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お久しぶりです。桜もすっかり散ってしまいましたね。時雨煮です。


本文ー


「夕ごはん、出来ましたよ。」


台所から響いた明るい声は琴美だった。


「分かった。」


結局、琴美に作ってもらってしまった。


男として本当に情けないと思うのだが到底俺には料理なんて出来ないし、彼女をご飯に連れて行ってやる余裕もない。


なんてことだ、全く格好が付いていないじゃないか。


少し首を捻りながら彼女の方まで歩いていった。


「どうかな?」


彼女の手元にあったのは暖かそうなラーメンだった。


冷蔵庫内の物は勝手に使ってくれていいと言ったのだが、こんなものいつ買ったかも覚えていない。


俺が買った食材はだいたい手を付けていないものが多く、なんにせよ料理をしてみようと意気込むが、結局のところ帰ると他の物に気を取られてそんなこと忘れてしまう。


そんな食卓に今日は同級生女子の料理が並んでいるのだ。女の子と言っても特殊な女の子だけど。


非現実的過ぎる、第1、幽霊とか。


俺は考え込んでしまいしばらく俯いてしまった。


「ダメ…でしたか?」


慌てて正面を向くと心配そうにこちらを見つめる琴美の姿があった。


「い、いやいや…美味しそうだなって…。」


俺のバカ、勘違いされるようなことなんてするな!


すると彼女は一息ついて。


「そうですか。すみませんね。」


「いやいや、こちらこそごめんって。」


彼女は僅かながら笑みを浮かべ、俺の方に歩みを進めた。


「どうぞ。」


明るくて跳ねるようなその口調に少し胸がドキッとした。


それは明らかに可愛いと言うには失礼な領域の話だ。


しかし、清楚というのも少し違う気もする。


とにかく心地よい。


「い、いただきます。」


俺は苦手な箸で麺をようやく掴んだ。


しかしあっという間に落としてしまった。


昔から箸が苦手で仕方なく、特に麺は全く掴めない。


どうやって食べるかと言うと割り箸で食べるしか出来ない。つまり表面のグリップ力の問題だ。


お前は何歳で何人だと聞かれそうだが、実はもう直ぐに成人の日本人なのである。


1回くらいミスを犯すことぐらい誰にでもあること。


もう1回…。


ゆっくり麺を持ち上げて、口に運ぶ。


それだけでいいのだ。


しかし努力は報われず、再び食べることが叶わなかった。


「っ…。」


思わず感嘆の声が出てしまった。


隣を見ると俺のことを凝視する琴美の姿があった。


どこか悲しそうな顔をしている。


もう一度。折角彼女の作ってもらった料理を。


無理だった。


あまりのイラつきに箸を思い切り投げてしまった。


「にゃあっ!」


「こんなもんやってられるかぁあ!!!!」


あまりの恥ずかしさに感情を言葉でかき消した。


「ハヤトくんっ…。」


我に返り、琴美の方を見ると、何故か乙女っぽく倒れていた。


その瞳には涙が浮かんでいる。


「うぅ…、や、やっぱり、私の作った料理なんてぇ…無理だったんですよね…。」


左手で涙を拭い、言葉の合間合間に嗚咽の介入した彼女はとても言い難いが俺の性癖に突き刺さってしまった。


「ご、ごめん…。違うんだ…!ホントは、は、箸が苦手なんだ!」


出来ればまだそのままでいて欲しいが俺にも僅かながらの道徳があるので、必死に弁解した。


「…?」


そんなことを言うと彼女は急に泣き止んで、キョトンとこちらを見つめてきた。


「お箸が…ニガテ?」


その目は人じゃないモノを見ているかのような、理解にそぐわない様な目だった。


彼女の目の輝きが今度は別の形で俺に突き刺さった。


「なんだ…そうならそうと早く言ってくださいよぉ。」


彼女が苦笑いしながら言う。


「ご、ごめん…。」


彼女は別の箸を持ってきて、すっと麺を絡めた。


「どうぞ。」


満面の笑みで麺を俺の口元まで運んできた。


「え、えぇ?」


母性本能だったっけ。女の子の心情は理解が乏しいけど、確かにそんなのが溢れんばかり感じ取れる。


「こうゆーの…キライかな?」


琴美がイタズラに笑う。


「じ、自分で食べるよっ…!」


「そう…。」


少し残念そうに俯く琴美。


「でも、食べられないんでしょ?」


そして開き直った琴美。


それに屈する俺。


「う、うん…。」


「どうしよっかな…。」


首を傾げて前髪をいじる彼女。


暫く気まずい時間が流れ、彼女が急に前を向いた。


「やっぱり『それ』しかないよ!!」


「いやいや!」


流石の俺でも絶賛片思い中の彼女に喜んで食事を物理的に食べさせてもらうという発想には至らない。


でも今、心がキュンキュンしてるのは本当だ。


「ほら!あーんってして!伸びちゃうよ!」


彼女は少し強引に俺の腕を掴み。


「や、やめ!っ…。」


知らぬ間に麺は俺の喉を通過していた。


「っ…!?」


呆気に取られて声も出なかった。


「どう?美味しい?」


大変だ。俺は片思い中の同級生に何てことをしてしもらったんだ。


もう取り返しがつかないぞ。


「え…、う、うん…?」


「なら良かったです!ほら、まだ食べるんでしょ?」


彼女はなんの抵抗もなく再び箸を動かしている。


「え!?えぇ…、まぁ。」


琴美が微笑んだ。


どこか心地よいひと時だった。


味がよく分からなかったことは言うまでもない。





数時間後ー琴美


私が亡霊になってから数日が経過した。


実は私も何故亡霊となったのか、はっきりした理由がみつからない。


死んだ後の世界というのは誰も知らないけど、みんながみんな亡霊になる訳では無さそうだ。


もしそうなら、こんな世間にはなってないはずだ。


自分が誰かに強い憎しみを持っている訳でもなくて、溺愛していたヒトも居ない。


でも確かに一つだけ言えることは私は生前と同じ「宮坂琴美」として自我を持って生活しているということだ。


決して彼の妄想から生まれたモノではない。


ちなみに亡霊は死者の魂が人の姿になったものらしい。


幽霊は死に損なった、成仏しきれなかったモノらしい。


幽霊か亡霊かは分からない。ただとにかく、原因がわからないということ…。


自分が気付いていないとでも言うのか…。


「コトミー。」


彼の声だ。


「洗剤どこに置いたか知らないか?」


彼のそばは居心地がいい。いつもそう思っていた。


昔、バスの席で隣になったことが1度だけあった。


彼は特に何も話してくれなかったけど。すごく、心地良かった。


なぜだかは分からないけど、落ち着いた気分になるというか…なんというか…。


密かに…彼が好きだったのは事実…。


でも、離別して悲しいとか、名残惜しい、そんな感情は湧いてこなかった。


私には遥か遠い存在だった。


彼とひとつ屋根の下で居られる最後の春、彼は大阪の大学に行くことになった。


残り数日でさよなら、複雑な気持ちで廊下を歩いていて、バッタリ会ったのが彼だった。


私にはお母さんは居なかった。私が生まれてから、すぐに姿を消した。


父ひとりで私は育てられ、厳しい家計の中、お父さんは何とか私を高校に進学させてくれた。


しかし、日々最低限度の生活を贈る中、周りに馴染めないことが多く、挙句の果てには虐められたりもした。


それも、思い出したくもないあまりにも酷いものだった。


昔から傷つき易い私にとっては生きているのも辛く、家に帰りそんな姿を父に見せるのも嫌だった。


だけど、川端君はそんな私に優しく接してくれた。


けど…。


帰り道のことだった。私はいつも通り家に帰ろうとしていた。


少し雨の滴り始めた頃、同学年の3人に絡まれた。


どうやらそいつらは私と隼人くんがぶつかったあとの話を聞いていたらしく、散々、吐きそうになるような酷いことを言われては殴られた。


私は抵抗することも出来ずに数時間後そいつらに虐められた。


どうすることもできなかった。


だって、正論だったから。


彼らが去ったころには、私の心はもう再起不能になっていた。


私は、轟音が迫る横の道に体を投げ捨てた。


鈍い音がして私は息途絶えた。





「コトミ…?」


「ハッ…。」


いつの間にか頬が濡れていた。


「大丈夫か…?」


「う、うんん、何も…。洗剤、使い切っちゃったから買ってくるね。」


よく分からない感情をかき消す。


「そ、そうか…。洗剤は俺が買ってくるよ。お前、亡霊だろ?」


「大丈夫だよ、亡霊も他人から認識出来るようにもなれるし。」


「そうなのか?」


「うん。友達と用事あったんでしょ?」


「じゃ、これで宜しくな。」


彼は1000円札を私に手渡した。


「洗剤には多すぎるよ?」


「好きなもの買ってこいよ。」


「もう高3だよ!誰に言ってんのよぉ…。」


そんなことをいうと彼は困った風に笑って。


「よろしく!」


とヒトコト言った。





徒歩10分ほど、そんなところにホームセンターがある。


いつかと似たような雨が降り注ぐ中、彼に借りた男物の傘をさしゆっくりと歩く。


「やっぱり、ホントのこと彼に話した方がいいのかな…。」


自殺したなんて誰にも言えない、まして、彼みたいに私のことを不憫だと思ってくれている人に。


そんな独り言を呟きながら、刻々と時間は過ぎていく。


涙か雨か分からない水滴がときどき手に滲む。


ホームセンターに着き、入り口を潜って、少し進んだところに洗剤があった。


洗剤を持ってレジに並んでいると、あるものが私の視線に捕まっちゃった。


「うぅ…。」


私が生前、大好きだったお菓子。甘いクッキーの間にイチゴのチョコレートが挟まってて凄く美味しい。


お金が余った時、お父さんがよく買ってくれた。


私は3枚ほど手に取り、会計に回した。


これだけは誘惑に負けてしまった。


恥ずかしくて言えなかったけど昨日のカツ丼だってあんな高級なもの初めて食べた。


世の中にはあんなに美味しいものがあるとかと少し泣きそうにもなった。


カバンから1000円札を取り出し、お釣りを受け取ると早々やと立ち去る。


再び傘をさし、来た道を戻った。


帰ったら隼人くんと一緒に食べようかな。


そんなことを考えながら道を歩いているとどこか見覚えのある道だった。


少しの間立ち尽くすと前から来たトラックが水たまりを割いて私をびしょびしょにした。


「ひぇえ…。ついてないなぁ…。」


その時だった。


電柱に何本か花が手向けられているのを見かけた。


そこに前で男が1人、ゆっくり新しい花束を添えていた。


何か独り言を言っている。


水しぶきでハッキリと分からなかった視界が開けていく。





「お父さん…!」


私を愛してくれていた父の姿がそこにはあった。


父はハッとしてこちらを向いたが、再び俯いた。


涙ぐんだ声で私のことを呼んでいた。


「わ、私だって!お父さん!?」


その時、再び現実を知った。


私は死んだのだ。


その場に突っ伏して泣き叫んだ。


どうせ何も誰にも聞こえないのだろうけど。


父は黙ってその場を離れ、どこかへ消えていった。





でも、おかしい…。


私は今は誰にでも見えるようになっていた筈だった。


亡霊として。


何で父には聞こえなかったのだろう。


誰もいなくなり、そこには私ともう1人の自分が水の中で泣いていた。


そんな時急に風が吹き落ちていた傘が飛び私の前を通過した。


「アナタ…。」


「…!」


誰か私を呼ぶ声がした。


錯乱した中振り向くと、電柱の影に黒いフードを被った白髪の女の子が居た。


「だ、だれ!?」


慌てて後ろに退くと、彼女は僅かに笑みを浮かべこちらにやってきた。


前髪が長く、隙間から赤い瞳が見えた。


「え…?わ、私が見えるの…?」


慌てて姿を消したつもりだった。なのに、彼女は確実に私の目を見て話しかけている。


「まぁ、そんなところかな。」


「な、何で私を知ってるの?」


恐怖に怯えて声が震えていた。


「少しお話があるのですが宜しいですか?」


質問には一切触れてくれず、いつ間にか近寄って来ていた彼女に手を取られた。


「さわれるの…?」


「そんなところに座っていちゃ、冷たいでしょ?」


私は困惑しながらも立ち上った。


改めて見てみると彼女は意外と可愛い顔をしていた。


だが、どこか何か足りない。


もしかして…。


ハッとした。


「あなたも…亡霊なの…?」


そう聞くと今度は少し間を置いて。


「まぁ、そんなところかな。」





居たんだ。やっぱり、私以外にも。


「あなたも既に死んでいるんですね…。」


「ええ、そう。数年前、風の強い日に外を歩いていたら、上からビルの足場が崩れてきてね。全国的に報道されたからあなたも知ってるはずよ。烏丸ハルカ、私の名前。」


確かに何年か前、そんなことがあったような気がする。


それがこの人なのか。


「そうなんですか…。」


「ところで、さっきも聞いたけどあなた、自殺したのよね?」


「えっ…。」


彼女の表情が一気に険しくなった。


「自殺して、成仏しきれなかった…。珍しいわね。」


彼女は少し怪訝そうな顔をしている。


「どういうことですか?」


「自殺したヒトってのは大体憎しみとか、ヒトに対する因縁を持ってる訳じゃん。こっちの世界のルールじゃ、恨みを晴らすとか呪ってやるとかそんな思いにばかり駆られている魂は亡霊にはなれないわ。」


何を言っているのかあまり分からないけど、とにかく私がおかしいのだろう。


「あなた、相当な虐めを受けていてらしいわね。」


「はい…。」


「なのに、そんな感情が全くない…。」


確かに、私はあいつらにはなんとも思わなかった。


ただ自分が傷付いたらいいだけ、そう思っていた。


「かと言って、そんな感情に打ち勝つ恋をしていたと言う訳でもないのに…。」


彼女が不思議に考え込んでいる。


「あ、あの…。」


「ん?」


「わ、私、同じ亡霊さんがいてこう言うのも失礼ですが、安心しました。あ、あの!お友達になりませんか?」


昔の友達は誰も私のことは分からない。かといって姿を見せると、パニックになるだろう。


とにかく亡霊の友達が一人でも欲しかった。


そう言うと、彼女はフッと笑い、再び私に歩み寄ってきた。


「良いよ、でも実は、あなたに教えたかったことがあってね。」


教えたかったことってなんだろう。


すると彼女は右手を指揮のように動かして、何かを動かして、私の方に解き放った。


「にゃあ!」


その途端、私の体全身を風が包み込み、全身が宙に浮いた。


「どう?」


彼女が手を少し動かすと、私はそのまま彼女の方に飛んでいき、彼女に抱っこされた。


「ど、どうなってるのぉ?!」


驚きのあまり大声を出してしまう。


「実は私達、亡霊ってのはね、死因に関連性のある超能力みたいなものを霊力って言うのかな。そんなものを知らず知らずに取得しているんだよ。」


そう言って、彼女は再び私を風に乗せ、指先をくるくる動かした。


「にゃあああ!」


私は経験したこともない縦回転を始めた。


「こんなことだって出来ちゃう。」


「にゃあああああああああああああああああああ!」


これは後からめまいと酔いが来るパターンだ。


「よいしょっ。」


なんとか下ろしてもらった。


「はぁはぁ…。」


「私はさっきも言ったけど暴風による災害で死んじゃったからね。風を司る霊力。まぁそれで、君の霊力が気になってね。」


確かに私は自殺した、検討もつかない。


「な、なんだろう…。」


「まぁ霊力は特定の条件下の時に初めて発揮されて、そこから自分の霊力を知りっていう過程が必要だからね。いつか分かると思うよ。」


生前はそんな話全く信じなかっただろう。けど、とっても興味が湧いてきた。


「あ、あとさ…君、どこで1日過ごしてるの?」


「え?あっ、友達の家です。川端くんっていう友達がいて、泊めてもらってます。」


すると彼女は目を見開いて。


「に、ニンゲンの家で暮らしてんのか!?」


「はい、物分かりのいい友達で。私のこと信じてくれてるし、私も彼のこと信じてます。」


そう言うとハルカさんは急に焦りを浮かべた。


「参ったな…一緒に住もうって提案をしようとしたんだが…。」


「ハルカさんはどこに住んでいるんです?」


彼女は気恥ずかしそうに言った。


「こ、公園のキノシタにヒトリグラシでさ…。」


そうか、誰もが誰も私のように誰かが匿ってくれてる訳じゃないんだ。


「そ、そうなんすか…すみません。」


「いやいや…。」


ハルカさんも一緒に、私達と住めないのかな。


「あ、あの!良かったら私達と…!」


「い、いいの?」


ハルカさんは涙ぐんだめを光らせてこちらを向いた。


「勿論ですよ。困ったときはお互い様です。」


すると彼女は急に号泣して私に抱きついた。


相当悲しい日々を送っていたのだろう。


「うぅ…ありがとう、コトミちゃん…!じ、実は私、亡霊さんと会って話したの今日が初めてなんだ…。」


ゆっくり立ち上がり私の手をギュッと掴んだ。


「お、お願いします!!」





私とハルカさんは並んでゆっくり歩き始めた。


彼女は私の手をギュッと握りしめたままだ。


「川端くんって人、許してくれるかな?」


不安げな表情でこちらを見つめる。


「彼、優しいから絶対大丈夫ですよ!かわいい女の子好きですし。」


ハルカさんはクスッと笑い。


「私も生きてた時はカレシ居たんだぁ。」


「えっ!?私っもって、か、彼氏じゃないですよ!」


すると彼女はいたずらに微笑んだ。


「そうかなぁ?」


流石に私、今のは言い過ぎだった。突発的だが仕方ないが、彼女のことを考えると罪悪感に駆られてきた。


「うぅ…て言うか、なんかすみません。」


「大丈夫だよとっくに忘れてるし、中学校で付き合ってたんだでも色々あっては別れちゃったけどね…。」


「そうなんですか…。」


「とっくに彼も私のこと忘れてるだろうし。」


少し固い空気になってしまったが、2人で隼人くんの家まで辿り着いた。


彼女はフードを外し、白髪をなびかせた。


切れ目の碧眼が麗しい。何歳くらいなのだろうか。


高校生と言えば見えないことも無いけど流石に私と同じには思えない。


私はドアをノックした。


「もう帰ってきてるかな?ハヤトくーん?」


「っ…?」


ハルカさんが少し動揺した。


「どうかしましたか?」


「いや、何も…。」


彼女はまだ納得のいかないような顔でドアを見つめていた。


ドアが開き、いつも通りの格好で彼が出てきた。


「おかえりっ…?」


「なっ…!?」


彼が動揺すると同時にハルカさんも固まった。


「な、なんで、お前がっ!?」


「え!?っちょっ!何で!?キミが!」








夕方ー隼人


事は突然に始まった。


俺は友達との飯から帰り、ソファに寝転がってスマホを弄りながら、彼女の帰りを待っていた。


やがてノックが聞こえ、俺は立ち上がりドアを開けた。


そこに居たのは3日前から同居している亡霊と、もう1人見覚えのある人がいた。


3秒程してハッとした。


烏丸ハルカだった。


あの特徴的な白髪と碧眼は忘れることはない。


イギリスと日本のハーフで生まれつき、髪の色素が病気で白く、どこか儚げな女の子だった。


俺の初恋の相手にして、運命の人になる筈だった人だった。


あれは、中学2年の時、俺とハルカは出会った。


転校生の彼女と俺は帰り道のバスで偶然隣になり、趣味の話で意気投合した。


それ以降彼女とは親友になり、恋に落ちた。


だが、両親の都合で遠くの高校に彼女は転校することになり、俺は彼女と「絶対、また会おう。」と強く誓い、離別した。


彼女とは別れてからも定期的に連絡を取り合っていた。


しかし、ある時を境に完全に連絡が途絶えてしまった。


俺はそれから毎日返信を待っていた。


そして今日なんの前振りもなく、俺の家にやってきた。


「この子、私と同じ亡霊さんなんだけど…。」


琴美がなんの躊躇いもなくそう言う。


亡霊…?その時は全く理解が追いつかなかった。


「烏丸ハルカさん、一緒に泊めてあげてもいいかな?」


彼女もかなり困惑していて纏まりがつかない様子だった。


「は、ハヤトくん?」


ハルカが怯えた声で俺の名を呼ぶ。


「ハルカ…?」


俺が彼女の名を呼ぶと、彼女はその場に屈みこみ、大声で泣いた。


少し経ち、俺も彼女と泣いた。





「なぁ、琴美、少し、2人だけにしてくれないか?」


「かまいませんよ…。」


琴美は気まずそうな顔で外へ出ていった。


「なぁ、ハルカっ…。何があったんだよ…。」


今にも泣き崩れてしまそうな細い声で彼女に尋ねる。


「まさか、キミとまた逢えるなんてね…。」


彼女は涙を浮かべながらニコッとわらった。


「ハルカっ…。」


「実は私、2年前の6月に死んじゃって…。」


2年前の6月、彼女から返信が来なくなった同時期だ。


暫く俺は何も言えず、時だけが流れて行った。


悲しい、いや、嬉しい?そんなはずはない。


なんとも言えない感情が自分の中で暴れている。


彼女の頬も再び涙で濡れ始めた。



「でさ、今日、琴美ちゃんを見掛けて。お家に泊めてくれるって言われて…。着いてきたら君の家だって。」


「何で琴美を知ってたんだ?」


すると彼女は涙の中顔を紅潮させた。


「少し前に君をもう一回見たくてこの街にやってきたの。」


「そうか…。」


感情が纏まらず、励ますことすら出来ない。


「でね、私、人付き合いが苦手でしょ?だからね、琴美ちゃんと友達になりたくて、話しかけてみたの…。」


「そうだったのか…。」


彼女は机に突っ伏して暫く泣き続きていた。


時々嗚咽混じりに何か呟いていたが何を言っているか分からなかった。


「ハルカ…。」


そう呼びかけても余計に涙を流すだけだった。


暫くして彼女は起き上がり涙を拭い笑みを浮かべた。


「泣いてても仕方ないよね。」


そう言ってゆっくり立ち上がった。


「実は、キミに教えてあげたいことがあるんだ!」


再び彼女は涙を拭うと両手を開いた。


「こっち来て!」


ハルカがそう言うと俺の体は空中にふわりと浮き上がった。


「え?ええええええ?」


そのままゆっくりと彼女の手の中にインした。


「私の能力!すごいでしょ?」


何を言っているのかさっぱり分からない。


「亡霊特有の霊力、死亡原因に関連したものを司れるの。」


亡霊と一緒に住んでいたのに3日目にきてこれを初めて知った。


「す、凄いな…。」


俺は体が浮いたことにとにかく呆然としているだけだった。


そんな俺を彼女はそのまま抱きしめた。


「また会うって約束したもんね…!」


再びハルカは大粒の涙を零し、号泣した。





「なぁ琴美。」


あれから1時間ほど経っただろうか。


みんな少し落ち着いて、ハルカは琴美の膝の上で寝ていた。


「どうかしましたか?」


「琴美は何の能力を持ってんだ?」


すると琴美は怪訝そうに笑う。


「それが、分からないんですよね。特定の条件下で発揮されるもかもしれないですし。」


「そうなのか。」


俺自身も昔からそういう魔法的なオカルト的なものが好きで、そんな本を読んだりしていた。


少し羨ましい。


そんな話をしているとハルカが目を覚ました。


「むぅ…。」


「わ、悪ぃ、起こしちまったか?」


「うぅん。ちょうど起きただけ。」


彼女目を擦り、大きく両手を上に伸ばした。


「ハルカ。」


「どおしたの?」


「ハルカの他にも霊力者は居るのか」


彼女は誇らしげに語り出す。


「勿論!私の他にも水とか炎とか鉄とか!色んなものを司れる亡霊ちゃんが居てるよ。」


「話したことあるのか?」


そう言うとハルカは俯いてゆっくり首を振った。


「だよな。」


「うぅ。」


流石に琴美も苦笑いだ。


「アカネにも教えてやろうかな?」


「そうですね。」


そう言って琴美が笑いハルカは不思議そうな顔をして。


「あかねさん?」





「もしもしアカネー。」


「なぁに?」


いつも通りのだらしない声だ。


「暇だから遊ぼうぜ。」


「やった!」


急に威勢のいい声になり、電話を切った瞬間には俺の部屋の中に居た。


「おっはよー!」


今は夕方だ。おはようとは何事だ。


俺はチラッとハルカの方を向きウインクした。


「えーと、その子っ…て!きゃああああ!!」


彼女は急に天井を突き破り遥か彼方へ飛んでいってしまった。


「え。」


思わず声が漏れてしまった。


「ごめんミスった。」


ハルカはボーつと空を見つめてそう呟いた。


数時間後、アカネは3キロ離れた公園の生垣に挟まっていたところを琴美が発見した。





「というわけなんだよ。」


ある程度の内容をアカネに話、理解を求める。


「分かったけどぉ…。うぅ…。」


ハルカは凄く気まずそうな上目遣いでアカネの顔を見つめていた。


「ハルカちゃん、今日からよろしくね!」


アカネが何も無かったかのように語りかけるもハルカは赤面して突っ伏してしまった。


昔と全く変わらないこんな2人の性格。


アカネとハルカは違う学校で、お互いのことは知っているだけだった。


それでもアカネの瞳には涙が浮かんでいた。


「でも、良かったねハヤトー。」


アカネがイタズラそうにこちらに語りかける。


「何だよ?」


「幼馴染とカノジョ2人に囲まれて生活してるんだよぉ?」


「し、仕方ないだろ?」


アカネの挑発だと分かっていても少し動揺してしまう。


「まぁ、いいじゃないですか。」


琴美がフォローする。


「でも何だかみんな複雑なよねー?」


「アカネ。」


俺の呼び掛けに彼女はポカーンとしたが3秒後にはそれまでの陽気なアカネの姿は無くなっていた。


雨は止まず、やってきた春風を消し去るように降り注ぐ。


桜のつぼみに滴り落ちてはやがてどこかへ消えていく。


立春の水の中、亡霊に少し背中を押されたような気がした。

































亡霊カノジョと僕の夢~My Ghost Sweethart & My Dream ~

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