店の中にはホテルのフロントのような受付があり、座っているのはいかにも柄の悪そうな金髪の男だった。煙草をふかし二人を見ると、歯の欠けた口を見せた。
「へへ、一時間?」
「ん」
慎司は普段出し渋る財布から金銭を出して男に渡した。
真夜の心臓は早鐘を打う。
受付を過ぎると狭い廊下に部屋が並ぶ場所に出た。何の香水なのか、甘ったるく吐きそうな匂いが立ち込めている。
一番奥の部屋の扉を開け、慎司と二人で入った。
狭い部屋にはベッドと、小さなラックしかない。ベッドにはすでに先客がいた。
腹が出たその男は、のそりと立ち上がって近づいてきた。誰もいないと思っていたのでぎょっとする。
「そいつ?」
痘痕の多い蛙ような顔をくしゃりと歪めて言った。怒っているのかと思ったが、笑っているのだと声色で知る。
「兄さん、何、これ」
兄のパーカーを掴んだ。が、振り払うように払われる。
自転車でくっついていた一体感が、一瞬にして引きはがされたのだ。
「そうだよ。使いものになるか試してよ」
「ちょ、ちょっと兄さん」
真夜の声を無視して、ベッドから離れた位置にあるパイプ椅子に座った。
「どういうこと
……。ここ、何だよ……」
隣の部屋から嬌声が聞こえて、一気にすべてを悟った。
ここは、いわゆるいかがわしい店なのだ。
つまり真夜は、慎司にここへ売られたということだろうか。
血の気がじわじわと引いていき、立っていることもままならないほど足元がぐらつく。
突っ立っている彼の腕を、知らない男が引いていく。
ベッドに投げつけられ、全身をひどく打ち付けた。スプリングのない、ただの板間に布団を敷いただけなのだ。
痛みに呆けているうち、ズボンをはぎ取られ、手首を縛り付けられた。
男はひいひいと息を切らし、顔を跨いで陰茎を取り出した。慎司ほどではないが、生臭い精の匂いが強烈に匂る。
陰茎を扱きはじめた男が何やらぶつぶつと洩らしている。震えたままの真夜の顔に、生臭い液体が掛けられた。
「気が利かねぇな!舐めろよ豚!」
「ひ、っ」
無遠慮に頬を叩かれ、すくみ上ってしまった。混乱しながら舌を出して男の陰茎を舐める。苦くて、ちっとも甘くない。
「つまんねぇな。盛り上がりにかける」
男は不満を洩らしながら、真夜の後頭部を掴んで腰を押し付けてきた。
「う、ぐぅう……ッ……」
息がつまりそうになり、吐きそうなのを耐える。
眼を閉じて視界を消す。
慎司がどんな顔をしているか、見たくなかった。
「俺が手伝ってやるよ~」
軽口をたたき、彼が背後にかぶさって来た気配がした。尻肉を割り開かれ、硬いプラスチックの筒が窄まりに入り込む。
「ぁ、くふ……っぅ……!」
滑ったゼリー状の液体が腸内に入り込んでくる。ゼリーのおかげか、尻の感覚が曖昧だ。
「真夜は覚えがいいから。指もすぐに入るんだ」
「んっ、んんっ……ッ……!」
時間を掛けて今まで教えられた行為が、他人の目に晒されている。
蕾をいじくる指の感覚がダイレクトに伝わり、怯えていた股のものが、硬度を持ち出す。
「ふぁ、あっ、あぁ……!」
男の陰茎を舐める余裕がなくなり、手で扱きあげる。その間も慎司が解す蕾が心地よく、腰を振ってすりつけていた。
「もう入るよ」
男の眼球がぬらりと光る。
真夜の手から陰茎を抜き、背後にまわった。代わりに慎司が目の前に膝を折って座った。ズボンの前を押し当てられ、ジッパーを下ろして陰茎にむしゃぶりつく。そうしたら、怒られないと知ったからだ。
男の高ぶりが疼き切った肉口へ擦りつけられる。むず痒い感触に腰をくねらせてしまう。
「あ、は……っ、ん……」
「どうした?何が欲しいんだ?この豚野郎」
男の平手が尻に飛ぶ。波打った尻肉への痛みは無い。それどころか気持ち良いのだ。
目の前の慎司の陰茎を蜜袋から舐め上げながら、己で尻肉を掴みあげる。
「言えよ。豚、何して欲しい?」
慎司が前髪を掴んで罵倒する。
心底楽しそうな、そんな笑みを浮かべている。
心の臓に冷たくなったナイフを突き刺された気分になった。
「……ここに、餌を……ください……」
切れ切れに吐き出していた。
男は高笑いしながら、真夜の腰を掴んで引き寄せる。
「ふぐ、ぅ…っ…!」
奥まで入り込んでも、慎司ほどの圧迫感はない。それでも肉は肉。ぬめついた肉穴が濡れておとこを締め上げる。
「クソ淫乱が!ケツ犯されてイッてんじゃねぇよ!」
がつがつと遠慮なく突かれる。尻を叩かれ、おったてている陰茎を握りしめて絞りあげられる。
びしゃびしゃとだらしなく漏らしながら、恍惚に顔が歪んでいる。
「あ、ひぃ、っ!」
「おら、お兄ちゃんに見てもらえっ!」
男に抱き上げられて蕾を開かれる。くぱりと開いた蕾は、名も知らぬ男を咥えこんで歓喜に蠢いている。
彼は無表情でそれを見ていた。
「あ、ひ、ぃっ、……んんっ」
男が容赦なく肉襞をめくりあげて、挿入を繰り返す。
慎司が揉んでいた胸を揉み、へこんだ乳首を指で摘んで弄られる。
兄が見ている。豚を見るみたいに。
背徳的な快楽が腰に熱を集めさせた。脳髄が蕩けていき、まともに考えられない。ただ犯されたい。だらしなく開いた、肉穴を。
「ぁ、ひぁ、ぃ……っ、みて、にいさ、……ここ、きもち―……のっ……!」
声をあげて笑いながら自分で襞を広げて見せつけた。白い粘液が皺の一つ一つに染みつき、とろとろと溢れている。男がキスを迫ってくる。舌を擦って、男の顎髭を撫でた。
慎司は黙っている。やはり無表情だ。
「にいさ……ぁあぁ……っ!」
ひくりと大きく痙攣して達した。男の精液が腹の中で脈打っている。
真夜は笑っていた。なんで笑っているか、それすらも分からない。そのまま二回ほど男とセックスしたが、慎司が触れてきたのはセックスが終わってから。
泥のように倒れた真夜をシャワールームで洗い、精液まみれの蕾を指で洗ってくれた。
受付の男に何かを言い、金銭を受け取ってから肩に担ぎあげて自転車に座らせ、腰を掴ませてまた自転車で走り出す。
この兄は、屑だと思った。屑でどうしようもないけど、この仕事は自分しかできないのだ。
ぼんやりと風に煽られながら、兄さんと呼んだ。
兄は返事の代わりに、「お前しかできない仕事なんだ」と告げた。
そうか。俺は必要なのか。
真夜はそれ以上、深く聞くことは無かった。
必要もないことだった。
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