛び出して
無我夢中で 病院までの道を駆ける。
一分でも、一秒でも早く病院に行きたいのに 僕の体はそれを聞いてくれない。
心拍数がどんどん上がっていき 息があがってしまった。
ア オ イ
ア オ イ
最近全然会えていないのに このまま終わるなんて、いくらなんでも悔しすぎる…
ひとまず呼吸を一回整えてから 再び走り出した。
ア オ イ
余花さんの周りを深刻そうな顔をした 医者や看護師が取り囲んでいる。
── その時点で、僕は察してしまった。
けど、それを頭の中で言いたくなかった。 考えたく無かった。
イ シ ャ
僕はすぐさま 余花さんの元へ向かった。
サ ク ラ
サ ク ラ
以前のように、あたたかく明るい声が取られたかのように 余花さんの声はか細く、冷たかった。
イ シ ャ
そう言って余花さんを取り囲んでいた医者や看護師は 次々に病室を出ていった。
サ ク ラ
サ ク ラ
ア オ イ
いつもの優しい声。 いつかそれが聞けなくなる時が来るのだろうか。
サ ク ラ
サ ク ラ
サ ク ラ
ア オ イ
サ ク ラ
サ ク ラ
サ ク ラ
サ ク ラ
サ ク ラ
ア オ イ
ふと漏れた言葉。 僕は余花さんが言った言葉を受け入れられなかった。
病室に入った時から分かっていた、 けれど、どうしても可能性に縋ってしまう。
ア オ イ
ア オ イ
サ ク ラ
サ ク ラ
ア オ イ
ア オ イ
直接突き刺されたその言葉に 胸が苦しくて、心が哀しくて仕方がない。
ア オ イ
ア オ イ
サ ク ラ
サ ク ラ
ア オ イ
サ ク ラ
サ ク ラ
サ ク ラ
サ ク ラ
サ ク ラ
ア オ イ
サ ク ラ
ア オ イ
ア オ イ
サ ク ラ
サ ク ラ
そういった余花さんの声はか細く 表情も疲れきっていた。
考えることすら嫌なのに それはもう直ぐ現実になってしまうんだ、
… それまでの時間に 余花さんに伝えたい事は伝え切れるのだろうか、
サ ク ラ
"最後” そんな言葉を聞くだけで 頭がそれを拒否してしまう。
サ ク ラ
サ ク ラ
サ ク ラ
サ ク ラ
ア オ イ
ア オ イ
ア オ イ
サ ク ラ
サ ク ラ
サ ク ラ
… そんなずるい事言わないでよ、 "ずっと”なんて…
サ ク ラ
サ ク ラ
そう言ってあなたは幸せそうな顔をして 静かに目を閉じた。
… もう、どうして幸せという感情には 制限時間があるのだろうか。
気づいたら桜の花弁のように 目元から何かが落ちてきた。
想いが通ったと分かっても、 あなたとは僅かな時間しか一緒にいられなかった。
あなたは、窓の外でひらひらと散る桜の花弁と、 一つの船のように川に浮く花筏と共に消えた。
── いや、余花さんの想いは作品から永遠に消える事は無い。 僕はその想いと出会えるだけで、凄く幸せだ。
ア オ イ
ア オ イ
── 数ヶ月後。 季節はすっかり夏になり、桜の木は翠色の葉に染まっていた。
これからこの葉は黄色や赤色に様変わりし 寒い冬に葉を落とし
また、春に綺麗な桜の花を咲かせるのだろう。
そういや、余花さんも桜が散っても また美しく咲くのが桜の良いところだって言ってたな、
… 空から見てるかな、病院の近くの河津桜の木。
拝啓 余花 桜 さんへ。 作品、完成しました。 貴女から託された想い、しっかり文章に表しましたよ。
作品は、僕と余花さんの共作という形で出しました。 あなたは、ずっと作家のままです。 余花さんの作品に対する想いは、僕にも、読者にも 沢山伝わっていますよ。
これからも、ずっと見守っていてください。 敬具
「 花 筏 と 消 え た 貴 女」 𝑭𝒊𝒏.