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ピンク色に染めた髪がくしゃくしゃと撫でられると、私の髪の毛はあっという間にぐちゃぐちゃになってしまう。
しかし、アルベドはそれを気にすることなく満足そうに笑うと、私から手を離した。
私も、それに反抗することも無くされるがままになっていると、アルベドが口を開く。
そして、先程までの笑顔が嘘のように無表情になった。
「何よ、いきなり黙り込んじゃって……」
「いや、ほんとお前危機感ねえなって思って」
「はい!?」
だから意味が分からないんですけど、という思いでアルベドを睨んでやるとアルベドは呆れたようにため息をつく。
本当に失礼な奴だ。
(言ってくれなきゃわかんないことだってあるのに……)
アルベドは、ブライトのことを毛嫌いしているようだったが、昨日見せたブライトへの態度を見るところ、アルベドはブライトが弟に対して怒っていた理由を知っているようだった。
私も、正直ブライトの行動には驚いたけど、光魔法の家門のブライトと、闇魔法の家門のアルベドがあんな意思疎通できるのもまた驚いた。
ゲームの中だと、アルベドはブライトを見た瞬間にいつも突っかかっていたし、その事でヒロインに当たることだってあった。
ようは、子供っぽいのだ。
だけど、どうだろう。いざ、彼を目の前にしてみれば、子供っぽさと荒さは目立つものの、妖美で目の引く顔立ちや雰囲気を持っていることが分かる。何より、目を引いたのはその紅蓮の髪の毛だ。現実世界のロン毛なんてと思っていたが、いざこの世界が私にとってリアルになってみると、アルベドの髪の長さだけは許せた。エトワール様は結構癖っ毛だから、アルベドのサラサラとしたストレートの髪は、女の私でも羨ましく思う。
私は、そんなことを考えながら、隣を歩くアルベドの横顔を盗み見るが、彼の表情からは読み取れない。
彼は、何を考えているのだろうか。
「危機感ないってどういうことよ」
「言ったろ? 男をベッドに上げるし、いろんな男と交流取ってるし……」
「いや、それは普通でしょ。あ、あ、そのベッドにあげるとか何とかは別として、交流取るのは普通じゃない?」
そう、私が言えば、アルベドは腕を後ろに回して「お前聖女だろ」とぴしゃりと言う。
確かに、聖女という肩書きではあるが中身はオタクの私な訳だし、まあそんなんだから、私は聖女っぽくないって中身を知っても言われるけど。
「聖女だから何よ! オタクでもいいじゃない! だって、人間だし」
「はあ、まあそうだけどよ……ちったあ、大人しく出来ねえもんかねぇ」
と、耳が痛いとでも言うようにアルベドは頭を掻く。
全く、私をなんだと思っているのか。
「まあ、そういう意味で危機感がねえって言ったわけじゃねえけど。お前さ、あのブリリアント卿の弟を見て何も思わなかったのか?」
「え? 普通に可愛いなっとは思ったけど、それが何か? あ、いや、でも……目が少し怖かったというか、近寄りづらいような」
確かに、ブライトの弟、ファウダーは可愛くて無垢な子供だと思った。子供が苦手な私でも、まあ多少は普通に話せたし、この子なら関われそうと思っていたが、ブライトと同じはずのアメジストの瞳からは、底知れぬ狂気が渦巻いているようにも思えた。
だから、怖かったし、彼が執拗に握手を求めてくることに背筋がゾッとした。
それに、無邪気に笑っていたが目が笑っていなかったというか、心がなかったというか。
「そうだな、俺もあれ嫌いだわ」
「あれって、あの子っていいなさいよ! ほんと、貴族らしくないわね……!」
「お前だって聖女らしくねぇじゃねえか!」
私がきゃんと吠えれば、アルベドはぎゃんと吠え返してくる。
お互い言い合っていれば、ふとこちらに視線を向けている射的の店主と目が合った。
「あ、あのぉう……お客さん達、やらねえならどっかにいってくれないか? 列が出きちまってんだ」
「あ……」
振返れば、いつの間にか長蛇の列が出来ていた。
しまった、こんな店の前で言い合っていて……本当にバカップル、痛い喧嘩ップルとか思われたらどうしようと私は、内心焦った。
しかし、アルベドはと言うと焦り1つなく凜としており、私と目が合うとニッと口角を上げた。
「なあ、せっかくだし勝負しようぜ」
「私、こう言うの苦手だし……」
「負けるのが怖い奴の言い訳だな」
「なっ!? べ、別に怖くないし! アンタになんか絶対負けたりしないから!」
「よし、決まりだな」
売り言葉に買い言葉で、私の頭の中には勝つことしかない。
そして、私たちはそれぞれ銃を握りしめて景品を狙い始めた。この店の景品は魔法で浮いてたりはしないけど、銃が思った以上に重くて私の手はぷるぷると震えていた。アルベドは、片手で、それも軽々と扱っている。
てか、矢っ張りこんなの勝負にならないのでは? と思った。何せ、彼は暗殺者だし、こういうの得意そうだし……
そう思って、ちらりとアルベドを見るとまた彼の黄金の瞳とあった。だが、何故か今回はスッと逸らされてしまう。
「エトワール、何か賭けしようぜ」
「賭け? って、これ私絶対不利じゃん。だって、これ持つのだけでも精一杯で……」
「勝負事は賭けがあった方が面白えだろ」
「ねえ、人の話し聞いてる!?」
アルベドは、聞く耳持たずに景品の1つに標準をあわせていた。そんな彼の横顔を見ていると、完全に獲物を狙う狩人の目で、ああこれはスイッチが入っちゃっているなあ何て、私は肩を落とすほかなかった。
これは、やるしかないらしい。
「そ、それで? 賭けって何を賭けるのよ」
「そうだな、好きな人を教えるとかか?」
「女子か! って、なんで、私いないし。アンタだっていないでしょ!」
「へぇ、いないと思ってんのか?」
その言い方だと、いるように聞えるじゃないか、と私は思っているとアルベドの好感度がピコンと音を立てて上昇していた。
いや、ほんと私とか言われたら困るし……
何て、一人自惚れていると、それを察したのかアルベドは「じゃあ、賭けの内容返るか」と引き金に指をあてがった。
(ああ、もうほんと様になっていてむかつく)
私も、彼を真似て合わせてみるが、両手で持ってもやっとでぷるぷると手が震えている。
ダメだなこれ……
アルベドはスイッチが入って、完全に勝負を楽しんでいるようにしか見えないし……
「んじゃあ、あのデカい犬のぬいぐるみ落とした方が何でも好きなこと相手に命令できるってどうだ?」
「わぁ……ありがち。てか、もうぬいぐるみなんて良いのよ! 散々貰ったし!」
「誰に?」
「り……誰でも良いじゃない! ほら、始めるわよ!」
一瞬リースと言いかけてしまった口を閉じて、何事もなかったように私は銃を握りしめる。ここで、リースなんて言ったらまた何言われるか分かった物ではない。
(ううん、それを抜きにしてももうぬいぐるみはいらないんだけど……)
ふーんと、アルベドは少し不満げに返事をしたが、直ぐに銃を構える。
私もそれに合わせて構えるが、やっぱり重すぎて腕が痛くなってきた。
そもそも、こんなの女の子が扱える代物ではないのだ。リースとかグランツは別だ。あの双子も聞けば魔法で重力を操作していたみたいだし。私はそんな魔法、使い方分からないから出来ないけど。
「一緒にうって落とした方が勝ちだからな」
「分かってるわよ」
と、アルベドは犬のぬいぐるみに標準を合わせる。私も彼に後れを取ることなく銃を構える。
私が勝ったら、一日こき使ってやるとがたがたと震える指で引き金を引こうとしたとき、隣で構えていたアルベドがフッと笑った。
「俺が、勝ったらそうだな――――」
そう、アルベドは息つぐと黄金の瞳をカッと見開いた。
「お前にキスしてやる」
「へ……?」
パンッ……と、乾いた音と共に、放たれたコルクは、見事犬に当たると、ぬいぐるみはパフッと音を立てて地面へと落下した。