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冬の寒さが残る今日この頃。
私は屋上に来ていた。
屋上は唯一の心の拠り所で、思い出の場所。
今日で最後だと思うと、長い時間をここで過ごしたと思う。
最初は助けたい一心で、どんなことにも手を染めた。
何度も世界を壊すと共に、作り物とはいえ命をも奪ってきた。
誰かの大切な思い出も、誰かの大切な人も。
みんなみんな、私の手で壊してきた。
そんな私を、奇跡が救ってくれた。
3学年主任、社会科担当、鈴木弘世。
彼は私よりも20代以上年上だがとても頼れる上司だった。
奇跡とは、まさに彼の事。
彼が私に彼女のことを問いただしてくれなければ、自分の命、彼女の命ですら終わらせてたかもしれない。
彼自身がここに来ることを決断しなければ、きっと、いいや、絶対にこの物語は終わらなかった。
だから彼と出会えてよかった、私はそう思う。
「新原先生。」
私は今日、彼を思い出の場に呼び出した。
記憶を失う前に、伝えておきたくて。
「来ていただいてありがとうございます。」
「いいや、それよりどうしたの?」
キョトンとした顔で、私に聞く。
「…ありがとうございました。」
「え?」
「私、いや、黒闇さんは弘世先生がいなければきっと助かりませんでした。」
「私一人では…とても無理なやり方で、」
そう言うと彼は難しい顔をした。
まるでなにかに悩むように…
「確かに他の方法もあったかもしれない。」
「それこそ黒闇が我々に相談してくれればね。」
でもそれが出来なかったから───
「でも彼女にとって相談することは、辛い…と言うよりは怖いことだった。」
「だから新原さんも黒闇もこの方法を取った。」
「許されることではないけど…救いになったと思うよ。」
その一言で、私の心は少し軽くなった。
確かに許されないけど、誰かのために、彼女のためになったなら…
「私のやってきた事は…」
「無駄じゃない、少なからずね。」
「…あー、良かった。」
「良かったです…」
「でももったいない、というか嫌だな。」
「え、何がですか?」
「今回のことは、忘れちゃいけないってずっと思ってる。」
「でも、今回のことは全部なかったことになるんでしょ?」
「あ…」
確かにそうだ、記憶を失うということは。
自分の罪をなかったことにするのと同じようなもの。
私はそんなの…嫌だ。
「俺は能力なんてないから…どうしようもないけど。」
「まぁ忘れてもきっと体が覚えてる。」
「そう、信じるよ。」
「…そうですね。」
桜が綺麗だ。
終わりを迎えるにふさわしい風景。
きっと、もうこんなことに苦しむ必要はなくなる。
だから、次こそ教師として、人としての心を忘れてはならない。