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「はぁ、お疲れ様……」


「お、お疲れ様です」

「アイナさん、やたら疲れていませんか?」


コンラッドさんのお屋敷から戻ったあと、私たちは宿屋の食堂でデザートを食べながら休んでいた。


夕食会のデザートよりも格は落ちるけど、気取った感じがしなくて気楽に食べられる。

やっぱりそういうところで、私はしっかり庶民なのだろう。


「いやぁ、ああいう場は本当に慣れてなくて」


「途中で思わぬ乱入もありましたし……。

確かに、気疲れはしてしまいました」


「そうそう、あの奥さんも凄かったですよね!

コンラッドさんの困った顔と言ったら――」


エミリアさんはそこまで言うと、ひとりで笑いを堪えていた。


「そういえばアイナ様、薬の依頼を受けていましたね」


「だって、あの流れでは断れないでしょう?。

『浪費癖を治す薬』なんて、本当にあるのか分からないけど」


手持ちの素材から作れそうなものを探してみたけど、特に該当するものは見つかっていない。

こんな薬のために、ユニークスキル『英知接続』を使いたくもないし……。

……体調が悪くなる副作用が無ければ、がんがんに使い倒すんだけど。


「それでは、適当に誤魔化しちゃいますか?

この街を出てしまえば、こっちのものですし」


ミラエルツから一旦出てしまえば、次に来るのはクレントスに戻るとき……になるのかな?

他には何かしらの理由で、アドルフさんの鍛冶屋に寄る必要が出来たとき……とか。


「そうですね……。まぁ、もう少し考えてみます。

あと気になったのは、ダイアモンドの件ですかね?」


「あー、あれ!

わたしも思ったんですけど、ジェラードさんが売ったやつですよね!」


「そうとしか思えないタイミングですよね。

ちょっと、本人に聞きたいところなんですけど」


「呼べば、来るんじゃないですか?」


ルークがしれっと、そんなことを言い始めた。

……そんな冗談も言うんだ?


「えぇ、まさか……?

それじゃ、呼んでみちゃうよ?」


「はい」


ニヤニヤしながらルークに言うと、彼は至って真面目に返してきた。

……くっ、冗談で言ったのに。



「ジェラードさん、いますかー?」


「呼んだかな、アイナちゃん!」


……本当に来たし!?


「私たちが戻ってから、ジェラードはずっと側にいましたよ」


「え? そうだったの?」


「ルーク君、ネタばらしはよくないな。

せっかく運命の出会いを演出したかったのに」


「巧妙に気配を隠しながら、そんなものを狙わないでください」


「くっ……、さすがに君にはバレてたか。

仕方ない、引き続きアイナちゃんの護衛は任せておくとしよう」


「あなたに言われるまでも無いです」


……何だかんだで、ルークとジェラードの絡みは面白いな……。

っと、今はそうじゃなくて。


「あー、ジェラードさん。少しばかりお聞きしたいことがあって」


「うん、何かな?」


「ちなみに、今までの話は聞いてませんでした?」


「さすがに無断で盗み聞くほど、不作法ではないよ。仕事だったらするけど」


……ああ、基本は真面目な人だったね。

そうだった、そうだった。


「えっと、ダイアモンド原石を売ってきてもらいましたよね?

あれってその――アン……ごにょごにょ……さんって人に売りました?」


一応、守秘義務があるかもしれない……という配慮で、名前を微妙に伏せてみたりする。


「あれ?、何で知ってるの?

アイナちゃんの情報網、すごいなぁ」


「いえ、偶然なんですけど……。

先ほどまで、コンラッドさんのお屋敷に行ってまして」


「あ、そうか。その奥さんからの繋がりか……なるほどね」


ジェラードは一瞬にしてすべてを悟った。

人間関係の把握や洞察力は、さすがといったところか。


「そこから話が伝わったとなると、奥さんはうるさく騒いでなかった?」


「よく分かりましたね。

夕食中に乱入して、コンラッドさんにダイアモンドをせがんでましたよ」


「だよねぇ……。あの奥さん、そういう人だから。

まだダイアモンド原石を持っているなら、多分買ってくれると思うよ?」


ジェラードは私の方をちらっと見た。


「あー、今はアレしかないかな……」


「……アレ?」


「あ」


ルークとエミリアさんの方を見ると、『言っちゃいましたね……』という目で見られていた。

ま、まぁここで誤魔化すのもアレだし、最後まで言ってしまうか。


「えぇっと……実はもうひとつ、一応持ってまして。

それはちょっと大きいので、売りにくいかなー……って」


「あれより大きいものがあるんだ? アイナちゃんってすごいね……、

どこで手に入れたの? もしかして、自分で作ってるとか?」


「いやぁ、まさかそんな!」


私の様子を見て、ジェラードは驚きの表情を見せた。

その様子に、私も釣られて驚いてしまう。


「……あれ?

私、否定したよね?」


恐る恐るルークに聞くと、一応は頷いてくれたが――


「まぁ、洞察力が高いということでしょう」


……と、後から付け加えて、どこか諦め顔になっていた。


「……マジか。

僕もちゃんと鑑定したつもりだったけど、あれが偽物だったなんて……」


「ああ、いえ、偽物じゃないですよ。

錬金術で作った本物です」


私はそこはしっかり念を押しておくことにした。

偽物だなんて、人聞きの悪い。


「へ、へぇ……?

ダイアモンド原石って作れるものなんだね……。ごめんごめん、僕の無知だったよ」


ジェラードは理解が追い付いていない様子で、少し呆然としていたが――


「まぁ、アイナ様ですしね」

「まぁ、アイナさんですしね」


……ルークとエミリアさんの言葉を聞いて、彼は我を取り戻した。


「え? そ、それくらいで済む話なの!

……いや、僕の右腕も治してもらったし、本当にそういうもの……なのかな?」


何とか納得するジェラード。

……もしかして、今後は『まぁ、アイナちゃんだしね』が加わることになるのだろうか。


「そんなわけで、ダイアモンド原石はもうひとつだけ持ってるんです」


「ちなみに大きさって、どれくらいなの?」


「これくらいですかね?」


私は両手で大体の大きさを伝えた。

ここまで話したならと、素直に伝えてしまったけど――


「………………うん。

アイナちゃんだしね。普通、普通……」


ジェラードは自分に言い聞かせるように、繰り返し呟いていた。


「ジェラードさん、大丈夫です。そのうち慣れますから!」


「……うん、頑張る」


エミリアさんとジェラードは、何かの思いを共有し合った。


「さて、それでアイナちゃん。さっきの続きだけど……多分あの奥さんのことだから、その大きさでも買うと思うよ。

それに、値段もある程度釣りあげられると思うんだ」


「え?」


「あの奥さんの執着心は凄いからね。

もし僕に預けてくれるなら、良い条件で売ってくるけど?」


うーん……。

処分に困ってたから、売ってきてもらおうかな?


「でも、コンラッドさんは奥さんの浪費癖に悩んでいたし……。

ダイアモンド原石を売っても良いか、少し考えてしまいますね」


「アイナちゃんは優しいんだねぇ。

でも、それくらいは何ともないくらいのお金を持ってるから、大丈夫だよ」


「そうなんですか?」


「コンラッドさんは守銭奴って話は有名でしょ?

資産の額は言わないけど、本当にお金は持ってるから」


……もしかして、ジェラードはそこら辺の情報も持っているのかな?

いや、すごいなぁ……。


「ちなみに、もし……なんだけど。

もうひとつ作れるなら、両方とも良い条件で売ってくる自信があるよ!」


「そう言って頂けるなら、お願いしちゃおうかな……?

とりあえず、ひとつ目をお渡ししますね」


「あ、人目に付かないようにね。

ルーク君、エミリアちゃん、壁になってもらえる?」


ジェラードの言葉に、ルークとエミリアさんは立ち上がって壁をしてくれた。

その隙にジェラードにダイアモンド原石を渡して、彼のアイテムボックスに入れてもらう。


「……はぁ、本当に大きいね。

それじゃひとつ目は確かに。もうひとつはどれくらいで作れる?」


「あ、今作っちゃいますね」


「は?」


バチッ


「はい、どうぞ」


「………………………………………………」


……ん? あれ?

ジェラードが固まってるけど……どうしたのかな?


「……あの、アイナさん。

確かに作れることはバレましたけど、一瞬で作れるのはバレてませんでしたよ……?」


――……あああっ、しまった!?

いつもの流れでっ! つい、作ってしまったっ!!


「……い、一瞬で……?

ああ、うん、大丈夫……。僕は信じることができる。何たって、アイナちゃんなんだから……」


ジェラードは口元を引きつらせながら、ふたつ目のダイアモンド原石をアイテムボックスに入れた。



……。


あちゃー、失敗、失敗★

もう、どうにでもなぁれ~♪


……私はアホの子っぽく、そう思うことにした。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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