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「……アルベド・レイ」
「よお、久しぶりだな。ブライト・ブリリアント。俺より爵位が低いくせに呼び捨てとは、見過ごせねぇなあ。おい」
何が楽しいのか、ククク……と喉を鳴らしながら笑うアルベド。その様子はまるで悪役のようだったが、何処か安心している自分がいて彼の腕の中に居ると先ほどの震えも悲しみも全て浄化されるような気がした。
アルベドは私を抱き留めたままブライトを、キッと鋭い目で見下ろすとブライトは一瞬怯んだような顔をしたがすぐに表情を取り繕い、口を開く。
しかし、その前にアルベドが先に言葉を発した。それも、物凄く低い声音で。いつもの明るい口調ではなく、とても冷たい声で。
「そんで? ブリリアント卿はエトワール困らせて何したいんだよ。なあ?」
「僕は、困らせたかったわけでは……」
ブライトは視線を落としてそう言ったが、それ以上は言葉を詰まらせてしまい何も言わなかった。先ほどなら、その姿を見てカチンときてただろうが、そんな気持ちは今の私にはなく何故アルベドがここにいるのか気になって仕方がなかった。彼との約束は明日の筈なのに。
そう思って見上げていると、私の視線に気づいたのかアルベドは黄色い瞳をニッと猫のように歪ませ嬉しそうに笑っていた。
「そんなに見られると、穴空いちまうなあ」
「ばっ、そんなんじゃないわよ。そ、それにアンタ、そこ胸! 腕当たってんのよ」
と、私はアルベドの腕の中から抜け出そうともがくがびくともしない。むしろ、さらにギュッと抱きしめられ、私は頬を引きつらせる。
この馬鹿力め! 私が必死にもがけば藻掻くほどアルベドは嬉しそうに笑うので、また先ほどとは違った怒りが彼に対してわき上がってきた。
「胸って、お前胸ないだろ」
「し、失礼な!」
私は、そう言って彼の腕から脱出しようとするが、やはりというべきかビクともしなかった。それどころか、アルベドは面白そうに笑いながら、今度は両手を使って私をぎゅっと抱きしめてくる。
ああ、もういいや。諦めた。
そんな感じで、私が諦め、降参の意思を伝えるとアルベドは良い子とでも言わんばかりに私の頭を撫でながら今度はブライトに視線をうつした。
「な? ブリリアント卿、俺はエトワールとまわる約束してたんだからどっかいってくれねえか?」
「……そう、なんですか?エトワール様」
アルベドの言葉を聞いて、ブライトは私に視線を移す。
どう答えれば良いか分からず、私は視線をさまよわせた。
いやまあ確かに、約束はしていたが……それは明日であって今日ではない。それに、私の意思で……といえば意思というかもう何か言いにくいが、ゲーム内のイベントとして彼と行くことが決まっているというか何というか。まあ、それは事故で、間違って彼と行くという選択肢を押したわけで、私がアルベドと行きたい!と自ら手を挙げたわけではない。
だから、どう答えれば良いか分からなかったのだ。勿論、ゲームの都合で!なんて言えるわけもないし、言ったところで伝わらないだろう。
「まわりたいって私からはいってない。何か、此奴が……アルベドが勝手に」
「ん? エトワールお前も乗り気だっただろ」
「まさか!」
私は、全力で否定する。
そんな事はない。断じてない。だって、イベントだし! 私には推しがいるし!
と、訳の分からない理由になっていないような事ばかりが頭を巡るばかりで言いたいことが一つにまとまらない。けれど、その様子さえもアルベドは楽しんで、またまたあ~何て茶化してくるもんだから、私は此奴に何を言っても無駄だと頬を引きつらせることしか出来ない。
「まっ、約束通りむかえに来てやったんだ。感謝しろよ」
「楽しんでないし、それに、アンタは最終日にむかえにって……言ってたじゃない。なんで今日なのよ」
「まあ、それなりに……理由は色々あるが、それは二人きりになった時にでも話してやるよ」
「アンタと二人きりとか嫌!」
私が声を荒げてそう言うと、アルベドは愉快そうな表情を浮かべ、そして笑った。
その笑顔を見て、私は顔を歪める。本当にこの男は、人を苛立たせる天才だと思う。今すぐ殴りたい衝動に駆られるが、私はぐっと堪えた。
「でも、まあさぁ……お前、俺に感謝しろよ? あと少し遅れたら危なかっただろうな」
「何のこと?」
アルベドは、何か意味ありげな表情を浮べた後、その黄金の瞳をブライトに向けて嘲るように笑った。
「ブリリアント卿、これ貸しだからな」
「……ッ、分かりました。ありがとうございます……」
と、ブライトも何故か納得したようにコクリと頷いていた。
全く二人の会話の意味が分からず、私は首を傾げるしかない。けれど、それについて尋ねる前に、アルベドが私を抱き上げてブライト達に背を向ける。
(まッ……! またお姫様だっこッ!)
「な、なんで! 下ろして!」
「今下ろしたら、怪我するぞ」
「下ろすというか、それは落とすでしょ!」
私の言葉など聞く耳を持たず、彼は私を横抱きにしてすたこらと歩いていく。
降ろして欲しいと抵抗するも、やはり力では敵わない。私は諦めて、大人しく彼の腕の中に収まった。
しかし、少し歩いたところでピタリと彼は足を止めた。
「聖女様、ボクとまわるんじゃなかったの?」
そう、声を上げたのはファウダーだった。
命知らずにアルベドの服の裾を掴んで、彼の進行を止めたのだ。すると、当然の如くアルベドは彼を睨みつけた。
まるで汚物を見るかのような目つきに、思わず私も震えてしまう。
けれど、そんな視線を向けられてもなお、ファウダーは引かない。ただ真っ直ぐと光の灯らない瞳で彼を見つめ返していた。
「おい、ガキ離せ」
「聖女様、ボクと……」
アルベドが凄むも、それでもファウダーは動じないいや、寧ろより一層強くアルベドの裾を握っているように見えた。
「聖女様はボクとまわってくれるよね」
と、無邪気な笑顔を浮かべているけれど……目が笑ってなくて怖い。その威圧感に私はビクッと肩を揺らした。
そして、その様子にいち早く気づいたのは私ではなく、彼だった。
私の頭を撫でながら、 ふーん、と低い声で呟く。
すると、ファウダーは更にアルベドにしがみつく。けれど、それは逆効果だったようで……彼の纏う空気が一瞬にして変わったのを感じた。
これはまずい、と私は口を開く。
「ごめんね、君とはまわれないの」
「じゃあ、聖女様はこの人とまわるの?」
「うーん、そう言うわけじゃないけど。君とはまわれない。ごめんね」
そう、私が言えばまだ納得してなさそうな顔でファウダーは私を見上げていた。アルベドはと言えば、先程までとは違い機嫌良さそうに鼻歌を歌っている。
(ほんと、アルベドって読めないな……)
ファウダーはといえば、少し不満げな表情を浮べたまま、ゆっくりと手を離すとアルベドから距離を取った。
やっと諦めてくれたのかとほっとしていると、ファウダーはくるりと踵を返す。
「ファウ……これ以上、エトワール様を困らせてはダメです」
と、ブライトはファウダーを引き寄せて、私から遠ざけた。
そうして、引きつった顔でにこりと笑ったブライトは私とアルベドに頭を下げてファウダーの手を引きながら歩いて行く。
その間にもファウダーは聖女様、聖女様と私の名前を呼んでいて悪いことしちゃったかな……と少しだけ良心が痛んだ。でも、子供と二人きりでまわるのはちょっとと思っていたため結果敵には良かったのかも知れない。
そんな二人を見送りながらピコンという機械音がなり、ブライトの好感度が上昇していた。
(25……か、上がったところで、下がった相手だもの)
その姿が見えなくなると同時に、私は大きく息をつく。まだ、完全には心の傷は癒えていなかったし、これからブライトとどう付合っていけば良いか分からなかった。
そんな事を考えていれば、ふとお姫様だっこをされているという事実を思い出しアルベドに抗議の声を上げる。
「いい加減下ろしなさいよ」
「イイだろ、別に。お前も、歩かなくてラッキ~じゃないのかよ」
「全く!」
確かに、疲れているから助かるけれど。
けれど、それとこれとは別問題だ。お礼を言うつもりなんて微塵もないし、今すぐ矢っ張り下ろして欲しい。そう、彼の腕の中で暴れるが勿論びくともしない。
「そんなに、拒絶されるとさすがに悲しいなあ」
「絶対そんなこと思ってないじゃん」
そうかもな。とイイながら笑うアルベドの好感度はピコンと37になっていた。