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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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時間は昼過ぎ。私たちは王都から北の、とある場所にやってきた。

そこは――


「『循環の迷宮』!」


岩山に突然現れた、神殿の入口のような佇まい。

その内部には早々に岩肌が見えるものの、圧倒的な広さと存在感を放っている。


「ここが噂の……。

……それにしても、人がいっぱいですね」


「ここは人気のダンジョンですからね。世界中から人が集まっているんですよ!」


以前から話の挙がっていた、王都での目的のひとつにしていた場所。

がっつり挑戦すると何日も掛かるらしいので、今日は入口だけを見学に来たのだ。


私の場合はダンジョンなんて初めてだし、ルークも『神託の迷宮』に1回だけ行ったことがある程度。

エミリアさんは『循環の迷宮』に入ったことはあるものの、そのときは1階だけまわって帰還したらしい。


「そういえば、雰囲気の違う人たちも多いですね」


今まで見たことのない服装だったり、私たちとは肌の色が違う人だったり。

耳が少し尖っていたり、身長がとても低い人だったり。

剣を2本持った人や、いかにも魔法使いっぽい人も結構見掛ける。


「王都から南西に行った港街が、この大陸の玄関になっているんです。

そこからもいろいろな人が訪れるんですよ。

王都よりもダンジョンが目当ての人は、直接こっちに来るくらいですからね」


「なるほど。だからダンジョンの前に、街みたいのがあるんですね」


……そう、ダンジョンの入口の前には各種施設が建っており、道の両側には様々な露店が並んでいる。


「『神託の迷宮』の前には何も無いんですよね。少し離れたところに小さな小屋があるくらいで……。

……それとは全然違いますね」


ルークがどこか寂しそうに言う。

比較対象を実際に見てしまい、ダンジョンの格差に思うところが出てきたのだろう。


「あ、エミリアさん。『循環まんじゅう』っていうのが売ってますよ!」


「あれはとっても美味しいんですよ! ダンジョンから帰還したときに買いましょう!」


「え? 今日は買わないんですか?」


「挑戦する予定がないなら買っていきますけど、いずれ挑戦するならそのときに!」


「なるほど!」


それはそれで、ありなのかな? それなら、挑戦して結果が出たときに買って帰ることにしよう。

凄い結果を出せたら、たくさん買っていくのも良いかもね。


「……ところで、ダンジョンの中ってどうなっているんですか?」


「基本的には広大な洞窟のような感じです。

それが何フロアも下に下に続いていくんですけど、魔物がいたり、たまに宝箱が落ちたりしているんですよ」


「その宝箱が目的なんですよね?」


「はい。それと魔物の種類によっては、体の部位が貴重なものなので……それも、ですね」


「なるほど、そういった感じですか」


「あとは魔石が出来やすいという話も聞いたことがあります。

街で売られているものは、ほぼダンジョン産だっていう話もあるくらいですよ」


「アイナ様の『安寧・迷踏の魔石』はダンジョンの外で手に入りましたが……。

あれはかなり珍しいパターンでしたからね」


「ふむふむ……。

そうなると、冒険者ギルドの依頼でも何かありそうですよね」


「はい、結構ありますよ。

目的のものを買い取るだけの依頼もありますが、ダンジョンに潜るのを1回いくらで~みたいな依頼もありますし」


「そういうのがあるから、ここまで活況なんですかね?

この辺りのお店では消耗品が大量に売っていますし、みなさん頑張ってるんですねぇ」


周りのお店では、ポーションなどの薬類や携行用の食べ物、宿泊用の道具や身の回りのものなどが大量に売られていた。

大量にあるということは、それだけ売れているということだ。


「ダンジョンの挑戦は長丁場になりますから……。

何回も挑戦する方も多いですし、そういった需要をここで引き受けているんでしょうね」


「長丁場……。

ちなみに、ダンジョンってどれくらいの大きさなんですか?」


「ダンジョンによって違いますが、『循環の迷宮』は確認されているだけでも30階です。

ただ、30階は空気に強酸が含まれているとのことで……以前国を挙げての探索団が組まれたときも、そこまでで終わってしまったそうです」


「強酸……その空気に触ったら、火傷でもしちゃいそうですね。

進むことができない環境なら、魔物をいくら倒せてもダメってことですか……」


空気中に、硫酸みたいのが気体として漂っている感じだよね?

そんなところに行ったら、本気で探索どころではなさそうだ。


「……もしかして、アルカリ性で中和できるのかな?」


学校で学んだ、中和の仕組み。

酸性にアルカリ性をぶつけることで、中性にするっていうアレ。


「もしそこを乗り越える方法が分かれば、新しい可能性が広がりますよね!

そもそもその30階ですら、滅多に到達できないらしいですけど」


「私たちのパーティでは、無理ですかね?」


「聞く限りの情報ですと、わたしたちでは5階あたりがせいぜいではないかと……」


「ぐぬ、結構進めませんね……」


「何せ、わたしたちはルークさん頼みですからね。

他に戦闘職の方がいれば、もっと進めるとは思いますよ」


「私だけではアイナ様たちを護りきれるか分かりません。

敵の数も分かりませんし、攻めと守りを同時にこなすのはなかなか難しく……」


た、確かに……。

今まで魔物討伐の依頼も結構こなしてきたけど、基本的には魔物の数が少ないところに、こちらから仕掛けていく形だったからね。


ダンジョンの中では敵の数が不明の上、私たちは仕掛けられる側だ。

……これは、舐めて掛かるわけにはいかないか。


「もっと奥に行きたいのであれば、ダンジョン探索のために仲間を募る……とか?」


「そうなりますね……。

でも命を懸けて富を求める場所ですから、やっぱり裏切りとかも多いらしいですよ。

最終攻略を目指すなら、見ず知らずの人は怖いところもありますし……やっぱり、そこそこな感じが一番かと」


……浅い関係だと、裏切りもある……か。

今の仲間は信頼できる人しかいないけど、適当に集めたらそういうことだって起こり得るよね……。


「ちなみにひとつの階あたりは、どれくらいで進めるんですか?」


「そうですね、6時間くらいでしょうか。

最短ルートで進んでも時間は掛かりますし、宝箱を探すならさらに時間が掛かりますし」


「うーん……。

そうなると、1日で進めるのは2、3階か……」


5階まで進むのでも、2日くらい。

これが30階となると12日くらい……。往復すると1か月コースだね、これは。


「生業にしている人もたくさんいますからね。

素人はほどほどのところで、ほどほどなものを狙いましょう!」


……それも確かに。

でも30階の強酸は、私ならどうにかしようがありそうなんだよなぁ……。

行けさえすれば、の話だけど。


「……私、ダンジョンを甘く見ていました」


「あはは。できないものは仕方ないので、ひとまず5階あたりを目指しましょう!

もし誰か一緒に行ける人がいれば追加で。……ジェラードさんを呼ぶっていうのも有りですよね!」


「そうですね!

でもいろいろと忙しそうだし、スケジュールは確認しないと。

それでは、帰ったら相談してみましょう!」


「はぁい」


「それではアイナ様、今日はそろそろ戻りますか?」


「そうだね、そろそろ――」


「――ちょっと良いかな?」


「え?」


私たちの話を切るような形で、女性の声が聞こえてきた。

その方向を見てみれば……色白で耳の尖った女性が、凛とした雰囲気で立っている。

大きな弓も持っているし、これはどう見てもエルフの人だ!


「話が聞こえてきたんだけど、あなた達はダンジョン探索の仲間を探しているの?」


「初心者パーティなので、あまり無理しないとは思いますが……。

良い人がいれば、くらいですね」


「そう。私もこの大陸に来て間もないんだけどさ……知り合いがいなくて困っていたんだ。

あなた達は人が良さそうだし、私も仲間にしてくれない?」


「人が良さそう……って、理由はそれだけですか!?」


「ふふふ♪ そのツッコミも良いね。

あとは、ある程度の実力者かな……って思ったから。

そちらの剣士さんと聖職者さんは戦闘用のスキルも高いし……あなたは錬金術師だけど、バカみたいなレベルでしょう?」


「……え?

もしかして鑑定スキル持ち――」


「そうよ。それに、あなた達の装備も凄いものばかりじゃない。

アクセサリに『エコー』や『属性統合』なんて付けちゃって」


「ぐふ……。

アイナさん、ここにきてバレバレですよ……」


「そ、そうですね……。情報操作の魔法が間に合いませんでした……」


「そうよ、そういう貴重なものにはさっさと情報操作を掛けるべきね」


「使える人は、探そうと思っていたんですけど……」


「あら、それなら丁度良いわ。私が掛けてあげようか?」


「「「え!?」」」


「私は鑑定と情報操作が得意なの。レベルは41と50だからすごいでしょ――

……って言いたいところだけど、あなたの鑑定レベルは52なのよね……。

鑑定で負けたのは初めて。そういったところでも、興味が湧いたのよ」


鑑定レベルは、実は99だけどね! ……って、それは内緒にしておこう。

でも情報操作がレベル50なのは良い! とっても良いぞ!!


「それじゃ、情報操作の魔法をお願いできますか?

私たちはそろそろ王都に戻ろうと思っていたんですけど……」


「それなら私も付いていくわ。あなた達のことももっと知りたいし。

私の名前はリーゼロッテ。リーゼって呼んでね」


「はい、よろしくお願いします。私の名前は――」


そのあと私たちは簡単に自己紹介をして、そのまま話をしながら王都に戻った。

思いがけず情報操作の魔法を使える人に会うことが出来たけど、信頼できるできない以前に、いろいろとバレてしまったのは痛いなぁ……。


……とりあえず、良い人でありますように。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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