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外の風が肌に当たる。少し涼しいような生暖かいような不思議な温度の風が肌を撫でる。

靴の踵を踏んでいるせいでスリッパのような状態になり

トタントタンと踵部分が床に当たる音がマンションの外廊下に響く。

外へ出たところで通話ボタンをタップし、耳に当てる。

「あ、もしもし?」

母の声。僕はマンションの廊下の腰壁と呼ばれる胸くらいの高さのコンクリートの壁に

肘をつき、母と電話をした。

「もしもし?なに?」

「なにじゃないよ。夜ご飯お友達のお家で食べさせてもらうんでしょ?」

さすがに「外で友達と食べて帰る」というのはどうかと思ったので

「女の子の実家で」という点は伏せて、その他は正直にLIMEで伝えていた。

「うん。お母さんが作ってくれるらしい」

「あの大学の友達でも小野田くん家でもないんでしょ?」

「あぁ鹿島ね」

「そうそう鹿島くん。鹿島くん家でもないんでしょ?」

「うん。そうだけど」

「ちょっとご挨拶したいからお母さんに代わって?」

「は?え?」

「いや「は?」じゃなくて、息子がお世話になるんだからちゃんとご挨拶しなきゃだから」

「あぁ。…わかった。ちょっと待ってて」

そう言いスマホの通話画面のマイクオフのボタンをタップし、一息つく。

外はもう暗く街灯が点いていた。

3階とあまり高くはないが見慣れない街並みを見下ろしてみる。

一軒家は明かりが点いている家が多く

マンションなどの集合住宅は一人暮らしの方も多いせいか

まだ明かりの点いていない部屋も多かった。

まだ帰っていない方は仕事で残業しているのか、個人的に飲みに行ってるのか

はたまた上司に付き合って飲んでいるのか。

「お疲れさまです」

頭を軽く下げ呟く。しかしよく考えたら大学進学を機に上京し

一人暮らししていて、ただ遊び歩いてるだけかもしれない。

そう思うと空間に吐いた「お疲れさまです」の3割くらいを返してほしいと思った。

陽が落ちてすぐの少し暖かい春の匂いを鼻から目一杯吸い込む。鼻から目一杯息を出す。

そして踵部分を踏んだ靴をトタントタンとさせ

マンションの外廊下に響かせ、根津家の扉を開ける。

靴を脱ぎ、踏んでいた踵部分を直す。廊下を進み、リビングへ行くと

「あ、おかえりなさーい」

と姫冬ちゃんが腕の中に猫を抱き迎えてくれる。

「あ、うん。ただいま?」

そう姫冬ちゃんに言った後キッチンに体の向きを変え

「あのぉ〜」

と料理中の妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんに話しかける。

「ん?どうかした?」

「お料理中のところ申し訳ないんですけど、うちの母がご挨拶したいと…」

とスマホを控えめに差し出す。

「あ、ちょっと待ってね」

そう言いピッっとIHの火を止めシンクで手を洗い

シンクにパッパッっと水滴を飛ばし、タオルで拭いた後、僕の手からスマホを受け取る。

「あ、今こっちの音声ミュートにしてるので」

と言い妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんが僕のスマホを耳にあてる前に

まだ僕から受け取って間もない妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんの手にある

僕のスマホの通話画面のマイクオンのボタンをタップする。

「あ、すいません。もしもしぃ〜」

会話が始まった。なにを言われるか気が気ではなかったが

妃馬さんと姫冬ちゃんが座るソファーに向かう。

姫冬ちゃんがシャム猫のような猫を腕の中に抱いていた。

「この子が雪ちゃんです。ラグドールです」

「あ、その子がさっき紹介しようとしてくれてた?」

「はい!ですです!」

視線をラグドールの雪ちゃんに向ける。すごく可愛かった。

鼻部分と足先が白く、目の周りと耳が灰色だった。

その雪ちゃんが姫冬ちゃんの腕の中で脱力していた。

「可愛いね〜。めちゃくちゃくつろいでる」

「ラグドールってそういう種類なんですよ。お人形みたいに大人しいっていう」

「へぇ〜。あ。だからラグ「ドール」なんだ?」

「らしいです。んで」

と姫冬ちゃんが隣の妃馬さんに視線を送る。その視線の先を僕も見る。

すると豹柄のスラッっとした猫が妃馬さんの太ももに丸くなり寝転んでいた。

「うわカッコい」

「この子がヒョウちゃん。普段はヒーちゃんて呼んでます」

「おぉ、見た目まんまの名前だね。女の子?」

「そうです。ちなみに「ヒョウ」はあの猛獣の「豹」じゃなくて

「氷」って書いて「ヒョウ」です。なんとなくクールな感じがしたし

元々雪ちゃんが最初にいて後からヒーちゃんが来たので

雪ちゃんと仲良くなってほしくて「雪」と通ずる名前にしたくて

パッっと出たのが「霰」でその次に「雹」が思い付いて

「あっ、雹っていいな」と思ってスマホで「ヒョウ」って入れたら

「氷」が出たので「雹」より「氷」のほうが綺麗だし

イメージに合ってるなと思って「私が」付けました」

よっぽど誇らしいのか自慢げに説明する姫冬ちゃん。

「撫でても大丈夫かな?」

「はい!雪ちゃんは大丈夫だと思います」

僕は姫冬ちゃんが抱っこしているラグドールの雪ちゃんの顎下を人差し指でクイクイと撫でる。

雪ちゃんの様子を見ると顎下を撫でようと腕を伸ばしたときはこちらの動向を確認していたが

顎下を撫でると気持ちよさそうに目を瞑っていたので

ゆっくりと頭に手を伸ばし、優しく頭を撫でてみる。撫でさせてくれた。

体の毛足は長いが頭周りは毛が短くサラサラとしていた。

「大人しいねぇ〜」

「この子は種類もありますけど基本的には大人しいですね」

「氷ちゃんは?」

「あの子はーまぁ人懐っこいほうではあると思うんですけど

そんなにすぐはって感じかな?」

「あぁ。残念」

「でもチャレンジしてみてもいいかもですよ」

そう言われたのでソファーの背もたれ側の真ん中から

妃馬さんの太ももも上で丸くなるベンガルの氷ちゃんに人差し指を伸ばす。

すると氷ちゃんは僕の人差し指の先を鼻をヒクヒク、ピクピク動かし匂いを嗅ぐ。

お!イケるか?と思ったらスッっと立ち上がり

スラッっと長い脚を優雅に動かし、ダイニングテーブルの下に行き、そこで寝転がった。

「あぁ、ダメだったか」

「まぁ猫ですから。気まぐれですよ」

僕は回り込んで姫冬ちゃんと向かい合うように

ソファーの前のローテーブルの下に敷いてあるラグの部分に胡座をかく。

「ちょっと怜夢さんが座れないじゃん!」

「お姉ちゃんがあっち座ればいいじゃん」

「「私の」お客さんです!」

「あ、お姉ちゃん今「私の」強調した」

「う、うるさいなぁ」

僕はそんな仲良し姉妹のやり取りを微笑ましく見守った。

すると視界の斜め右上のからスマホが差し出された。

差し出されたスマホを受け取りながら、ふっと顔を上げると

妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんが立っていた。

「あ、ありがとうございます」

「お母さん良い方ね!ちょっと長く話しちゃった」

「あ、あぁ」

どう返答していいかわからず変な相槌が出る。

「夜ご飯もうちょっとで出来るからねぇ〜」

「ありがとうございます」

「あんたたちどっちか退くか詰めて暑ノ井くん座らせてあげなさいよ」

妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんはそう言いながらキッチンへ戻って行った。

猫舌ということ。

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