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※※※



「おいっ!! つまみはっ!? いつまで待たせんだっ!!」


 畳に寝転がり、酒を片手にテレビを見ている父親が、台所にいる母親に向けてそう怒鳴り散らす。いそいそと台所から出てきた母親は、父親の側まで近寄ると口を開いた。


「ごめんなさい、待たせちゃって……」


 手に持った皿を差し出すと、それをチラリと見た父親は思い切りその手を叩いた。


「きゃ……っ!」


 手元から離れた皿は畳に転がり、驚いた母親は小さく声を漏らした。


「こんな不味そうなモノ、俺に食わせるのかっ!?」

「ごっ……ごめんなさい」


 叩かれた手を抑えながら、ビクビクと怯えて謝る母親。そんな母親に怒鳴り散らす父親は、鬼の様な形相で持っていたグラスを壁に叩きつける。

 ガシャーンッとグラスの割れる音が部屋中に響き渡り、驚いた俺はビクリと肩を揺らすと縮こまった。


 外では複数の女性と関係を持ち、家では酒を呑んで酔っ払ってはこうして母親を怒鳴りつける父親。そんないつもの光景に、部屋の隅で蹲《うずくま》る俺はただ黙って時間が過ぎるのを待つしかなかった。


「しけた面しやがって。……あーっ、気分悪ぃ」


 そう言って大きく舌打ちをした父親は、床に転がる酒ビンを蹴飛ばすと部屋を後にした。きっと、女の人のところにでも行くのだろう。


 パシンッと玄関扉が閉じる音を確認した俺は、パッと顔を上げると母親に駆け寄った。


「っ……お母さん。……大丈夫?」

「うん、大丈夫。……ごめんね、公平」


 俺の頭を優しく撫でる母親は、そう言って悲しそうに微笑む。

 畳に膝を着き、そこに散らばった食事を拾い始めた母親。その手元を見てみると、先程叩かれた右手は真っ赤に腫れ上がっていた。


(あんな奴……。早く、死んじゃえばいいんだ)


 拳を握りしめて下唇を噛んだ俺は、足元にいる母親を見下ろして一筋の涙を零した。

 頬に流れる涙を気付かれない様にこっそりと拭うと、母親のすぐ横に腰を下ろして片付けを手伝う。そんな俺を見た母親は、「ありがとう」と告げると、今にも泣き出しそうな顔をして優しく微笑んだ。



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