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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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レオノーラさんに連れられてやってきたのは、大聖堂の中に割り当てられた彼女の部屋。

大きい部屋の奥に小さい部屋があって、そちらは寝室になっているそうだ。


私たちが今いる大きい部屋は、アンティーク調のテーブルや椅子、調度品などが置いてあり、なかなか壮観な感じに飾られていた。


「……さて、と。

それではエミリア様、お茶の準備をするからお湯を沸かしてちょうだい」


「はい、分かりました」


エミリアさんはレオノーラさんから、片手で持てるような小さなポットを渡されていた。


「レオノーラさん、それは何ですか?」


「え? ポットよ」


いや、うん。あれ? まぁそうなんだけど。


「アイナさん。これはですね、火の魔導石が埋め込まれた魔導具なんです。

中に水を入れて、お湯を沸かすことができるんですよ」


「おお、そんな便利なものがあったんですね。ひとつあると便利そう!」


「はい。でも火の魔導石が使われていますから、お値段が凄いですよ」


あ、魔導石を使ってるんだ?

光の魔導石は金貨25枚くらいの相場だけど、火の魔導石はどれくらいなんだろう。

用途がたくさんありそうだし、光よりも高いのかな?


私は光の魔導石と土の魔導石は持っているものの、火の魔導石はまだ持ってないから、相場は知らないんだよね。

……そういえば魔導石は既に2属性を持っているし、いつかは6属性を全部集めちゃいたいかも?


「なるほど、それでは庶民は欲しがらないでおきます」


そんなことを私が言うと、エミリアさんに一瞬じとっとした目で見られた気がした。


「まぁそんなこと言わずに。

せっかくの機会だし、高級な道具を味わっていくと良いわ」


「はい! ところで、これってどうやって使うんですか?」


目を凝らして眺めるも、特にボタンのようなものは無いし……。

何かあると言えば、宝石のようなもの……火の魔導石が1箇所に埋まっているくらいだ。


「仕方ないわね、私がレクチャーして差し上げるわ。

エミリア様、ポットを返して」


「はい、どうぞ」


「それでは使い方を説明するわね。

まず上の注ぎ口から水を入れて、蓋をするの」


そう言いながらレオノーラさんは、テーブルの上にあった水差しで、ポットに水を注ぎ始めた。

水がいっぱいになると、そのまま慣れた手付きで蓋をする。


「そうしたら、ポットのこの宝石……火の魔導石に、魔力を送るのよ」


「あ、魔力の操作がいるんですね。

……それじゃ、私には無理か」


「あら? アイナさんはそんなナリだから、魔法のひとつくらいは使えるでしょう?」


……そんなナリ?

私の服装って、確かに前衛職では無いし……ってことで良いのかな?


「いえ、ひとつも使えないんです。魔法は勉強中でして」


アーティファクト錬金のアクセサリで2種類の魔法を使えはするけど、ここではそれはノーカンだ。


「そうなの?

それならエミリア様に教わると良いわ。教え方は丁寧だから」


「はい、今エミリアさんに教わっているんです」


「それでは、引き続き精進なさることね。

……さて、使い方はそれくらい。簡単に使えて、とても便利な道具でしょう?」


確かに、お湯を沸かすときには便利そうだ。

電気を使わない電気ケトルみたいな感じだから、ルークたちが使うことを考えれば、買っておいても良いかもしれない。


「――お湯はこれで良し、っと……。

エミリア様はお茶を淹れる方をお願いね」


「分かりました!」


「その間に私はアイナさんとお話でもしてるわ。

……そういえばルークさんは、ずいぶん寡黙な方なのね」


今まで話に絡んでいなかったけど、ルークもちゃんとここにいるのだ。

でもルークって、人が多いと聞き手にまわりがちなんだよね。


「そんなことは無いですよ。ねぇ、ルーク」


「はい。ですが私はアイナ様の従者ですので」


うーん?

その言い方って、何だか否定しつつも肯定しているような……。


「従者? ふぅん、あなた方ってそういう関係なのね。

アイナさんって、もしかして貴族のお家柄?」


……あ、話の流れからするとそんな感じになっちゃうよね。

もちろん、この世界でも元の世界でも違うんだけど。


「いえ、私はただの錬金術師です。

えぇっと、ルークとは旅の途中でいろいろありまして」


「いろいろ、ねぇ……。

そこにはコイバナはあるのかしら」


「ありませんね」

「ないですね」


……うん、実際に無いのだから仕方ない。

そういう目でルークを見たことも無いし。


「あら、つまらない。それでは詮索するのは止めておくわ」


レオノーラさんはあっさりと引いてしまった――

……とは思ったけど、これは本当に興味が無いんだろうな。


初対面だし、身分も違う。

そこに興味の持てるコイバナすら無いのであれば、まぁそんなものか。



「お待たせしました、お茶が入りましたよ!」


「エミリア様、どうもありがとう。

それではお菓子を食べながらお喋りでもしましょう」


レオノーラさんは収納の中から小さな缶を持ってきて、中のお菓子をお皿の上に出してくれた。

これはクッキーかな。微かな良い香りが漂ってくる。


「さて、それでは旅のお話でも聞かせてもらえる?

嫌とは言わせないわよ、エミリア様のお仕事は私が代わりにやっていたんだから」


「むぅ、それはありがとうございました……。

そうですね、それではお話しましょう。えーっと……」


「もちろん最初からだからね。

王都を出るまでは知っているから、そのあとよ」


「えっと、そうすると――」


そこからエミリアさんの話が始まった。


まずは王都から『神託の迷宮』に向かうべく、大司祭様の一行に加わって旅に出たこと。

そして宗教都市メルタテオスに立ち寄って、他の宗教と交流を持ったこと。

鉱山都市ミラエルツに立ち寄ろうとしたとき、ガルーナ村からの助けを聞いて行き先を変更したこと。

ガルーナ村では疫病騒ぎがあって、そこで私とルークに出会ったこと。

あとは、ガルーナ村から王都までの旅路を掻い摘んで話していた。


「――……はぁ、なるほど。アイナさんって凄い錬金術師だったのね。

ポーションくらいしか作らない、そこらの錬金術師だと思っていたわ。ごめんなさいね」


ポーションも、立派に役に立つんだけどね……。

そんなことは思ったが、レオノーラさんには悪気はないのだろう。スルーしておくことにした。


「いえ、私もまだ勉強中の身ですので。

でも何か必要なものがあれば、お手伝いできるかもしれませんし、そのときはお声掛けください」


「そうね、何かあったらお願いするわ。

そういえばエミリア様、冒険を重ねて逞しくなったのかしら?

肌艶も良いし、何だか髪質も良くなっているみたい」


……たくさん食べてるから、かなぁ……?

なんてことをぼんやり考えていると――


「そ、そうですか?

それは多分、アイナさんのおかげだと思いますよ!」


……急に、こっちに振られた。


「アイナさんの?」

「私の?」


「ほら、乳液とヘアオイルをもらっているじゃないですか!」


食事のせいでは無い!

そう言わんばかりに、エミリアさんは力を込めた。


「乳液とヘアオイル……。もしかして、それも錬金術で?」


「はい、見てみますか?」


そう言いながら、作っておいたものをアイテムボックスから取り出した。


「凄いわ、アイテムボックスまでお持ちなのね。

それでこの乳液……あら、とっても上物じゃない?

それにこのヘアオイルも――……良いわね」


レオノーラさんは瓶から、それぞれ数滴ずつ取って品定めをしていた。

その様子を見る限り、合格点はもらえているようだ。


「よろしければお譲りしますよ」


「あら、悪いわね。おいくら?」


「いえ、お近づきのしるしに差し上げます」


「……アイナさん。私に取り入っても、良いことはないわよ?」


え、取り入る? ……ああ、そういえばレオノーラさんって王族だもんね。

取り入ろうとしてくる人間なんて、それこそたくさんいるのだろう。


「うーん……。

いえ、私は商売をしているわけではないですし……」


「あら、良いじゃない。商売にしてしまえば?」


「え?」


「これほどの品質であれば、引く手あまただと思うわよ。

私としても、お金で買えた方が気兼ねしないで済むし」


……なるほど、立場がある人ならそうかもね。

タダより高いものは無い、って言うくらいだし。


「そうですね、それでは商売にすることも考えてみます。

今回はその助言を頂けたということで、やっぱりこれは差し上げますね」


「そう? それではありがたく、頂いておくわ。

助言の対価なんだから、何も便宜は図ってあげないからね?」


「はい、お気にせず!」


王都で、錬金術のお店を出す――

……神器のことばかり考えていたから、お店だなんて想像もしていなかったけど……それはそれで面白そうだ。


でも本命は神器の作成だから、その合間に……くらいで考えておこうかな?

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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