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「待って!凛……!最っっ悪……クラス離れた……」
「えっ……?!」
新学期早々、花里凛(はなざと りん)は、小中と高校生の1年間、ずっとクラスが一緒だった大親友の高谷優奈(たかたに ゆな)とクラスが離れ、最悪の新学期を迎えていた。
「ねぇ優奈、私とクラス離れても、部活は一緒になってくれるよね……?!?!」
「もちろんよ。今年も美術部にするの?」
「うん!優奈もそれでいい?」
「あたしは全然いいけど……小学校の頃から絵描くのだけは、飽きないねぇ」
少し感心したように言う優奈に、凛は目を細め、眩しい笑顔を浮かべながらこう言った
「だってすっごく楽しいから」
これは、絵が書く事が大好きな美術部の彼女の話である。
新学期が始まってしばらくたった頃、クラス替えがあったこともあり、去年とは少し空気が違う教室に少し戸惑いながらも、凛は徐々に友達を作っていった。昼休み。いつものように親友の彼女と人気のない階段下のテーブルで、たこさんウィンナーを口に運びながら優奈の愚痴を聞いていた。このテーブル下は、優奈の姉が教えてくれた場所だ。
「……それで、あの石頭仏頂面女が、『高谷さん、もう少し赤みを足した方がいいのでは?』とか言ってきてさ!あたしは青みのある絵が描きたいの!」
石頭仏頂面女とは、同じ美術部の3年生の部長、西巻さんのことだ。この2人は、絵を描く時に使う色が正反対なため、何かと対抗することが多いのだ。凛は、彼女の青みのあるイラストも、西巻さんの赤みのある絵もどちらも好きなため、なるべく否定し過ぎないように彼女の愚痴を聞く。何年も一緒にいる彼女からしたら、もうこんなものお易い御用だ。
そんな様子に薄々気づいてきてしまっている優奈は、凛をジトーっと見ながら、今日も溜めている愚痴を吐き出した。
優奈の愚痴も終わり、放課後の部活もすぐ終わった。凛は、持参している水彩絵の具を片付ける。彼女が中学生の誕生日に貰ったこれは、今も彼女の宝物だ。
「それでは、皆さん。次の活動は水曜日です。水曜日は油絵具を中心に進めたいので、そのつもりでよろしくお願いします。では、片付け終わった人から解散です。さようなら」
優奈が忌み嫌っている西巻さんがハキハキとした声で全体へ知らせる。凛もすぐさま片付け、優奈の片付けを急かした
「早く帰るよ!優奈!」
片付けが苦手な彼女は、ウゲェと顔を歪ませながら何とか絵の具を片付ける。そして鞄を手に取り、不思議な匂いが充満した教室を後にした。そして帰り道、夕日に照らされた空に眩しそうに目を細めながら2人は帰ろうとした。
「ねぇ、明日の課題終わった?」
「え、何それ。」
「数学の!ワークシート出されてたでしょ。」
「うわヤバい!学校に忘れたかも」
頭を抱えながら優奈は大きな声で叫び、鞄の中を確認する。だが、おっちょこちょいな彼女にワークシートは微笑んではくれなかったようだ。学校に忘れたらしい。
「猛ダッシュで取ってくる!!」
「はいはーい。また家帰ったらメールしてね」
「了解!」
そして元から体育会系な彼女は、鞄とポニーテールを揺らしながら、元来た道を逆走して行った。凛はそんな様子をおかしく思いながらも、足を前へ進めた。
「今日はこっちから帰ろう……」
いつも優奈がいるから通らない近道を、今日は通ることにした凛は、少し細い道へと入っていった。
___後ろから何かが来ていることにも気づかずに。