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「あ、あ、えっと、あれ、あの、そうだったね。何か見せたいものがあるとかなんとかで……」
私の言葉を聞いて、グランツは少しムッとした顔をしたが、いつもの無表情に戻ると私をじっと見つめてきた。
そんなに見つめられると穴が空くと思いつつ、取り敢えずは約束しちゃったというかしてないけど、グランツがどうしたいとか自分の思いを口にするようになったんだし、叶えてあげたいとは思った。
そう、私がたじたじしていると、空気を察してかリュシオルがニマニマ笑うと私の肩をバシッと叩いた。
「い、痛ッ」
「私はお邪魔かしら」
「りゅ、リュシオルそんなんじゃ……」
「グランツ様は、そう思っているみたいだから邪魔者は退散ね~」
リュシオルは、ヒラリと身を翻すと、その場から離れようとする。
そんなリュシオルのスカートの裾を引っ張って、私は待ってと訴える。
「待って、待って、二人きりとかどうしたら」
「いつも二人きりじゃない」
と、リュシオルは今更何を言っているんだか、とため息をつく。
確かに、グランツとはよく二人きりで話すというか、それもこれも彼が私の護衛騎士だからであって自分から二人きりになりたいとか、二人きりとか意識したら話せなくなるとリュシオルに伝えるが、彼女は聞く耳も持たなかった。
大丈夫よと再び肩を叩かれる。
何も大丈夫じゃない。
「まっ、変なことされそうになったら叫べば良いし、私が駆けつけてあげるから」
「……本当に? というか、変なことされないでしょ。グランツだし」
「そうかしら? グランツだって男よ? 遥輝君みたいに四年も手を出さずに待て出来るほど優秀な犬じゃないと思うんだけど」
そう、リュシオルは訳の分からないことを言う。
グランツは私に変なことをしないと思う……私は少なからずそう思っているし、変なこととは具体的になんなのかとかはまず想像つかないんだけど、そもそも、そんなことを考える暇があるなら剣でも振ってる方が有意義だとグランツは思っているはずだ。多分。
まぁ、それはともかく、やっぱり異性と二人きりというのは不安なのだ。
それに、今日は本当ならリュシオルと星流祭をまわるはずだったのに……
「それじゃあ、グランツ様。エトワール様の事よろしくお願いしますね」
と、リュシオルは頭を下げると、私に小さく手を振って聖女殿のある方向へ歩いて行ってしまった。
もう呼び止めても、きっと振返ってくれないと私は腹をくくることにする。
腹をくくるというか、これから何を見せられるのかとか全く予想がつかないのだけど。
そう、不安でいっぱいでたじたじ、もじもじしていた私にグランツは「行きましょうか?」と声をかけて、手を差し伸べる。
差し出された手に一瞬戸惑うが、恐る恐るその大きな手を取ると、彼は私の歩幅に合わせて歩き出す。
(グランツは私と二人きりになりたいって言ったけど、え、え、っとこれは告白とかそういうのでは!? 私の間違いかも知れないけど、グランツの好感度ってもう興味関心とか好意とかじゃなくて、恋愛感情だったりするのかな!? 一応、乙女ゲームの世界だし、好感度が上がるイコール恋愛感情になっていくとか……!)
そう、ぐるぐると考えながら歩くと、ふと足を止めてしまう。
それに気づいたグランツは、どうしたんですか? とこちらを振り返った。
「あ、いや、何処に行くのかなーって思って」
「……」
私がそう聞くと、グランツは困ったようにコテンと首を傾げる。
それから、少し考えるような仕草を繰り返した後、フッと口角を上げて口元に指を当てる。
「秘密です」
ついてからのお楽しみです。と、言われてしまえばそれ以上は何も聞けない。
私達は、またゆっくりと歩き出した。
(こっちの方面って、聖女殿の方なんじゃ……)
暫くすると、聖女殿が見えてきたが、グランツはそこを通り越して少し登った丘の方へと足を進める。そして、丘の上につくとそこには開けたスペースと柵がありそこから城下町を見下ろせるようになっていた。そこにたどり着くと、グランツは私の方へ振り向く。
風が吹くと、グランツの亜麻色の髪が揺れる。グランツの髪は、城下町のキラキラとした黄色や橙色を反射し美しく宝石のように輝いていた。勿論、それをさらに越えるほど美しい翡翠の瞳は私を捉えていて、無表情な彼が少し微笑んでいる気がした。
その様子はとても綺麗で思わず見惚れてしまった。
「この景色が見せたかったんです。ここには、あまり人が来ませんし、夜の自主練終わりによく来るんです」
「……そうなんだ。とても素敵だね!」
そう言って、私は笑顔を向ける。
グランツは、はい。と短く返事をして、それから私から目を逸らしてしまう。
何か気に障ることを言ってしまっただろうか。
私は、如何したのかと口を開こうとすると、それを遮るようにグランツは呟いた。
「……俺の特別な場所で、俺の特別な人と一緒にいられるって、幸せです」
「へ……?」
急にそんなことを言われたものだから、間抜けな声が出てしまう。そんな私を置いてけぼりにするようにピコンというあの機械音がけたたましく鳴り響く。
グランツの頭上の好感度は72を示していた。
(え、今なんて言った? 特別とか何とか聞こえたけど!?)
私の聞き間違いでなければ、そう言う意味に捉えてもおかしくはない。グランツは私を恋愛対象として見ているということなのか。
そうなのかと、私はちらりとグランツを見るが、グランツの翡翠の瞳と目が合った瞬間恥ずかしくて目をそらしてしまう。
ダメだ、変に意識したら、顔に出てしまう。
「ほんっとに綺麗だね。さすがグランツの特別な場所!」
私は、とっさに隠すように柵から身を乗り出して城下町を眺めることにした。
しかし、視界に入るグランツの姿も気になってしまう。
どうしよう、どうしようと焦ってついハイテンションになって身を乗り出しすぎて、柵を越えそうになった時だった。
ぐいっと腕を引っ張られて、体が傾く。
「エトワール様、危ないです」
そう言われたかと思うと、私はよろけた身体を支えられていて、いつの間にかグランツの腕の中に収まっていた。
突然のことに、心臓がドキドキと音を立てる。
(近い、近すぎる!!)
先程まで少し離れていたのに、今は吐息がかかるほどに近い。
彼は落ちそうになった私を助けてくれただけなのだと、頭に言い聞かせようとするが、全く効果なく更に私の鼓動は早まる。
彼の体温をこんなにも近くで感じるのは初めてで、胸の奥がきゅんとする感覚に襲われる。
(何これ!? 少女漫画みたいな展開! そうだ、これ乙女ゲームの世界だった! でも! でも!)
と、心の中で叫んでいると、グランツは如何したのかと首を傾げる。
どうやら、彼は私の思っていたこととは違う、本当にただ助けてくれただけだったようで、こっちがドキドキバクバクしているとは知らずに私を見つめてくる。
「あ、ありがと……た、たすけてくれたんだもんね」
「……はい」
「ありがとう」
私はもう一度お礼を言うと、そろりと離れて体勢を整える。
それから、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、改めて城下街を眺める。
キラキラとした灯りがいくつも並び、まるで宝石箱の中に入っているような気分になる。
(よし、だんだん落ち着いてきたし、思考がクリアになってきた……)
そうようやく冷めてきた思考は冷静に物事を判断できるようになってきたときだった。
「俺は、エトワール様のことが――――」
グランツがそう口を開いたとき、私は一体どんな顔をしていたのだろうか。