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一方その頃。

王都から少し離れた位置にある栄えた都市。

その街の外れにある特に大きな屋敷。

ガ―レットたちは屋敷にいた。

彼の父親が所有する、数ある屋敷のうちの一つ。

暇を持て余した彼は、メリーランを連れて、再び剣術道場へと向かった。

だが、そこで思わぬ事態に遭遇する。

様子がおかしい。

いつもなら稽古をしているはずの多くの訓練生たちの姿がほとんど見えないのだ。

いるのは数人の訓練生とダレルのみ。

不思議に思った二人は彼らの元へと向かう。

すると、ダレルがこちらに気が付いた。


「なんだ?今日は休みなのか?」


「…」


ガ―レットの質問に答えることなく、ダレルは黙って睨むような視線を向ける。

普段とは違う彼の様子に、ガ―レットは首を傾げた。


「どうしたんだ?何かあったのか?」


「…」


ダレルは何も言わずに、ただ視線だけを送り続ける。

それがガ―レットの神経をさらに逆撫でた。


「無視してんじゃねぇよ、おい!何とか言え!」


「…うるさいぞ」


「あ?」


「黙れと言っているんだ!」


突然怒鳴り声を上げるダレル。

あまりの迫力に、ガ―レットとメリーランは思わず固まってしまう。


「貴公は先日、騎士団の訓練場で騒ぎを起こした」


「なんだよ急に」


「元騎士団長として、私は見過ごすことができない」


「知らねえな。俺は俺のしたいことをしているだけだ」


ダレルの言葉を聞き、ガ―レットは小さく息を吐いた。

そして次の瞬間――

ダレルは目にも止まらぬ速さで抜刀し、ガ―レットの首筋に木刀を突き付けていた。

一瞬の出来事に、ガ―レットとメリーランは唖然としていた。

しかしすぐに我を取り戻す。


「やる気か?お前は以前、俺に負けてるんだぜ」


「わかっている。今の私では貴公に勝てない」


そう言うダリル。

ガ―レットの言うとおり、彼は以前に敗北している。

と、そこに…


「だから僕が相手をする、ということだ」


「ウチもね、先生の顔に泥塗られて黙っていられないよ」


そう言いながら、二人の訓練生がガ―レットの前に立ちはだかった。

少年と少女のその二人。ガ―レットは彼らを知っている。

『ケルカ・アマルフィ』、と『ルリ・ミナヅキ』。

二人ともガ―レットより少し年下ではあるが、訓練生の中でも最強クラスの二人だ。

しかし、この二人が相手でも、ガ―レットは決して臆することはなかった。

なぜなら理由は単純。

彼は強いから。


「上等じゃねえか。まとめてかかってこい」


「それだと君が不利になると思うけど?」


「あ?」


「だって君は一人、対して僕らは二人でしょ」


「ハンデだよ、ハンデ」


「…後悔しないでよね」


ルリがそう言った直後、三人の戦闘が始まった。

ダレルとメリーランはすぐに下がる。

最初に仕掛けたのはガ―レット。

訓練用の木剣を振りかざしながら、勢いよく駆け出す。

だがそれをルリに簡単に受け止められてしまう。


「動きが単純すぎるよ!」


「そう思うだろ?だけどそれでいいんだよ!」


その強力な腕力でルリの防御を砕く。

そのまま間髪入れず、ガ―レットは攻撃を入れた。


「ぐっ…」


「おらぁ!!」


苦しそうな表情を浮かべる彼女を見て、ガ―レットはニヤッとした。

さらに追撃を加えるべく、木刀を振るうガ―レット。


「させない」


今度は横やりが入る。

それはケルカの攻撃だった。

舌打ちをしながら後退するガ―レット。

そこへケルカがさらなる攻撃を仕掛けてきた。


「はあああっ!」


気合の入った声とともに放たれるのは連続突き。

ガ―レットはそれを難なく避ける。

だがケルカはその隙に距離を取った。


「さすがにやるね」


「当たり前だ。俺は誰よりも強ぇんだよ」


余裕の笑みで答えるガ―レット。

それに対し、ケルカは苦笑いをした。


「でも、あんまり調子に乗ってると痛い目にあうよ」


「ああ?そんなもんやってみなきゃわかんねえだろうが」


「まあ、そうだよね」


彼はそう呟きながら構え直すと、再び攻撃を繰り出した。

激しい攻防が続く中、ダレルはあることに気が付いた。


「本気を出していない…?」


そう、ガ―レットは全力を出しているように見えなかったのだ。

しかしその状態でも、ケルカとルリの二人の方が押されているように見える。


「どうした!もう終わりか!?」


「まだ、まだまだ!」


ガ―レットの挑発に乗る形で叫ぶケルカ。

だが彼の体力は限界を迎えようとしていた。

呼吸が激しく乱れている。

一方のガ―レットはまだ余力を残しているようだ。


「くそぉ!」


そう言って飛び込むケルカだったが、あっさりとかわされてしまう。

そして…


「これで終いだ!」


渾身の一撃がケルカを襲う。

それと共にルリも薙ぎ払う。

勝負が決まった。

この勝負、ガ―レットの勝ちだ。ケルカは倒れ込み、意識を失ってしまった。


「ふぅ」


息をつくガ―レット。

一方、ルリの方は何とか持ちこたえていた。

しかしそれも時間の問題。

彼女の顔に疲労の色が見える。


「おいおい。こんなんでへばってんじゃねえよ!もっと根性見せやがれ!」


「くッ…!意地でも負けないから!」


そう言うと、彼女は最後の力を振り絞った。

戦いを続ける。

しかし…


「はぁ…はぁ…どう…?ウチの…勝ち…でしょ…?」


「いや、俺の勝ちだな」


まだまだガ―レットには余裕があるように見える。

対するケルカとルリの二人はかなり追い詰められているように見える。

この勝負、ガ―レットの勝ちだ。


「くっ…」


悔しそうに下を向くルリ。

それをみたガ―レットが彼女に歩み寄る。

もちろん、慰めの言葉などかけるつもりはない。彼はそういう男なのだ。

しかし、彼は予想外なことを口にした。

ルリの頭にポンと手をのせると、そのまま優しく撫で始めた。

これにはルリも驚く。

ガ―レットはそのまま言葉を続けた。

それは、普段とは想像できないほど優しい声色だった。


「けどお前はなかなかいい腕してると思うぜ。こいつらと違ってな」


「…」


「どうだ、俺と一緒に…」


そこまで言いいながら、ガ―レットはルリに手を差し伸べる。

自分の元へ来ないか?そう誘っているのだ。

しかし、彼女はそれを払いのけた。そしてキッと睨む。

その瞳は怒りで満ち溢れていた。

ガ―レットは一瞬ひるみそうになるが、すぐに表情を引き締めた。


「どうして、いつもそうなんだよ!」


「あん?」


「あんたはいっつも自分のことしか考えてない!周りの人間なんてお構いなしだ!」


突然叫びだすルリに、他の者たちは唖然としていた。

だがそんなことはお構いなしに話を続ける。


「さっきだってそう。ケルカをバカにして!?」


「ああ?」


「だったらなんで手加減なんかするの!?ケルカたちを見下すなら、本気でやって負かせばいいじゃない!」


「お前たちにそんな価値ねえだろ」


そう言ってガ―レットは倒れたままのケルカに目を向ける。

その表情はどこか不満足げに見える。

彼はため息をつくと、ルリたちに背を向けた。


「まあ暇つぶしにはなったぜ。行くぞメリー」


「は、はい!」


そう言ってメリーランを連れてその場を去っていった。

残されたのは気を失ったケルカと、彼女を心配そうに見つめるダレルだけとなった。

メリーランを連れ、市街地を歩くガ―レット。

心配そうにメリーランが呟く。


「少しやりすぎたのでは…?」


「ああん?大丈夫だよ。死んじゃあいねえんだから」


「ですけど…」


「うっせえな!てめえは黙ってろ!」


ガ―レットはそう怒鳴りつけると、再び歩き出した。

暇つぶしはできたが、何か物足りないという感じだ。

そんなことを思っていると、ある人物を見つけた。

ガ―レットはニヤッとすると、その人物に声をかけた。

後ろから肩を叩かれた人物は、驚いた様子で振り向いてきた。

そこにいたのは、美しい金色の髪を持つ女性だった。

彼女の名前はスリュー・ロンド。

騎士団の副団長を務める女騎士である。


「これはガ―レット殿ではありませんか。こんなところで会うとは奇遇ですね」


「ああ、本当だな」


「それで、今日はどのような用件で?」


「ちょっとお前に会いたくなってな」


「えっ…?」


ガ―レットの答えに困惑しているのか、彼女は目を丸くした。

しかし、それも無理はない。

普段、彼とはあまり接しないからだ。

だが、彼女は気を取り直すと笑みを浮かべた。


「嬉しいこと言ってくれますね。でも、そういうセリフは恋人に言った方がいいですよ」


「別に俺は誰にでも言うわけじゃねえよ」


「あら、それは光栄なことですわ」


「それより…」


ガ―レットは彼女の耳元まで顔を寄せると、そっと囁きかけた。


「今夜俺の屋敷に来てくれねぇか?」


「…はい?」


「ど、どういう意味ですか?」


「言わなくてもわかるだろ?」


じっと、スリューの目を見つめながら言う。

彼女の顔がみるみると赤く染まる。

それを心配そうに見つめるメリーラン。

どうやら、その意味を理解したようだ。

そんな彼女を見て、ガ―レットはフッと笑う。

そう思いながら、彼は踵を返した。

本当はルリを誘おうとも考えていたが、どうもそう言う気分では無くなった。

ちょうどいいヤツと出会った、そう思うガ―レットだった。




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