コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
――昼下がり。
広大な岩場と、たまに草木が生えている程度の、殺風景な景色。
探し物の依頼で指定されたのはそんな場所で、それ以外にはなかなか表現が難しい場所だった。
「え、ここを探すんですか?
アイナさん、大丈夫ですか?」
目の前の広大な景色を見て、エミリアさんは心配そうに聞いてくる。
「うーん、思った以上にだだっ広いですね……。
もう少し場所は絞られていると思ったんですが……」
「この広さで、報酬は金貨1枚と銀貨25枚……なんですよね。
アイナさんが受けなければ、きっと誰も受けなかったのでは……」
「そうですね……。でも、これも人助けですよ。
人助けをしてお金をもらえるなんて、とってもお得な人助けじゃないですか」
「ふふふ。アイナさんって、やっぱり良い人ですよね」
良い人……なのかな?
情けに弱いだけ……とも思ってしまうけど。
「それじゃ、早速始めますね。
ルークとエミリアさんは、何も無ければのんびりしていてください」
「え? 何もしないで良いんですか?」
エミリアさんの質問に、ルークが答える。
「アイナ様が鑑定スキルで探索しますので、それを待ちましょう。
さすがにこの広さでは、私たちが手伝ったところで何の助けにもなりませんから」
「鑑定スキルで……?
……あれ? わたしの知ってる鑑定スキルとは違いますね……」
それ、ガルーナ村の人にも言われたから――
……と内心ツッコミを入れつつ、とりあえず依頼の指輪を探すことにする。
よーし。それじゃ、広い範囲にかんてーっ!
──────────────────
【普通の岩】
──────────────────
【固い岩】
──────────────────
【枯草】
──────────────────
【石】
──────────────────
【サソリ】
──────────────────
【埃】
──────────────────
【回転草】
──────────────────
【空き瓶】
──────────────────
……頭の中を様々な情報が流れていくが、流石にすぐには見つからない。
しかし15分くらいしたところで、ようやくそれっぽいものが引っ掛かった。
──────────────────
【指輪】
──────────────────
「あ! とりあえず指輪を発見!」
「本当に見つけたんですか!?」
驚くエミリアさんを横に、詳しくかんてーっ!
──────────────────
【思い出の指輪】
結婚指輪。夫婦の愛が刻まれている
──────────────────
……うん、多分これだね。
素敵な説明文が書かれていることだし。
「はい、間違いないと思います。
少し歩きますが、取りにいきましょう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
指輪は10分ほど歩いた場所の、今にも枯れそうな草むらの中に落ちていた。
「あ、これですね」
私が指輪を拾い上げると、エミリアさんがそれを覗き込んでくる。
「わぁ~、綺麗な指輪ですね。
ここ、何だか不思議な色に輝いていて素敵です!」
エミリアさんが示した部分は、灰色と黒色の……少し説明しにくい色が煌めきを放っていた。
「本当ですね。へー、すごく綺麗~……」
そんな話をしていると、ルークも指輪を覗き込んでくる。
「もしかして……これは、ミスリルではないですか?」
「ミスリルって、魔法金属の?」
「はい。合金にすると別の色合いになるのですが、ミスリル単体だとこんな色になったかと思います」
へぇ……?
何となく青っぽいイメージだったんだけど、こんな色だったんだね?
一応、調べておこうかな。
えーっと、素材を調べるのは……『創造才覚<錬金術>』だね。
──────────────────
【『思い出の指輪』の作成に必要なアイテム】
・ミスリル×1
・白金×1
・金×1
・ダイヤモンド×1
──────────────────
「……うん、確かに素材にミスリルが入ってるみたい。
ふーん、これがミスリルかぁ……」
「わたしもミスリルを実物を見るのは初めてです!
良いですねぇ、欲しいなぁ……」
……うん、本当に綺麗だ。
赤色とか青色みたいな華美な色ではないけど、しっとりとした大人の雰囲気を感じさせる。
「アイナ様、この依頼はこれで達成ですね」
「本当にすごいですね。合計で30分くらいしか掛かっていませんよ!
これで金貨1枚と銀貨25枚なら……かなり割が良いですね」
「まともに探すなら、割はかなり悪いですけどね……」
私が苦笑して返すと、エミリアさんはなるほど、といった表情を浮かべた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
場所を移して、先ほどとは別の岩場。
「エミリアさん、気を付けて!!」
ルークの声が、大きく響いた。
ラージスネイクを見つけてルークが対峙したところまでは良かったのだが――
……間隙を縫って、後ろに控えていたエミリアさんに向かってしまったのだ。
「大丈夫です! パージング・フィールド!」
エミリアさんと私の周囲に、うっすらとした白い場が生み出される。
この魔法は確か、敵の攻撃力を削ぐ魔法……だったっけ。
ズザザザザ!!
ラージスネイクは声を立てず、砂埃を巻き起こしながら素早く移動していく。
……そういえば、蛇って鳴いたっけ?
いやいや、今はそんなことを考えている場合ではないか。
ズザッ!!
ラージスネイクは白い場を警戒したのか、その手前で一瞬止まった。
エミリアさんはその動きに反応して、攻撃魔法を唱えていく。
「シルバー・ブレッド!!」
聖なる力、その塊がラージスネイクの額に向かって撃ち放たれる――
……のだが、すんでのところで避けられた。
「ああ! エミリアさん、惜しい!」
エミリアさんがラージスネイクと応戦している間に、ルークは猛然とした勢いでこちらに戻って来る。
「ハァッ!!」
ザン……、という音と共に、ラージスネイクには最初のダメージが与えられる。
すると――
「コオオオオオオッ!!」
鳴き声、ではなく激しい息遣い。
ラージスネイクの口から、不気味な音が周囲に響いた。
……身体が大きいだけに、声ではなくてもやたらとうるさい……!
「ルークさん、続けてお願いします!
ホーリー・バインド!!」
エミリアさんが別の魔法を唱える。
その瞬間、ラージスネイクは上から衝撃を食らったような感じでびくっと震えた。
名前からして、恐らくは束縛魔法――
「ハアアアッ!!」
そして、ルークの強力な攻撃がそれに続く。
力強い剣撃はラージスネイクの首筋を斬り裂いて――
……そのまま、絶命させた。
「二人とも、お疲れ様でした!」
「はぁ、はぁ……。いや、すいません。
やはりラージスネイクは後衛に向かってしまいますね。エミリアさんの機転で助かりました」
「わたしが持ち堪えた時間なんて少しですよ。
ルークさんの動きが良かったと思います!」
……ちなみに私は無力でした。
分かっていたけど、やっぱり悲しいところ……。
呼吸を整えたあとは、討伐の証拠品を確保していく。
「ラージスネイクの証拠品って、何だっけ?」
「えぇっと……牙2本か目玉2個ですね」
……目玉はちょっと、生々しいなぁ。
「牙にしておく?」
「そうですね、目玉は扱いが難しいですし」
え? 理由はそこ?
……確かに、運んでいるときに破裂でもしたら……あ、いや、余計なことを考えちゃった。