コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ぜーはー……何なのよ、あの双子! 見つけたらとっ捕まえてやるんだから!」
森の中、私は肩で息をしながら歩いていた。
あの後、双子にゲームをしようと言われ狩りをすることになりとんとん拍子で話が進んだかと思ったら、森に転移させられた。持たされたのは水と、弓矢だけ。しかし、もう弓矢も残り数本となり、これでは狩りどころではない。
一緒に来たリュシオルも彼らに丸め込まれ、森の外で待機しているし、今まさにぼっちなのである。
狩りなんてした事がないのに、いきなり森に放り出されて。それも、双子は弱い動物しかいないからとかいっていたのにも関わらず、先ほど黒豹とホワイトタイガーを見つけて命からがら逃げてきたのである。
「というか、ここ何処よ……せめて地図ぐらい頂戴よ」
周りを見渡しても木しか見えない。
一体どこにいるのかすらわからない状況だ。しかも、先ほどの黒豹とホワイトタイガーといつ遭遇するかも分からないし、もっと凶暴な動物と遭遇する可能性だって。
私はため息をついて、その場に座り込んだ。もう、迷子だし一生ここからでられない気がして私は、自暴自棄になっていた。そして、そのまま目を閉じて寝ようとしたその時だった。
ガサガサと草をかき分ける音が聞こえた。私はハッとして、立ち上がり弓矢を構える。
すると、現れたのはなんともまあ可愛らしいアヒルが現れたのだ。
「わぁ、可愛い」
思わず、アヒルに近づき手を伸ばすとアヒルは怯えることなく私にすり寄ってきた。
どうやら、人懐っこい性格をしているようだ。こんなところにアヒルがいるなんて珍しい。
「あの双子に見つかってたら、アンタはきっと北京ダックにされていたでしょうね」
そういいながら撫でると、気持ちよさそうな顔をする。まるで、人間みたいだと私は思った。
そんな時、またガサガサと茂みが揺れた。はぐれたアヒルの子供かと思って立ち上がると、現われたのは3メートルを超える強大な熊だった。
「ええええええっと、もしかして、このアヒルのお母さん……!? にしては、毛の色も大きさ持ちが……熊――――――ッ!」
私は弓矢を構え、すぐさま矢を放った。
しかしその矢は、あっさりと熊に掴まれてしまった。人間のように知能があるかのように。
ああ、終わった……と思いきや、私の横を風が通り抜けた。
それは、アヒルが体当たりをしたのであった。
アヒルが、私を庇うように熊に立ち向かったのだ。そして、アヒルは吹っ飛ばされ、血を流しながらも起き上がった。
それを見た熊は怒り狂い、こちらに向かってきたのである。
私は、死を覚悟した。
その瞬間、ヒュン……と私の横を矢が通り過ぎた。その弓矢は見事に熊の目に命中したのである。
弓矢が飛んで来た方向を見ると、そこには宵色の瞳を持つ双子の片割れががいた。
彼は、私をチラッと見るなりすぐに弓を構えた。そして、また矢を放つ。
今度は、二本同時に放ったかと思うと、見事命中し、悲鳴をあげた熊はそのまま逃げていった。
「ルフレーそっちいったよ」
「りょーかい、りょーかい!」
と、熊が逃げていく方向にもう一人の双子が熊の進行を妨げるようにして立ちふさがった。
そして、何やら詠唱を唱え大きな火球を作り出す。それは、以前決闘場でみたものとは比べものにならないほど大きく、青い炎の固まりだった。そして、それを容赦なく熊にぶつけたのである。
すると、一瞬のうちに熊は灰と化し消えたのである。
(助かった……?)
私は、安心からか腰が抜けてその場にへたりこんだ。それと同時に、あまりの威力に私は唖然としていた。
あんな小さな体で、あの巨大な熊を倒すなんて……
「聖女さま死んでる?」
「聖女さまのお墓たてなきゃいけない?」
と、双子はあっけにとられ尻餅をついている私の顔をのぞき込んできた。
私が何も言わないのをいいことに「本当に死んでるんじゃ?」とか「帝国民に何て言おう?」とか物騒で失礼なことを堂々と話している。
確かに、今の今まで死の恐怖を感じていたが、死んでいないし、こうもはっきり言われると腹が立つ。
私は、立ち上がり二人を睨み付けた。
すると、二人はビクッと肩を震わせ私から距離をとる。どうやら、怒られると思ったらしい。
「生きてた。もしかして、ゾンビ?」
「生きてた、生きてた。もしかしてゾンビ?」
「失礼ね! 私は生きてるわよ! それに、怪我もしてないでしょう!」
そう言って、無傷であることをアピールするが二人は顔を見合わせ首を傾げた。
(こいつら、絶対に信じていない…… )
そして、私の言葉を信じる気はないのか、 私の周りをぐるりと一周してからわざとらしく声をそろえ、ほんとだ。とニヤニヤとしながら言ってきた。
その態度にさらにカチンときた。
だが、ここで怒っては彼らの思うつぼだと思い、私は寛大な心を持つ聖女として振る舞うため彼らに一礼した。
「助けてくれたことには感謝してる。ありがとう」
「そうだねー聖女さまは、僕達が来なかったらあの熊に頭から食べられてただろうね」
「そうだねー聖女さまは、僕達が来なかったらあの熊に足から食べられてたかも知れないもんね」
と、口々に言いたい放題言う双子を睨むがどこ吹く風といった様子で全く効いていなかった。
そして、彼らは私に向かって手を差し伸べてきた。
私がその手を取ろうとすると、双子の片方がサッと避けたのである。続けてもう一人も手をサッと引く。
「え? もしかして僕達と握手出来ると思ったの?」
「え? もしかして僕達と握手したかったの?」
そう、また双子揃って私を馬鹿にしたような表情を浮かべ、私に問いかけてくる。
(くっ…… この子たち性格悪い! 知っていたけど!)
こんなことなら、素直に感謝の言葉を伝えなければよかった。と、後悔する。だけど、ここで文句を言うわけにもいかない。
私は年上、お姉さん……こんな中学生のガキを相手にしていたら拉致があかない。
自分にそう言い聞かせ私はうんうんと首を縦に振る。その様子をじっと双子達は見つめていた。
そして、ピコンとあの聞き慣れた機械音が響く。見上げれば、彼らの好感度が5になっていたのだ。
「どーしたの聖女さま?」
「どーかしたの? 聖女さま」
と、双子は不思議そうな顔をして私を見る。
私は慌てて何でもないと誤魔化した。
まさか、好感度が上がっているとは思わなかったが、今はそんなことはどうでもいい。
私は、彼らに助けられた。それは事実なのだから……
「ねぇ、あなたたちはどうしてここにいるの?」
「「ん?」」
「えっと……」
「ここにいちゃ行けないの?」
「ここにいちゃ行けないの?」
双子は困ったようにお互いの顔を見合わせた。私としては別に、彼らがいても構わないのだが、彼らは違うようだ。
私が何も言わず黙っていると、何かを感じたのか双子が私の方を見た。
すると、何故か驚いたような表情をして目を大きく開けている。
一体どうしたというのだろうか…… 私が困惑していると、少しの沈黙の後彼らは噴き出したのだ。
「な、何!?」
「いや、聖女さまは本当に可笑しいなって思って。何でここに僕達がいるかって? そりゃ、あの熊を追いかけてきたからに決まってるよ」
「そうだよ。まさか、運良く僕達が助けに来てくれたとか思ってる?違う違う。熊を追いかけてたらたまたま、聖女さまがいただけ」
そう、双子は先ほどの猫を被ったような口調とは一変してませガキ感半端ない口調で腹を抱えて笑い出す。
確かに、彼らが言った通りだ。
偶然にしては出来すぎだと思っていた。だけど、これで納得した。
彼らは、私を助けに来たのではなく、ただの好奇心から追いかけて来ただけのようだった。
そして、それがバレるとこうやって私を馬鹿にするかのように笑う。別に私は、彼らが助けに来てくれたとは思っていないし、いざとなったら自分の力で何とかしようとは思っていた。出来るか出来ないかは別として。
「ん~聖女さまって、矢っ張り伝説とぜーんぜん違うなあ。もう、まるっと人間って感じ!」
「そうそう。もっと、お淑やかで悟りを開いたかのような聖人かと思ったのに、怒るしドジだし物わかり悪そうだし、ただの人間って感じ!」
そう、双子はさらに追い打ちをかけてくる。
まあ、もう聞き慣れたのだけど。やはり、聖女というものは神聖視されているようだ。
だから、私は双子と向き合って睨み付けてやった。その視線に気づいた双子はどうしたの?とでもいうように笑う。
「確かに、私は伝説の聖女とは似ても似つかないかも知れないけど、これでも魔力量はアンタ達より――――――」
私がそう言いかけた瞬間、木々に止っていた鳥たちが一斉に羽ばたき、地面はこれでもかと言うぐらい酷く強く揺れ始めたのだ。
先ほどまで青かった空も、分厚い黒い雲に覆われゴロゴロと鳴り始める。
突然のことに私は動揺していたが、動揺していたのは私だけではなかった。
「何か可笑しいね、ルクス」
「そうだね、ルフレ……何かが可笑しい」
双子達は顔を見合わせ険しい顔でそう呟いていた。
すると、私達の方へ向かって木をバキバキとなぎ倒しながら何かがこちらに迫ってくる音が聞えた。音と共に地面が揺れ、低いうなり声が聞える。
「聖女さま、逃げよう」
「え……何が、起こってるの……?」
ルクスが真剣な顔で私に言った瞬間だった、茂みから黒い何かが勢いよく飛び出してきたのだ。それはまるで、狼のような熊とは比べものにならない大きさの化け物だった。