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「あの狼、知能がないと思ってたけど、そうじゃない!」
「そうだね、結界から出られないから僕達をここで足止めしようとしてるんだ」
ルクスとルフレは、先程まで走っていたのにも関わらず息一つ乱さずに話している。
私はというと既に体力の限界で二人についていくだけで精一杯だった。
でも、二人の言うとおりだとしたら本当に厄介だ。
あと少し走れば結界の外に出られるというのに、狼はそれを阻止するかのようにわざと広範囲の攻撃をしてくる。
このままでは、いずれ体力が本当に尽きてしまう。
「どうしよっか……」
ルフレが困ったように呟いた。確かにこの状況を打破する方法が思いつかない。
「こうなったら、僕があいつを引きつけるから、二人はその間に走って逃げるんだ」
「「え」」
そう言葉を漏らしたのはルクスだった。
私もルフレも彼の言葉に驚き、思わず声を上げた。
まさか彼がそんなことを言うとは思ってなかったからだ。
すると、ルクスは苦笑いを浮かべながら私の方を見る。その顔は何だかとても悲しそうな表情をしていた。
どうして、そんな顔をするのかと、私は首を傾げ、頭を抱えた。
確かに、ルクスは戦いなれている気がした。だが、彼は子供で魔力もいつまで持つか分からない。私達を一人一人逃がしたとしても、その後一人であの狼と戦わなければならないのだ。
そんなの、無謀過ぎる。
(こんな時に何も出来ないなんて、聖女の力を持っているのに……私は)
私は心の中で叫ぶ。不甲斐なさ過ぎて。
今すぐにこの場から逃げたくて、逃げられるならそれでいいと思っている自分がいたからだ。攻略キャラだから死なないと心の何処かで思っているし、実際、今までもそうだった。
(でも……)
私はチラリとルフレを見た。彼もまた私と同じように不安気な表情をしている。
きっと、ルフレもルクスが死ぬかもしれないことを分かっているのだろう。
私と目が合うと、ルフレは微笑みかけてきた。
それにつられて私も笑顔を作る。そして、二人でルクスの方へ向き直り、彼を見つめる。
彼の瞳には強い意志が宿っていた。それは、覚悟を決めた目だ。
ルフレは私の手を握る。
「ルクスが隙を作ってくれる、次の爆発の後走る。そして、逃げるんだ」
「……ルフレはそれでいいの?」
私は思わずルフレにそう尋ね手を離した。
「このチャンスを逃したら三人とも死ぬかも知れない。それに、僕達が早く騎士たちに情報を伝えられれば、ルクスだって」
結界魔法の中から叫んでもあちらに声は届かないとルフレは言った。そのため、情報を伝えるためには結界の外に出る必要があるのだと。
騎士達も無謀に結界の中にはいって戦っては意味がない。
「いいや、ここに残るのは私だけでいい」
「聖女さま?」
私の言葉に双子は反応する。
私は二人に目で合図を送る。
私だって逃げたいし、昔の私だったら逃げていただろう。でも、目の前の子供を置いて逃げられるほど私は酷い人間じゃない。それに、今の私は力を持っている。
私は、魔法で水の弓矢を作り構えた。
「さあ、二人とも行って! 私は聖女だから大丈夫! 早く、応援を!」
私は双子に向かって叫んだ。ルクスは何も言わずに私を見つめると、力強くうなずき、ルフレと共に走り出した。
私は二人が狼の攻撃をかわし、森の外へと消えるのを確認すると、再び矢を放つ。
それらは全て狼に命中するが、あまり威力がないためか、全くダメージを与えていないようだった。
(やっぱりダメか……)
それでも、時間稼ぎにはなるはずだ。
私は次から次に水でできた矢を作り出し放つが、やはり効果は薄いようだ。
しかし、ここで諦めたら全てが終わってしまう。
(何か手はないの?)
私は必死に考えを巡らせた。
そうしている間にも、狼の猛攻は続き私は狼の起こした突風により吹き飛ばされてしまう。私は地面に叩きつけられ、その衝撃で身体中が痛む。
そして、私の意識は次第に朦朧とし始め、腹部からは血が流れ出していた。
(これは……まずいな)
このままでは確実に死んでしまう。
私は自分の腹に手を当てて止血をしようとするが、傷口は深く出血が止まらない。
私は死への恐怖と痛みによって涙を流し、震えていた。
こんな所で死にたくない。そう思い顔を上げるとすぐそこまで狼が来ているのが見える。
「……嘘、死にたくないッ!」
しかし、思うように身体は動かずただただスローモーションに見え、私はギュッと目を瞑った。
これは、乙女ゲームの世界なのに……
私が諦めかけたその時、突然氷の槍が狼の横腹に何本か刺さり、狼はその場でよろけた。
『グアアァアアアアッ』
そう、狼は断末魔をあげのたうち回る。それはまるで人間のようだった。
続けざまに、火球が狼に直撃し、狼は一瞬にして炎に包まれた。
私は驚きのあまり涙も止まり、呆然としてしまう。
すると、後ろから誰かが私を抱え、立ち上がらせてくれた。
「エトワール様、無事ですか?」
「……ぶ、ブライト?」
私は恐る恐る振り返るとそこには、ブライトがおり、加勢に来た魔道士達が狼に攻撃を始めていた。
私は痛みも忘れ、何故ここに彼がいるのかと不思議でならなかった。
ブライトは私の怪我を見ると、眉間にシワを寄せながら言った。
「今すぐ治療が必要ですね。ここは彼らに任せて、エトワール様を安全なところへ」
彼は私を抱えると、騎士達に指示を出す。
そして、私を抱えたまま結界の外へと連れ出した。
私は彼に運ばれながらも、状況を把握しようと辺りを見回す。狼はまだ倒せていなかったが、数では圧倒的にこちらが有利で目や足を失った狼は、当てずっぽうに攻撃を繰り出していた。
そうして、安全な場所へと私を運んでくれたブライトは私にすぐさま治癒魔法を施す。かなり傷が深いので時間と魔力をかなり持っていかれるだろうと、私は不安になりブライトを見た。
だが、そんなことなど心配しなくて良いというようにブライトは微笑み返してくれた。
「なんで、ブライトがここに……?」
「それは、貴方の侍女から何かが可笑しいと、負のエネルギーを感じるから来て欲しいと要請があったので」
「リュシオルが?」
私は少し驚いてしまった。リュシオルが私が狩りをしている間にそんなことをしてくれていたなんて。
その話を聞いている最中にもブライトは険しい顔をして何かを考えているようだった。
彼は魔道騎士団を動かせる権限はあるし、きっと私の……聖女のピンチと聞きつけてきてくれたのだろう。これが、聖女でなかったら……そう考えるとまた胸が痛い。
「でも、来てみて正解でした。あの狼からは途轍もない負のエネルギーを感じます」
「あの、狼って何なの……? 普通の狼とは比べものにならないぐらい大きくて、強くて……魔法だって全然効かない」
「……エトワール様の考えているとおり、あれは負のエネルギーを元に突然変異したものでしょう。災厄の影響によって負のエネルギーが生き物に寄生することもあるので」
と、ブライトは冷静に答えてくれる。
私はその言葉を聞き、ゾッとした。負のエネルギーは人の感情を増幅させるだけではなく、生き物にも寄生するのかと。考えただけでも恐ろしい。
それにしても、どうしてあんな化け物が突然現れたのか。
私が疑問に思っていると、一人の騎士がこちらに走ってきた。それと同時にピキピキと何かが割れるような音が聞こえてきた。
私達はその音に気づき、音の鳴る方を見る。
すると、結界が張られているという森の見えない壁のようなものにヒビが入り、そして次の瞬間砕け散ったのだ。
「あり得ない……」
そう呟いたのはブライトだった。
「結界が……!」
「嘘……!」
「ルクス、ルフレ無事だったの!?」
私は結界が破られたことに驚き、思わず声が出てしまった。
すると、いつの間にか私の隣に来ていた双子も同じく声を上げる。あの結界はかなり強いものだと、ルクスが呟き、ルフレはあれを破るなんて帝国の騎士団、魔道士でも難しいのに。と付け加えるように行った。
そうして、結界を破った狼は騎士達をなぎ払いながらこちらに走ってくる。
それはまるで私を狙うかのように。
「聖女様をお守りするんだ!」
と、ブライトが指示を出すが魔道士も騎士もかなり戦闘で疲れているのか人数が集まらず狼は、あれだけ攻撃を喰らったのにもかかわらず速度を上げてこちらに走ってくる。
このままでは、私達の命はない。
そう思った瞬間、目の前にシステムウィンドウが現われたのだ。
【メインクエスト:凶悪な魔物から皆を救おう!
報酬:全攻略キャラの好感度+5
聖女の聖魔法《浄化》を使用しますか?】
(メイン……クエスト!?)