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「また花束貰っちゃった……何だか最近、花貰いすぎな気がするんだけど。リュシオルに頼んでまた花瓶に入れて貰おう」
ブライトと別れる際、彼は私に日頃の感謝を込めて……とフリージアという花の花束を渡してきた。その花は、水仙のようでまた彼の瞳の色と似た紫色をしていた。
アルベドに続き花束を貰えるなんて、良いことなのか悪いことなのか。それと昨日リースからもオレンジの花が贈られてきた。
花瓶が幾らあっても足りないなあと思いつつ、またリュシオルに生けて貰おうと思い一度聖女殿に戻り再び神殿の方へ足を運んだ。
聖女殿に戻ったのは、花を置くためとグランツへ渡す予定だった魔剣を取りに行くためだった。
「雨降りそう……」
雲行きが怪しくなってきた空を眺め、私は眉間にしわを寄せた。
今朝は晴天だっため雨は降らないだろうと思っていたが、急に降り出してきそうな気配を感じる。
(早めに取りに行って正解だったな)
聖女殿を出てすぐ、私は神殿の横にある訓練場へと向かう。さすがに、あれだけの騒ぎを……決闘の後だからグランツは訓練場で訓練をしているものだと思い足を運んでみたが、そこで出会ったプハロス団長に彼は既に今日の稽古は終えているようで宿舎に戻ったのではないかと言われた。
もしそうだったとしたら、入れ違いだったのだろうか。
アルベドと会ってから、何故だかグランツには避けられている気がするのだ。理由は分からない。
けれど、私がグランツに会いに行くたび彼は私を避けるように何処かへ行ってしまう。明らかに避けている姿は見ないのだが、こうも入れ違いだったりを繰り返すとそう思わざる終えない。
早くこの剣を渡したいんだけどな……と、私は持っていた剣を握りしめプハロス団長に頭を下げ宿舎には向かわず彼と出会った林へと私は足を向けた。
「……って、降ってきたし」
案の定、先ほどまで曇っていただけだった空はポツンポツンと雨粒を落とし始めてしまった。
まだそんなに激しくはないから、小走りで林の中へ入る。
すると、すぐに木陰を見つけてそこに入り込み雨宿りする。少し降られてしまったため、来ていたドレス風の修道服はずっしりと重みを増していた。
「これ、止むかな……」
だんだんと酷く強く打ち付ける雨を見て私はため息を漏らす。
これじゃあ、グランツを見つけることも出来ないだろうと肩を落としていると近くで雨とは違う何かが空を切る音が聞え私は耳をすませる。
それは、聞き慣れた木剣を振り下ろす音。誰かが、近くで素振りをしているのだと私は顔を上げる。
きっとそんな人は、彼しかいないと。
私は濡れるのを承知で再び駆け出す。
そして、音がした場所に近づくとそこにはやはり彼……グランツがいた。
彼は私が来たことに気付いていないのか、ひたすらに剣を振るっている。
その姿に私は胸が締め付けられるような思いになりながら彼の元へ向かう。
「グランツ……グランツッ!」
そう声をかけると、グランツは驚いた様子でこちらを振り返る。
その頬には汗が流れ落ちており、いつものように額にも薄らと汗が滲んでいた。しかしそれは、雨で流されまるで泣いているようにも見えた。
どうやらかなり集中していたらしく、私の声が届いていなかったようだ。
「エト、ワール様……?」
「久しぶり、グランツ。元気にしてた?」
「はい……そんなことよりも、エトワール様……濡れてしまいます」
と、グランツは私と顔を合わせずにいう。
よっぽど私に帰って欲しいようで、少し腹立たしい。
何故そんなに私を避けるようになったのか。
「別にこれぐらい」
「濡れてしまいます」
「ねえ、何で最近私を避けてるの?」
「……っ」
そう聞くと、グランツは一瞬目を見開き苦しげな表情を浮かべたが、直ぐに視線を逸らし俯く。
そんな彼に私は苛立ちを覚える。
なんで避けるんだと、どうして話してくれないと。
私の事嫌いになった?
しかし、彼の好感度は下がっていない。それどころか会っていないうちに2も上昇している。
だから、尚更理由が分からないのだ。
「……っ、避けているわけではありません」
「いや、避けてるでしょ。なんで?」
「……」
私はしつこく質問したが、返ってそれは逆効果のようでグランツは口を開くこともなければ目を合わせることもなかった。
ただただ時間が過ぎ、冷たい雨が身体を打つだけ。
「はあ……分かった。じゃあ、質問を変えるけどさ。何であの時アルベドに突っかかったりしたの?グランツらしくない」
「すみませんでした。護衛の分際で」
「謝罪が聞きたいんじゃない。理由を聞いてるの。ねえ、話せないようなことなの?それとも、私のこと信用出来……」
「違います」
と、一瞬雨の音が途切れたように彼の声が響いた。
それは、とても冷たくて拒絶されたように感じられた。
でも、そんなはずはないと私が首を振ったときだった。
ふわりと温かいものが頭にかけられた。
それは、彼が着ていた上着で、私は驚きながらもグランツは見ると申し訳なさそうな表情で私を見つめていた。
「一応、防水の魔法がついているので。少しは雨よけになるかと」
「あ、ありがと……」
「……」
お礼を言うと、グランツは顔を背けるようにして歩き出す。
私は慌てて追いかけようとしたが、その前にグランツが立ち止まり振り返ると一言。雨の音にかき消されるくらい小さな声で呟く。
「会わせる顔がない……」
そして、そのまままた前を向いて歩いていく。
「待って、グランツ! 待てっていってんでしょうが!」
と、私は思いっきり靴を蹴り飛ばしてしまいそのパンプスは見事グランツの後頭部へ直撃した。
それに驚いたのかグランツは頭を抑えながら、こちらを振り返り目を丸くする。
私はその隙を逃がさず、グランツの胸ぐらを掴み睨みつける。
「黙ってるのが格好いいとか、優しさとかおもってんな! 馬鹿! こちとら、理由も分からず避けられて、すっごく傷ついてるんだから!」
「痛いです。エトワール様」
と、グランツは冷静な口調で言い返す。
それが更に腹立たしく、私は掴んでいた手を離すと彼の頬を平手打ちにした。
パーンッといい音が響き渡り、グランツは目を見開く。
「なんで私を、避けるの……私、悪いことしたの? ねえ、わかんないよ。なんで、私嫌われて……」
「エトワール様」
「嫌いなら嫌いって理由をいって、じゃなきゃわかんないよ」
「誤解です。エトワール様」
「何が誤解なのよ。避けてたくせに」
私は必死に堪えていた涙があふれ出て視界がぐちゃぐちゃになっていた。
だって、理由もなしに避けられていたんだから誰だって傷つくだろう。
それも、自分が信頼していた相手。私に決定的な落ち度があるならまだしも。私はそんな、何もしていない。
グランツは私が泣き出したのを見てどうすればいいのかと肩を掴み、真っ直ぐ翡翠の瞳を向けていた。私はようやく顔を合わせてくれたグランツにまた視界を歪ませる。
「何で私を避けてたの……、グランツ」
「それは」
「私のせい……?」
と、聞くとグランツは違います。と即答し首を横に振った。
その言葉に私は一瞬安堵する。
そうして、グランツは重い口を開くと眉をひそめこう言った。
「エトワール様に、嫌われたくなかったからです」