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「風邪引いたかも、頭痛い」
「熱はないから気のせいよ」
「ねえ、もっと心配してくれても良くない!? それでも、わたしの親友なの!?」
聖女殿につくと、驚いた様子でリュシオルが駆け寄ってきてくれ、すぐにお風呂の準備をしてくれた。お風呂はもう温泉なんじゃないかってぐらい大きかったし、いい匂いだし最高だった。
身体を洗うのも髪の毛を洗うのも全てメイド達がやってくれて本当に貴族のご令嬢になったのではないかと錯覚さえする。いや、聖女なんだけど聖女を貴族のご令嬢……それ以上の存在だと思って敬ってくれているのだろう。
しかし、お風呂上がりでぽかぽかになったはずの私の体調は一向に良くならずむしろ悪化していく一方で、熱があるんではないかと言うぐらい怠かった。
そう、リュシオルに訴えたのだが彼女は熱はないから大丈夫の一点張りで私の話を無視していた。
それでも親友かと叫んだが、彼女は聞く耳も持たなかった。
「あー怠い。寝ようかな……」
ベッドに横になると、ふわっといい香りが鼻腔をくすぐる。
「ああ、そういえばまた手紙が来てたわよ」
「アルベドから!?」
睡魔が襲いこのまま寝れたら最高だろな……と言うときに、思い出したかのようにリュシオルが声あげる。
そして私の身体はというと、手紙の二文字に反応し飛び起きる。
まさか、またアルベドから手紙が来たのではないかと思ったからだ。
しかし、リュシオルの顔を見るとそうではないようで、彼女は呆れたように桜色の封筒を私に渡してきた。封蝋は黄色で薔薇らしき花が押されている。
その可愛らしいデザインを見て、あの恐怖の黒い手紙とちがって癒やされるなあと思い、早速開封すると、中からは相変わらず綺麗な字で綴られた便箋が出てきた。
「ダズリング伯爵家……ダズリング……んん!?」
差出人はどうやらダズリング伯爵家からで間違いないようだが、その名前に私は思わず目を見開く。
だって、そこの家は確か…… そこまで考えたところで、突然リュシオルが私に抱きついてきたのだ。
それもかなり強い力で。
「双子のショタからじゃん!」
「ちょ、リュシオル痛い」
彼女は、私の首元に顔を埋めたまま力を強めてくる。
彼女の髪から甘い花の匂いがしてくらりとする。
さっきまで体調不良だったのにも関わらず、一気に元気になるのだから我ながら現金なものだ。いや、リュシオルに首締められて頭がクリアになっただけか……
(最後の、攻略キャラ……か)
ダズリング伯爵家とは、この国の宰相を代々務める家系であり、ダズリング伯爵家の右に出るほど財力を持った貴族はいないと言われるほどの富豪。というのも、伯爵の妻が帝国一の富豪であったため、その妻と結婚した伯爵はさらに財力と権力を手に入れたというわけだ。
そして、その宰相の息子、すなわち最後の攻略キャラであるルクスとルフレが住まう所でもある。
「ね、ね。会いに行こうよ。エトワール様~!」
「なんで私よりテンション高いのよ……まあ、でも攻略キャラだし会ってて、損はないかな」
「でしょでしょ! ああ~早く会いたいわ。双子って妄想膨らむじゃない!」
「私を巻き込まないで……」
リュシオルのテンションが高いのは、彼らが双子の兄弟だからだろう。
彼女は腐女子だし、そういうけしからん妄想をしているに違いない。それに、リュシオルはこのゲームをプレイしててこの双子を推していた。まあ、それは自分がヒロインの立場に立って見ていたというよりかは、双子を見守る過激派オタクという目線で見ていたのだろうけど。
私は、乗り気ではなかったがアルベドよりかはうんとましだろうし、攻略キャラでもあるので会っていて損はないだろうと考えた。
これまでどのキャラも無難にあげてきたし、彼らも……
私はそう考え便せんを取り出し手紙を書くことにした。
その様子を後ろからリュシオルが見守る。
「今回も私、ついていくわ!エトワール様」
「……あ、ああ、うん。てか、アンタが見たいだけじゃない」
「そうだけど! でもでも、一人よりかはマシでしょ?」
「まあ、そうだけど……グランツも……護衛だし連れて行こうかな」
私はそう呟いて、あの亜麻色の騎士のことを頭に思い浮かべた。
すると、すかさずリュシオルが口を開く。
「彼は行けないんじゃない?」
「え、なんで?」
「星流祭が近いから、それの会議があるのよ。この時期の騎士は忙しいのよ」
「でも、護衛なしで外出して大丈夫なの?」
と、私が聞くとリュシオルはニッコリと笑って心配ないわ。と私に言ってきた。
「ダズリング伯爵家はここから近いし、あそこは凄い警備雇っていて護衛なしでも十分なぐらいなのよ。それに、星流祭の時期も近づいてきているから、さらに警備が厚くなるはずよ」
「そうなんだ……じゃあ、私達だけで行ってみようかな。リュシオルがいれば心強いし」
「それがいいと思うわ。まあ、私はエトワール様の傍にいるから安心していて」
と、リュシオルは胸を張って言う。
まあ、彼女が乗り気でついてきてくれるなら心強いと私は結論づけて手紙を書き進める。
正直なところ、私は子供が苦手である。
ルクスとルフレは攻略キャラの中でも最年少の十四歳。双子ということもあって魔力を二人で分け合い、普通の人と違い成長速度が遅く身長もそこまで伸びないのだとか。
詳しくは彼らのストーリーを読むうちに分かるのだが、生憎私はリース様以外の攻略キャラの情報をあまり知らない。興味がなかったのもそうだけど、一回しかプレイしていなかったり流し読みしてしまったためでもある。
だから、情報がおぼろげ。
私はそんなことを考えながらため息をついた。
生き残るため取りあえずあって好感度を上げるしかない。それしか私には残されていないのだ。
(でもショタで、腹黒でサディストって……)
なんだか不安になってくる。
いや、もう不安しかない。不安でいっぱいだ。
「エトワール様、どうしたの? 難しい顔して」
「……何でもない」
「そう? 何かあったら相談するのよ」
「あーうん」
(いや、アンタのせいなのよ!)
とは言わず、心の中で彼女を睨み付けながら、そう返事をして私は封蝋で閉じる。
そして、封筒に印鑑を押して、それをリュシオルに手渡した。
リュシオルはそれを受け取り、私の代わりに持って行ってくれることになった。
ああ、そういえば手紙にはお茶会に招待とか何とか書いてあったけど……とぼんやり思い出していると、リュシオルがまたも思い出したかのようにこちらに振返った。
「そうそう、あの二人って狩りが好きなのよ」
「狩り? 私、狩りなんて出来ないけど」
「家の敷地に狩り場を作って、動物放ってるとか噂聞くけど。そこで招いた人達と狩りをするとか」
「ええ……」
リュシオルの言葉を聞きさらに私は不安と恐怖で温まったはずの身体を再びがたがたと震わせるのであった。