ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。組織名が決まりましたので、引き続き方針を話し合います。
「勢力拡大を目指すなら、新しいシノギを用意しなければなりません」
シスターの言う通り、農園の収益も莫大ではありますが半分はターラン商会に入ります。全ての利益を吸い上げるには、事業そのものを傘下に組み込む必要があるのです。
「とは言え、今はターラン商会と揉めたくはありません。引き続き良好な関係を維持したいものです」
そう、今はね。マーサさん含めてターラン商会は是非とも欲しい。将来的にはマーサさん自らの意志で『暁』に加わってくれるよう仕向けるつもりですが。
「となりますと、新しい事業はターラン商会のシノギと被らないようなものを選ばねばなりません」
セレスティンはそう言って地図を睨みます。
「手っ取り早いのは、薬物や人身売買ですが」
「却下」
シスターの提案を却下します。外道の道ですし、薬物系は警察がうるさいんですよね。ハイリスク・ハイリターン。
「となれば……マーサの商会は陸運が主です。海運には手を出していない筈」
「意外ですね」
物流の主力は海運なのですが、手を出していないとは。
「ここは港町であり、交易の拠点なのですよ?シャーリィ。当然様々な勢力がシノギを奪い合っていて、正直面倒が多いのです」
「なるほど」
つまり、面倒だから新規参入が少ないと。ふむふむ、狙えますね。
「またお嬢が悪巧みしてるぞ」
失礼な、私は良いことしかしません。悪い子ではないので。
「如何なさいますかな?お嬢様」
「決めました、海運に食い込みますよ。セレスティン、港の勢力を調べてください。利害関係までわかれば上出来です」
利権を奪い合っているなら、その対立構造と揉め事を利用すれば新規参入も可能な筈。
「ご期待以上の成果を挙げてご覧にいれます」
「期待していますよ」
新しい方針が決まりました。交易で儲けます。陸運のターラン商会とは揉めない筈。何があってもマーサさんとなら、交渉も可能です。
「お嬢様、宜しいでしょうか?」
「何ですか?ロウ」
黙っていたロウが声を挙げました。
「組織を立ち上げましたので、お召し物にも拘るべきかと。ご成長なさいましたし、いつまでも修道服では示しがつきません」
「そうですか?」
服には無頓着なので、修道服を着回していますが。
「確かに、シスターならまだしも、お嬢は教会の人間って訳じゃないからな」
ベルもロウに続きます。うーむ、確かに信仰している訳でもないし、修道服はあらぬ誤解を与えるかもしれませんね。ちなみにベルには私の素性を明かしています。信頼の証ですね。
「ご意見はありがたいのですが、私は着飾ることに関心がなくて」
「では、こちらのお召し物を。奥様がお嬢様と変わらぬ頃に御召しになっていたものでございます」
セレスティン、それどこから出したんですか?執事の嗜み?なら仕方ないですね。では、折角なので着てみますか。
セレスティンから受け取った服に私室で着替えてみます。流石はお母様、動きやすい仕上がり。
それは、貴族の男性が着るような真っ白な礼服でした。真っ白な上着に白手袋。邪魔にならない程度に装飾が施され、下は短めのスカートに固めのブーツです。まるでパレードの制服みたいですね。動きやすさを重視しつつ、気品を持たせた逸品。
姿見に写るのは真っ白な礼服を着た無表情の女。うん、何だか着せられている感が凄い。ですが、これなら。
「よし」
私はルミの形見である真っ白なケープマントを取り出して羽織ります。うん、修道服では難しかったですが、これなら問題ありませんね。
何だかルミと一緒に居るみたいで勇気を貰えます。これからは、この服装で過ごしていくとしましょう。
着替えて会議室に戻ると、皆さんから好評を受けました。
「おっ、似合ってるじゃないか」
「イメージが変わりますね」
ベルとシスターが誉めてくれます。
「おおっ、なんと凛々しいお姿で!」
「奥様の生き写しですな」
ロウとセレスティンも誉めてくれました。良かった、似合ってなかったらどうしようかと思ってましたから。
「これからは、この服装を心がけます。皆さん、よろしくお願いしますね」
名前も決まり当面の方針も決まりました。次は情報を精査して、行動方針を決めるのみ。
そうそう、二年前にルミを含め孤児院の子達を犠牲にしたヘルシェル博士ですが、まだ生きていますよ。えっ?逃がしたのかって?まさか。
私は教会の地下牢へ向かいました。ただ挨拶をするために。
「ごきげんよう、さあ今日も楽しい時間が来ましたよ?嬉しいですよね?博士」
そこには数多の傷を身体中に負った博士が拘束されています。もちろん周囲には古今東西様々な拷問器具が置かれています。ふふっ。
「ーっ!ーっ!」
博士は恐怖に歪んだ表情で声にならない悲鳴を挙げますが、気にしません。残念ながら、二年間の間に声帯が潰れてしまって…残念です。もっと悲鳴を聞きたかったのに。ルミの嘆きはこんなものではないのに。
「ふふふっ、言ったでしょう?簡単には殺さないと。まだまだ償いには…足りませんよ?貴方が犯してきた罪は、何よりも重いのですから。ふふふっ…」
傷付けては手当てをして生き延びる。博士はこれからもずっとそうして過ごして貰います。私の心の隙間が埋まるまで、ね。
自分が満面の笑みを浮かべるのを自覚しながら、私は牢へと入って行くのでした。
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