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僕が彼女に出会ったのは幼稚園の頃の話。親同士が同級生ということで、一緒に花火大会に行くことになっていた。当時の僕は活発でどんな人とも明るく話していた。だから、初対面の彼女ともすぐに仲良くなっていた。近頃引っ越す事になったということになっていたようで、最後にこの町で過ごしたいらしい。幼稚園生の彼女なりに愛着があるんだと感じた。そんな彼女と一緒にりんご飴を食べたり、金魚掬いをしたりと沢山楽しんでいる中1つの約束を交わしていた。親が焼きそばを買いに行列に並んでいる時、見つからないように目をかいくぐって近くの神社の方に向かった。すると、辺り一面にラベンダーが広がっていた。2人ともその圧倒的な景色に見蕩れてしまっていた。幼稚園生だった僕の身体がすっかり覆われてしまうほどの、大きくて高い花がまるで夜空を目指すように咲いていた。その中から、2つの花を摘み取って1つは彼女の手に、もう1つは僕の手に。
「また、ぜったいにあおうね。」
「うん」
2人の声はラベンダーを成長させるような期待がこもっていた。その後、浴衣に花の残り香が染み込むまで遊び呆けた。家に帰って僕は花瓶にその約束の花を刺した。
高校生になった俺は、そこそこの偏差値の学校に言って、試験で低めの点数を取って半ば諦めかけていた。中学校時代は勉強に対して熱心で、学年でもトップクラスの成績で親からも期待されていた。でも、イメージしていた煌びやかな青春とは違って、屋上禁止の頭髪規制などの制約があることを知って、モチベーションを落としたからだ。入学して初めてのテストで200人中150位という結果を親に見せると、こっぴどく叱られ塾にも通わされるようになってしまった。それでも、環境に対する嫌悪感のせいで勉強のやる気はあまり上がらなかった。そしてそんな点数を何回も取っているうちに、親との会話も減り文句も言われなくなってしまった。
「こんな切り替えの出来ない息子でごめん。」
同じ屋根の下で生活するのもしんどくなってきたので一人暮らしをすることにした。高校の近くにある少し古めのアパートへ荷物を運ぶために引越し業者を呼んだ。親からお金を貰えるはずもなく、バイトで貯めたものから払うのでかなりの出費となってしまった。
「バイト増やさなきゃな。」
そんなことを考えながら部屋を整理していると、とあるものを見つけた。それは1つの花弁だった。もう枯れてしまっていたが微かに香る匂いに懐かしさが溢れ出てきた。今まで忘れていた彼女は一体何処で何をしているのだろうか。
私は高校で星について学んでいる。特にやりたいことも見つからず、面白そうだからという理由で高校専門学校に通い始めた。私は元々北海道に住んでいたが、親の転勤で東京に引っ越してきた。それ以来ずっとこの都会で暮らしている。初めの頃は、あの雪が降る綺麗な街に未練を残して夜泣いていたが、暫く経つとそんなことも忘れて利便性の高いこの街で幸せに暮らせるようになっていた。そんな中、私は1つのニュースを見た。それは今年の夏に、ネオワイズ彗星が観測できるというもの。知った途端、飛び跳ねながら喜んでその彗星について調べた。ネオワイズ彗星とは約6800年周期で、他の浮かんでいる星の比べてほんの少しだけ輝いている彗星だ。是非とも観測したい私はすぐに飛行機のチケットを手配し、新千歳空港へ向かった。言わずもがな街明かりの多い東京で見るより、高緯度で人工光が少ない北海道の方が綺麗に見える。ガイドブックで、明かりがあまり無さそうな所を探して私はそこを目指した。今から6800年に一度の特別なものを見れると考えると、興奮して夜も眠れなかった。
花弁を見て彼女に会いたくなったが、連絡を取れる訳もなく、親に聞くのもなんか恥ずかしいので八方塞がりの状態となっていた。万が一会えた時のために常にその花弁を持ちながら日々を過ごしていた。友達から今度、近くで彗星が見れると聞いて、息抜き程度について行くことにした。星なんて興味なかったが断る理由もないし、6800年に一度と聞いたら行った方がいいと感じた。
当日、友達が綺麗に見える場所を教えてくれたのでそこに向かって歩いた。そこは子供の頃、彼女と約束を交わしたラベンダー畑だった。モヤモヤとした何かが胸につっかえるような感覚がして、あまり夜空に集中出来なかった。なかなか彗星が見えず集中力が切れて、辺りに疎らになっている人達を見渡すとそこには彼女の姿があった。空から彼女の姿が照らされていく。と思った束の間彗星はすぐに消えてしまった。でも、彗星よりも彼女に出会えたことの方が嬉しく、そんな興奮が冷めないうちに彼女と会話したいと思った。でもそこにはもう姿はなかった。
今日はネオワイズ彗星が見れる6800年に1度の日。これについての論文を書けば評価がかなり上がるだろう。でもそれ以上にただただ見たいという純粋な心からの衝動の方が何千倍も大きい。近くに畑があってそこは明かりが少なく、カメラも設置しやすいと先輩から聞いていたので私はそこに向かって歩いた。着くと既に三脚を立てている人や高校生のような若い人たちもいた。近くに咲いていたラベンダーに少し目移りしたが、それでもネオワイズ彗星の方が美しいはずなので瞬きをしないで夜空と向かい合った。
「あっ!」
一瞬だったが確かに今、光の筋が現れていた。すぐにレポートを書く為に急いでその場を後にした。歩いている途中も、本物の輝きに見蕩れていた。
「すいません。」
彗星のことで頭がいっぱいで周りのことが目に入っていなかったのだろう。地元の高校生らしき人とぶつかってしまった。するとその男の子が言った。
「覚えていますか。この花を。」
ラベンダー
花言葉 『あなたを待っています』
『期待』
『疑惑』