「そうですね、まっ、均様からすれば、少し冷たい言い方だったかもしれません。どうか、機嫌を直してくださいまし」
「いえいえ、そのようなことは……あの、そのですね」
均は、なぜ、面倒な男と、思いながらも、徐庶を優遇するのか、そして、長居出来ない麺を、とは、どういう意味合いなのかと、月英へ訊ねた。
「均様のお作りになる料理は、どれも良いお味なのです。つまり、あのお方は、今後、食事目当てに、当家へ入り浸るでしょう。何か旨い物を食わせろ、とね」
お忘れになりましたか?と、月英は続けた。
「……州牧《ちょうかん》の所へ、出入りしていると」
「あ!そういえば!」
寂れてしまった家の出ゆえに、仕官の機会を、自らの足で動いて、得ようとしていると言っていたのを、均は、思い出した。
「そうか、そうですね!あの方には、しっかり動いて頂かなければ!」
兄のあの陶酔ぶりは、徐庶《じょしょ》と友としての縁が続くということ。
月英は、徐庶経由の人脈を当てにしているのだ。
「ええ、ですから、呑気に我が家で、酒席三昧は困るのですよ」
「なるほど、なるほど。今日食べた分まで、しっかり元を取らさせてもらう、と言うことですか」
「あら、均様も、なかなか言いますわね」
ははは、ふふふ、と、二人の笑い声が重なった。
──同じ頃。
すっかり酔いが回った徐庶は、千鳥足で、外にある厠で用を足した所だった。
次は、麺が待っている。急な事なので、うどん、ぐらいだろうけれど、と、孔明に告げられて、締めには、丁度良いと、喜んでいたのだが……。
厠からの帰り、裏方、調理場らしい場所を通りかかったところ、なにやら、内がかしましい。
思わず、立ち止まり、徐庶は、漏れ聞こえてくる話に聞き耳を立てるが……。