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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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加賀美side



「社長、僕とデートしましょう」


「はい?」



想定外の単語が剣持さんから聞こえてきて若干声が裏返った


時刻は、午前10時。

伏見さんは、剣持さんに言いつけられて今日の夕飯の買い出しに出ている


「僕、社長室の椅子に座ってみるの夢だったんです!」



「え、会社に行く気ですか!?」



「駄目…でしょうか?」



しゅん、と一気に萎れた花のように気を落とした彼を見て焦る



「あ、いや駄目という訳では…それなら伏見さんが帰ってきてから三人で行きましょう」



パッと良い笑顔で振り返り剣持さんは妙にスラスラと言葉を放つ



「ガクくんなら大丈夫ですよメモ書き残して行けば!それに僕は鞄の中に入れるサイズだけどガクくんは入れないし…」



「普通に人間の姿でいいのでは?」



「日曜日とはいえ会社の方が誰かいる可能性はあるでしょう?ガクくんみたいな一見チャラい青年と社長室に二人で入る姿を見られたら、関係性をどう説明するんです?」


「………。」



中身は、至って真面目だが外見の華やかさを持つ彼が自社の社長室にいる所を想像する

確かに違和感しかない



「ねっ?だから二人で行きましょう」



有無を言わさない迫力を剣持さんから感じて思わず「はい」と答えてしまった






高層ビルの最上階を指すボタンが明滅し、ゆっくりとエレベーターの扉が開く

いつも見慣れたフロアも今日は、なんだか違って見えた


それもそのはず


「わぁー!高いっ!さすが社長の会社、大きいです」


パタパタと草履を鳴らしガラス張りの窓にへばりつく小さな人形。人によっては目を回す景色を存分に楽しんでいるようだ


「もとは、父の会社です。私は継いでいるに過ぎません。努力は、していますけどね」


この階に人の気配が無いことを確認した後。大いに、はしゃぐ剣持さんに苦笑する



「いいえ。僕は、それも含めて加賀美ハヤトは凄いと言ってるんです。七光り?いいじゃないですか!どんどん利用しましょう!」


何故か、ドヤ顔で言い切る彼。呆気に取られて笑いさえ込み上げてくる


「ははっ剣持さんらしいですね」



当然です!と言わんばかりにニッと良い笑顔を見せ社長室と書いてある部屋に嬉々として向かう剣持さん


「これが社長室!」


小さな手で力いっぱいドアを押してみるがビクともしない

背伸びして、なんとかドアノブに手がかかり今度こそと押すがこれも開かない

ほとんどぶら下がるような態勢で


「しゃ、しゃちょー」


情けない声が聞こえてきた


意地悪するつもりは微塵もなかったが絶えられなくなって吹き出す。

ポケットから一枚のカードを取り出し種明かしをした



「すみません、社長室はICカードが無ければ入れません」



「早く言って下さい!!」






ピーッと響く解錠音。

慣れた手付きで扉を開ける。

一日ぶりに入る部屋は、季節的に熱気のこもった空気が流れていた。


「うわ…あついですね窓開けましょう」


風通りを良くしようと対角線にある窓を開けてまわる

新鮮な空気と風が通り過ぎ、やっと息苦しさがなくなった



「社長室って意外と質素ですね」



いつの間にか、ちゃっかり私の椅子に座る剣持さんが驚いたように呟く


入って真正面にシンプルなデスクと椅子

あとは、来客用のソファーと本棚くらい。

機能性を重視した部屋なので確かに無駄な家具やデザインは無いが最近は、どこも似たようなものだろう



「どんな場所を想像していたんです?」



「高そうな絨毯とか革張りのソファーとかシャンデリアとか」



「いや、それいつの時代の富豪ですか」



「ふふ、でもなんかいい気分です。社長一日体験とかしてみたいな〜『加賀美くん君は女性社員を無自覚に誘惑してるらしいね我が社の風紀を守る為にも君は、クビだ!』」



「なんて理不尽…」




テンションの高い彼にツッコミ続けながらも楽しそうな明るい声と表情に、こちらも笑みがこぼれた



「ここで毎日加賀美さんは、お仕事してるんですね」


「はい。」



眩しいものを見るように室内を眺める剣持さん。最後に私の姿を視界に入れると柔らかな微笑みで、来られて良かったと言った。






「あの…。っ…!?」



彼に話しかけようとした瞬間。くらっと目眩が襲う



…え?


グラグラと足下から地面が崩れていくような感覚。


「なんだ…これ」



ついには自身の体を支えられず膝をつき

そのまま床に倒れ込んだ。


瞼だけは、かろうじて開けていると、剣持さんが椅子から降りる姿が見える


目の前まで来るとそっと、しゃがんで私の頬に手を置いた




「急にビックリしましたよね、ごめんなさい。少し眠るだけですよ。実は事情があってこれ以上社長と一緒にいられなくなりました。人間には探せない場所に行くので探したりしないで下さいね。」


ただでさえ強い睡魔に引きずられるのに優しく撫でる彼の手が心地良い

焦った様子のない態度に、これは剣持さんが行った事なんだと察した



「いっぱいお世話になりました。僕社長と暮らすの結構好きでしたよ。一人になっても元気に過ごしてくださいね、幸せを願っています…おやすみなさい…」



最後の言葉を聞いた途端。意識が沼に沈んでいくようで


剣持さんの、寂しげだけど慣れてしまっている声音に


私の方が泣いてしまいそうだった。







つづく


人間から遠ざかりかけた剣持の魂は、異形の力を少し使えるようになってしまっています

とはいえ軽い術だけ

人を眠らせるくらいなものです。

最近の人形は甘党らしいです。【かがみもち・咎人】

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