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その日は、雨が激しい日だった。

銃弾で傷ついた車。

地面に数多と転がった動かない仲間達。

あちこちに飛び散った血。

そして―…

目の前で立ち尽くしている弟分の阿蒜。

伊武「…何があった?」

目の前の弟分に問う。答えが返ってくることはなかった。


まだ息のあった組員を病院に連れて行ってから、改めて阿蒜から話を聞く。

伊武「阿蒜…どういうことだ?あれは」

阿蒜「…実は」

阿蒜はぽつぽつと話し始めた。


俺が兄貴達を乗せて車を運転してたら、いきなり武装した奴等に囲まれたんです。

武装集団A「オラァ!往生せぇや!!」

武装集団B「全員今日が命日じゃあ!!」

俺も応戦しようとしたんですけど、そいつらは皆マシンガンとかアーミーナイフとか持ってて、近付くことすら叶いませんでした。それでも―…

兄貴分A「くそったれが!!阿蒜!!てめぇだけでも逃げろ!!」

阿蒜「兄貴…!でも!!」

兄貴分B「命令だ!!!さっさと行け!!!」

兄貴達は俺を守るために命がけで戦ってくれました。なのに、俺は恐ろしくて、物陰に隠れてることしかできなかった。

…そして、気が付いて出てきたときには、もう…


阿蒜「俺のせいです…俺にもっと、力が…覚悟が…勇気があればっ…!!兄貴達が死ぬことも無かったのに!!!」

全てを話し終えると、阿蒜はボロボロと涙を流し始めた。

伊武「今回は俺の人選ミスでもある。まだペーペーのお前がいきなり武装集団を相手にするなんて無理だったろうからな」

本来ならばヤキを入れるべきなのだろう。でも、阿蒜が悲しそうに、悔しそうに泣きじゃくる姿を見ていると、何もできなくなった。言葉ですらも、気休め程度のものしか出てこない。阿蒜がボロボロと涙を零したまま、俺の手を掴む。

阿蒜「俺のせいなんです…!あの時俺も参戦していれば」

伊武「阿蒜」

阿蒜「俺のせいでっ…!俺のせいで!!!」

伊武「阿蒜!!!」

俺が阿蒜の手を掴み返すと、阿蒜は気が付いたように目を見開いた。

阿蒜「!」

伊武「…阿蒜」

俺は阿蒜を抱きしめた。肩に顔をうずめさせる。

伊武「お前のせいじゃない…大丈夫、大丈夫だ」

後頭部をポンポンと優しく叩いてやる。

阿蒜「うぅ…兄貴…」

阿蒜もようやく落ち着いたようで、―しばらく経ってから鼻をすするような声が聞こえてきた。

伊武「ここで挫けていても何も変わらねぇ。あいつらだって伊達にお前を助けて死んだわけじゃねぇんだ。

…だから、俺達がやることは一つ」

真剣に、言い聞かせるように加える。

伊武「奴等を叩き潰し、あいつらを偲んで、前へ進んでいく。…止まることは許されねぇ。進むしかねぇんだ」

阿蒜「…はい」

阿蒜を放し、俺はジャケットを翻して歩いた。


…自分の固く握った拳から血がポタポタと滴っていることにも、気付かなかった。

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