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その夜、私たちはランドンさんの家にお邪魔していた。
今朝お見舞いに来てもらったときに、是非にとお呼ばれしていたのだ。
「アイナ様、ようこそいらっしゃいました!
大したものは用意できませんでしたが、ごゆっくりしていってください」
食卓に並ぶごちそう。
今回はつまり、私の復帰祝いである!
お呼ばれしたのは私とルーク、エミリアさん。
他にいたのはランドンさん、バイロンさん。
それに加えて、台所と食卓を往復している彼らの奥さん。
「バイロンさんは初めましてですね。アイナです、よろしくお願いします」
「ははっ! アイナ様、この度は大変お世話になりました……っ!」
私が話し掛けると、バイロンさんは恐縮して返事をした。
「いえ、今回の件は私だけの力では無く――
……バイロンさんは助けを呼んでくださいましたし、ランドンさんは村の人たちをまとめて頂きました。
エミリアさんも村の浄化や私の看病をして頂きましたし、奥様方もみなさんを力強く支えていらっしゃいます。
この村の疫病が落ち着いたのは、皆さんの力あってこそだと思います」
……いかがだろうか、この余所行きの挨拶は。
何様? ……って感じもしなくはないけど、実際に助けてるからある程度は良いよね。
「そう言って頂けると救われます……。
さぁ、それでは食事にいたしましょう!」
ランドンさんの言葉を受けて、お食事会が始まった。
……あ、そうだ。
大切なこと、言い忘れてた。
「ルークも、ありがとね」
隣のルークに、小さな声で囁く。
彼は身内扱いだから、余所行きの挨拶には含めていなかったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目の前に並んだ料理は肉に野菜、郷土料理やスープなど、一通りある感じだった。
宿屋の食事よりも種類が多く、食卓は彩りに溢れている。
……うーん、頑張って作ってもらった感がすごくあるなぁ。
まずは煮物料理に手を伸ばす。
色々な具材が入っていて、野菜の味が見事に調和を取っていた。
肉料理はそのまま肉! ……という感じではなく、ハンバーグみたいな感じだ。
香辛料が効いていて、想像以上にスパイシー。
味付けが何種類もあって、味の違いがなかなか面白い。
スープは落ち着いた味。
味覚をリセットする縁の下の力持ち。そして、ふんわりと癒しを与えてくれる。
「とっても美味しいです!」
私の感想に、ランドンさんは胸を撫で下ろした。
「それは良かったです!
まだまだご用意していますから、どんどん食べてください。
ルークさんとエミリアさんも、どうぞご遠慮せず!」
横を見てみれば、ルークはあまり食べていないようだった。
「遠慮しないで、たくさん食べてね?
私は小食だから、その分は食べちゃって良いから」
「そうですか? それでは――」
ルークは少し申し訳なさそうに、料理に手を伸ばし始めた。
こんなところで遠慮をされても困る、というか――
……むしろたくさん食べて、これからも私をしっかり守ってください!
「エミリアさんも、それだけで大丈夫ですか?」
あまり食べてないなぁ……と思いつつ話を振ると、エミリアさんは困ったような顔を見せた。
「うう……」
「え? 大丈夫ですか?」
「た、食べて良いのですか……?」
「「「「え?」」」」
食卓を囲んでいた一同が、一斉に声を漏らす。
「えーっと……大丈夫……ですよね?」
私はちらっと、ランドンさんに聞いてみる。
エミリアさんの意図が分からないだけに、他の意見も聞きたかったのだ。
「も、もちろんですよ!?
エミリアさんにも、とてもお世話になったわけですから……!」
「いえ、そういった意味ではなく……」
エミリアさんは何かを言い淀んだが、ランドンさんとバイロンさんは彼女に食事を勧めていく。
「そ、それでは……ありがたく頂きます……!」
「どんどんお食べ下さい。
足りなければ追加しますので」
ランドンさんはエミリアさんにそう言った。
エミリアさんは申し訳なさそうに、食卓の料理を取り始めた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……のは良いんだけど。
えーっと……?
隣の席で、エミリアさんが超食べている。
それはもう、気持ち良いほどの量を食べている。
もしかして、職業はフードファイターだったの? ってくらいに食べている。
「エミリアさん……すごいですね……」
「はい、とても美味しいです!」
どうにも話が噛みあっていないが、エミリアさんは幸せそうだし……まぁ良いか。
彼女のおかげで追加の注文が入り、台所は忙しそうに現在進行形で回っているのだが。
「ルークはもう大丈夫なの?」
「ええ、腹八分目です。私はこれで十分頂きました」
……うん、自制がしっかり出来ていてエライ。
私は小食とはいえ、お腹いっぱいまで食べてしまったから……もう、動きたくない。
「ちなみにエミリアさんは、どれくらいですか?」
「えぇっと――
……言わなきゃダメですか……?」
もはや食事をしているのはエミリアさんのみで、他の面々は彼女を眺める感じになっていた。
彼女が注目を集めすぎるのも可哀そうだから、他の話でもしようかな。
「そうそう、ランドンさん。お話があるんです」
「はい、なんでしょう?」
「これを見てください」
そう言いながら、私はセシリアちゃんが作った木彫りの置物をテーブルに置いた。
「これは……セシリアの木彫りですか?」
「ご存知でした?」
「ええ、街に行商に行くときはこれも入れていますから。
本人曰く『可愛い』らしいのですが、私にはどうにも分からず……」
「いえ、可愛いですよ」
「えっ!?」
「可愛いです」
「……そ、そうなんですか?
そ、そう言われてみれば……まぁ、可愛げもある……のか? バイロン、お前はどうだ?」
「え、あ、はい。いや、えーっと、そう言われてみれば……?」
「可愛いですよね?」
私はにっこりと、二人に微笑んだ。
「話は変わりますが、この村はこれからも農業を続けていくんですよね?」
「はい、この村には他の産業がありませんので……。
それが何か?」
「農業の関係で、ちょっとしたものを作ってみたんです」
私はアイテムボックスから瓶をひとつ出して、テーブルに置いた。
「この薬は……?」
「野菜用の栄養剤です」
「は……? 野菜に、栄養剤ですか……?」
「はい。具体的にはこういう効果があります」
そう言いながら鑑定スキルを使い、宙にウィンドウを出して見せる。
──────────────────
【野菜用の栄養剤(S+級)】
野菜に活力を与える。
品質向上(小)、病気耐性(小)
※追加効果:品質向上(極大)、病気耐性(極大)、成長速度増加(大)
──────────────────
ドヤァ……!
ちなみにこれを作ったら、アイテムボックスの薬草系の素材がほとんど無くなったんだけど――
……逆にいえば、それだけすごい効果があるってことだよね。
効果の中で、『極大』なんていうのは初めて見たし。
「こ、これは何ともすごい……!」
「こんなの初めて見ましたよ、村長……」
「もぐもぐ……S+級……アイナさん、すごい……もぐもぐ」
「野菜を作るなら、質で勝負してみてはどうかと思いまして」
私の言葉に、ランドンさんとバイロンさんは驚いた。
「もしかして……この栄養剤を譲って頂けるのですか!?」
「はい、もちろんそのつもりですが――
……もちろん、無料ではありませんよ?」
「あ、そ……そうですよね!
おいくらくらいでしょうか……?」
「100……ですね」
「え……? き、金貨100枚ですか……?」
「アイナ様、さすがにそんな大金は――」
ランドンさんとバイロンさんは口々に言う。
「こちらの木彫り100個で、買い取って頂けませんか?」
「「は?」」
二人の視線は、にっこりと微笑む私の手の中……キモカワイイ木彫りの置物に注がれた。