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「え、えと……えっと、急に何……好きな人? なんで?」

「いや、別に。気になっただけだ」


私は、彼の質問の意図が読めずに困惑するが、彼は特にそれ以上追及してくる様子はない。

やはり、アルベドはよく分からない男だ。

いや、単純なところもあるんだけど全部さらけ出していないって言うか……分からないけど。本当に。

アルベドの言葉を受けて、私は思考を巡らせたがやはり欲しい答えは出ずに、逆にその言葉をきっかけに思いだしたことがあり彼に聞いてみることにした。


「アルベドは、星流祭……誰とまわるの?」


星流祭。

そういえば、まだ彼にはその話題を振っていないというか振られていなかったなあと思いだし、私は気になっていたことを聞いてみた。

聞かない方が良かったかも知れないと、口走った後思ったがもう後には引けない。


(別に聞くぐらい良いよね……)


と、私はどうせまたからかってくるんじゃないかと思っていると彼は何故か黙り込んでしまった。

その表情は、いつもの自信満々な態度とは違い、どこか寂しげな気がして私は戸惑った。

何か悪いことを言ってしまっただろうか。

しかし、彼はすぐに笑顔に戻り、呆れたように首を振る。


「誰があんな光魔法の奴らの祭りなんて行くんだよ」

「でも、夜に屋台とか色々出てて楽しいし……夜なら、闇魔法の人達も……」

「夜でも朝ぐらいぴっかぴか、きらっきらのランプ付けて、それでもって空には満天の星。闇なんて何処にもねえよ、あの祭りは闇魔法の奴らを歓迎するためのものじゃねえ。あくまで、光魔法の奴らの祭りだ」


彼が吐き捨てるように言った言葉を私は理解出来なかったが、彼の態度を見る限りあまりいいものではないらしい。

確かに、星流祭は光魔法の者達の祭りらしいが……別に、闇魔法の人達が参加していけないわけじゃないと思う。


「じゃあ、行ったことないの?」

「あぁ? ……ああ、昔行ったことがあるけどよ。あの頃はまだ純粋な子供だったからな、楽しみにしてたんだが」

「え、アンタに純粋な子供時代があったの!?」

「お前、ほんと俺を何だと思って……」


私は、思わず突っ込みを入れると彼はムッとした顔でこちらを見てきた。

私はそれに少し笑っていると、彼は少し恥ずかしそうに昔話を始める。


「まだ俺が六歳か七歳だった頃、執事長……ファナーリクに駄々をこねて連れて行って貰ったんだ。初めての祭りですげえ楽しみにしてたのを覚えてる。実際、行ってみると本当に屋台やら舞台、ダンス……そこら中で面白そうな催し物をしててな、子供だった俺はそりゃはしゃいでたさ。けど」

「けど?」

「闇魔法を使う人間だってバレた瞬間、屋台の奴らもダンスを踊って奴らも……町にいた奴ら全員、俺の事を避け始めた。まるで、汚い物を見るような目でな」

「そんな……」

「別に俺はそれが悲しいとは思わなかった。いや、悲しかったのかも知れねえ……でも、まあ、当たり前の反応だろうなと思った。けど、それでも祭りを楽しめると思ってた。だが、どの屋台の奴らも俺を門前払いして、歩けば俺を避けやがる。その時思ったよ。俺は……闇魔法の奴らは誰にも歓迎されてないってな」


彼の言葉は、私にとって衝撃的だった。

闇魔法の人間は、光魔法の人間の敵。でも、それってただの差別じゃないかと。

やはり、善の心を持つなんて嘘っぱちである。光魔法の人達は闇魔法の人達を差別している。貴族も平民も皆、皆。

それを、そんな現実を子供の頃に突きつけられたアルベドはどうだったのだろうか。

その後、弟や暗殺者に命を狙われ初めて……独りになっていったのではないだろうか。

私は、何も言えないまま彼を見つめると、彼は小さく息を吐いた。


「まっ、今となってはどうでも良いことだし。そういう世界なんだって受け入れてるよ。お前のとこの護衛騎士と違って、俺は別に光魔法の奴らに憎しみも怒りも覚えていない」

「なんで……」

「それが、あたりまえだから」


私が、疑問を投げかけると彼は即答した。

そして、その言葉の意味がわからず私は首を傾げる。

あたりまえ、とはどういう意味だろうか。

光魔法の人間と闇魔法の人間が共存することなんてありえない。と、彼は言っているようにも思えた。

諦めの二文字が彼の金色の瞳に浮かんでいる気がして、何故か私は胸が苦しくなった。


「当たり前……じゃない。それを受け入れるの? アルベドってそういう人間だったの?」

「はあ?」

「だって、可笑しいじゃん。光魔法の人間と闇魔法の人間はわかり合えないとか、光魔法の人間が善の心を持つ善人とか……差別してる時点で間違ってる! 何かしたわけじゃないじゃん。そりゃあ、全員が全員そうじゃないし、光魔法の人達よりかは闇魔法の人達はマナーとかルールを守っていない気がするけど。それでも、同じ人間じゃない! たかが属性が違う魔法を使うだけで」

「…………」


私の言葉を、彼は否定しなかった。

ただ、黙って聞いている。


「なのに、受け入れるの!? そんなの……私は耐えられない」


私は、涙を浮かべながらそう言った。

こんな理不尽なことがあって良いはずがない。

私はただ、そう思っただけなのだ。

けれど、彼は少し呆れた表情でこちらを見てきた。そして、ため息をつくと私に向かって口を開く。


「なーに、お前が気にすることじゃねえだろ。それに、それを理由で光魔法の奴らと戦争になったら俺はお前と敵対することになるだろうが」

「え……?」

「闇魔法の奴らも分かってる。どれだけ理不尽だろうが、屈辱を味わおうが今の状況を変えるつもりはないって。均衡を保つこと、それが自分たちにとっても必要なことだって分かってんだ。自分たちが、負の感情に飲まれないためにも」


アルベドの言葉を聞いて、私は口を閉じた。

彼が言っていることは、正しいと思う。

それでも、私は……納得できなかったのだ。彼の気持ちを思うと、どうしても……


「でも、ありがとな。俺の事気遣ってくれたんだろ? やっぱ、お前って変な女だよ」

「変って、酷い」

「褒めてる」


そう言って、彼は小さく笑うと私の頭をポンッと撫でる。その瞬間、私の顔は真っ赤になっていくのを感じた。

このゲームで一番の危険人物に頭を撫でられて、もしかしたら握りつぶされるんじゃないかと頭の中で一度はよぎったが、不思議と悪い気はしないのである。

そうして、ピコンと聞き慣れた機械音と共に彼の好感度が上昇する。


「30……」

「何かいったか?」

「い、いや、別に何でもないし……」


(30って……出会った時にマイナスまで落ちたのに)


私は、自分の頬に手を当てて熱を冷ます。

やっぱりおかしい。好感度は上がっていくけど、私は何だか彼のことがよく分からなくなってきた。

彼は、危険人物で前に殺さないって分かっていても脅してきたわけだし、彼といたら危険に巻き込まれるし……でも、何だか気持ちが。

そこまで考えて、自分の考えを否定するように私は首を横に全力で振った。

あり得ない。だって、あり得ない。


(好きになるわけじゃないじゃん……私の推しはリース様よ!)


まあ、リースは中身元彼だけど。と突っ込みつつ、アルベドを見ていると何故か目が合う。

私は慌てて目を逸らすと、彼はニヤニヤと笑いながら私を見ていた。 彼の瞳が楽しげに輝いた気がした。

そして、またピコンと機械音が響く。しかし、確認する余裕などなく、私はずっとそっぽを向き続けていた。

すると、彼は口を開きわざとらしく言うのだ。


「それで? 話は戻すが、星流祭の話を俺にするってことは、何だ……エトワール。俺と一緒に周りたいのか?」

「ちが、違うッ……! 私は、ただ……!」

「ただ?」

「えっと……」


どうかえせば良いか分からない私の目の前に、無情にもシステムウィンドウが現われ何の感情もないような【アルベドと星流祭をまわりますか?】と表示されていた。




乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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