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ー忘れ去られた過去・後編 I ー
孤独な僕にも、護衛はいた。
いや、僕が寂しくないよう、そばにいてくれたのかも知れない。
僕より4つ上の赤い髪色をした剣の使い手。
ローレン・イロアス。
僕が生まれた時から、ずっと隣にいた。優しくて、かっこよくて、いつも守ってくれる。
いつも1人でいた僕を気にかけ、一緒に遊んでくれた。外に出てはいけなかった僕の手を引き、両親にバレないよう、宮殿の外に何度か連れて行ってくれた。
「イブ様、このことは俺とイブ様だけの秘密ですよ。」
そう言ってにっこり笑って頭を撫でてくれた。
僕の、たった1人の友達。そして、頼れる兄のような存在。
そんなローレンを、両親は地下牢に閉じ込めた。
僕を外に連れ出したのがバレたのだ。
外の世界に売っている、彼が好きだと言っていたキウイというフルーツを、どうしても牢屋から出ることのできない彼に食べさせたかった。
僕は1人で宮殿を抜け出し、市場へ向かった。
ローレンが一度連れて行ってくれたから、市場までは迷わなかった。
「イブ様、貴方は有名な大富豪の子供です。ですから俺と外に出る時は、必ずこの白いフードを被らないとダメです。貴方を誘拐しようと企む人は大勢いますから。それと、この耳飾りも外して。はい、これでよし。」
過去にそう言われたのを思い出し、フードもしっかり被った。
向こうに沢山のフルーツが見える。あそこだ。
初めてのことだらけの世界で、勇気を振り絞って声を出す。
「キウイフルーツは売っていますか。」
声が震えているのが自分でもわかる。目線を店員の方に向けると、少し驚いた表情をされたがキウイを2つ差し出し、「5パルトだよ」と何事もなかったかのように答えた。
僕はほっとして胸元から金貨を一枚取り出し、手渡した。すると、店員は表情を変え、疑うようにこちらを見てくる。
「あんた、子供なのに金貨なんて持ち歩いているのかい?」
しまった。コーヴァスの金貨一枚は、半年働いてようやく手に入れられるくらいの大金なのだ。だが、僕は金貨しか持ち合わせておらず、焦ってその場から逃げ出そうとして、手首を掴まれた。
「ちょっと待ちな、あんた…って、おい!お前、その耳飾りは…!!」
僕はローレンに言われた通り、フードをしっかり被っていた。でも、耳飾りのことを忘れていた。当家に代々伝わる、有名な耳飾り。
僕の存在が、相手に知られてしまった。
つづく