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星が降る

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第1章 藍色の穴

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2022年04月06日

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第一章 一話 藍色


私は物心ついたときからこのできすぎた顔立ちが嫌いだった。


いやでも自覚するしかなかった。


両親は私が幼い頃に交通事故に遭って亡くなった。


とても顔の整った夫婦だったと思う。いつも仲が良くて、楽しそうにしていた。


だから私もそんな二人と一緒に庭を駆け回ったり、はしゃぎ回ったりするのが好きだった。


両親が交通事故に遭ってからは母型のおばあちゃんの家に預けられた。


でも私が高校に入る頃には寝たきりだった。おばあちゃんを支えて、バイトもして、クラスでは学級委員まで任されて。


限界なんか、とっくに過ぎてた。


両親のくれたこの容姿は目立ちたくない私にとっていらない武器だった。


告白された回数は数知れないし、学校ではいい子ぶって、振り回されて。


友達なんかろくにいやしない。そんな私はいつだって妬みやいじめの対象だった。


死んでもいいって何回も思った。でもその度に私はあの人を思い出した。


その人は強くて真っ直ぐで…そんな憧れるような人だった。


ドジで馬鹿で、何もできないような人だったけど。唯一私が本当の自分でいれる時間を作ってくれる、優しい人だった。


昨年、その人は私の友達と付き合った。


別に私はその人が好きだったわけではない。


いや、実際には好きだったのかもしれないけど、彼の選んだ未来を優先する選択肢の他を私は生憎持ち合わせていなかった。


だから私は、この先も藍色にぽっかり空いた穴を埋めてくれる存在を探し続ける。


穴の空いた欠陥品の私を、認めてくれる存在を。


第二話


「しーちゃん。おはよっ!」

高校生になった今、私が愛想を振りまくようになって友達はたくさんできた。


今声をかけてきたのは木村 桃。そのうちの一人で、よく私に話しかけてくれる。


「桃。おはよう」

「ねー、昨日のドラマ見た!?もう急展開‼︎」


ドラマなんか見てないけど。


「みたみた。すごかったよね、」


私はいつだって話を合わせる。心が開かなくなったのがいつからなんて、そんなのもうとっくに忘れた。


私は強いと思ってた。


今でも強いと思ってるのに変わりはないけど、自信がなくなって、どうでも良くなった。


「今日帰りに映画行かない?気になるのあるんだよね〜!」


こんな私と一緒にいてくれる桃に感謝しなきゃいけないのに、私は心の底では鬱陶しいと思ってる。


そんな自分が大嫌いだ。


「いいよ。私もちょうど見たいと思ってた。」

「本当!?」


やったーって喜んでる桃をながめながら今日の夕飯を考える。


映画に行ったら夜ご飯遅くなっちゃうな…


そんな最低な私に心底腹が立つのはいつものこと。





「池井さん。今日の放課後空いてる? 先生に頼まれてることがあって…」


ぼーっとしていた私は急いで顔をあげ、愛想笑いを張り付かせた。いつものことだけど。


「そっか。新野くんも学級委員だもんね。手伝うよ」

「ありがとう。助かる」


そう言って微笑んだ彼を見て思い出した。

今日桃と約束してたんだった…


「新野くん、ちょっとまっててくれる?桃にすこし話したいことができたから。すぐ戻る!」

「え?うん」


新野くんとのはなしをそこそこき切って走り出した。


桃はちょうど彼氏のいるサッカー部の部室から出てきたところだった。きっと今から帰るんだろう。


「あ、しーちゃん。ちょうどよかった。放課後のことで…」

「そのことなんだけど、ごめんね」


言葉を切って私は話し始めた。桃が首を傾げて私を見ている。可愛いのに私といたら台無しだ。


「今日、学級委員の仕事入っちゃって。行けなくなっちゃった。ごめん」


一瞬ぽかんとした後、桃は笑って、

「いいよいいよ!また今度行こうね!私は大樹と遊んでくる!」


じゃーね!って言いながら走ってった桃を見て、桃も実は私と同じ気持ちで接してるんじゃないかと思った。


一緒にいるのは嫌だけど、でも誰からも必要とされないから一緒にいる。そんなふうに見えた。


やっぱり今日の夜ご飯はハンバーグにしようかな…


「雫。」


誰かに呼ばれて振り返ると、千景が立っていた。


「千景…」


正直、今は話したくなかった。好きじゃないって。諦めようって決めたのに。見たらまた好きが溢れちゃうから。


「どうしたの?ごめん、私今から行かなきゃ…」

「雫。」


彼がもう一度私の名前を呼んだ。千景は私の幼馴染で、もう一人の幼馴染、佐々木 萌と付き合っている、私の初恋の人。


居場所のない私に、愛想を振り向かなきゃ居場所が作れない私に。


唯一居場所を作ってくれた人。


「その愛想笑い、やめたら?」


……やっぱり、千景には敵わないなあって。改めて思った。

そう思ったら久しぶりに自然に笑えた気がした。


「あははっ。ごめんね。じゃあ、もう行くね」


耐えられなくなってその場から退こうとしたのに。


千景に手を掴まれた。


「…なに?」

「何じゃないよ。俺が言ったこと、忘れた?」


…忘れるわけないじゃない。その言葉が嬉しくて、それと同時に私を締め付けた。


「俺が友達なんだから頼れよって言ったの、忘れた?」

「……」

「話してくれないとわかんない」


逃げたかった。私は一生懸命目を逸らして。


一言だけ。


「忘れたよ」

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