TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
シェアするシェアする
報告する



結論から言う。心抄(ミト)と心捺(ミオ)は試練に合格した。流石、としか言いようがなかった。

周りは二人よりもふた回り以上大きい人ばかりで、特に男がほとんどだった。

体格がしっかりしている方が兵士としてはありがたいが、二人にとっては恐怖以外のなにものでもない。

首をたくさん曲げて見上げないと相手の顔が見えないくらい、大きい人達ばかりなのだ。

それでも、そんなやつに勝ったのだ。

第三試練として対人戦があるのだが、小さい体格を利用して、何回りもデカい人に勝ったのだ。

それはそれは、流石としか言いようがなくて。

この子達、兵士として向いてるな、と幹部は誰しもが思った事だった。


「…うん、やっぱりあの子達を幹部として迎え入れたい!」

「言うと思った。けど、それには賛成だな」


幹部の人間よりも年が離れているのは確実だが、それでも幹部に引き入れたいというのは本当。

あの子達の出身がなかなかのところだったから、周りに馴染めるかどうかも怪しいところだが、そこはもう、周りが猛アタックするしかないだろう。

幹部達だって、なかなかのところにいた子供達だ。双子の気持ちはわかるだろう。多分。


「そうと決まれば早速勧誘しに行こうか」



行くと言っても柊(ヒイラギ)がミトとミオを総統室に連れてきただけだが、そこはご愛嬌で。


「早速なんだが、君達、幹部になる気は?」

「あります!」

「即答…」


ここに来た時からミトは言っていたが、ずっと思っていたらしい。

幹部になれば、救える命も救える。そう考えていたから、ミトは兵士になるという道を選んだ。

ミオの気持ちは正直、今のところわかっていないが、ミトの発言で頷いているので、幹部になりたいという事だろう。


「危険が伴うのも、重々承知の上での決断だね?」

「はい」


目が本気だ。救えるのならば、自分の命は厭わないと。それはそれで困るが、そのくらい決心を持ってもらわなければ、やっていけない。

ミトもミオも真剣な眼差しで輝(ヒカリ)を見つめる。

ミオはただ兄について行った結果がこれ、的な感じかと思っていたが、目がマジなので、ミトと同じ事を思っていたのだろう。


「―――それでは、これからよろしく頼むよ。心抄、心捺」

「「はいッ!」」


ヒカリがミトとミオを認めた事により、幹部は新たに二名増えた。

新幹部二名は、推定五〜六歳の元奴隷の少年少女だが、実力は大の大人にも勝るほど。

これより、総統一名、幹部十一名の計十二名の新体制が築かれた。



ミトとミオはこれから、何れかの部隊に所属してもらう事になる。


「と、その前に常識を学ぼうか」


基本中の基本。

総統、つまりヒカリの言う事は(ほぼ)絶対。特に、命令口調ならば絶対に従わなければいけない。

『やってくれ』などのヒカリの言葉には、『承知』という言葉で返事をする事。

書類は渡された分は全てやらなければいけないし、訓練は怠ってはいけない。


「まあ、最低でもこんなもんだな」


ミトとミオの世話役や教育係は交代ごうたいでする事になった。

日常で生活する上で、二人はなんの問題もなかったので、別にそれはいいが、特に問題なのは教育だった。

生まれながらに奴隷だった二人は、誰からも何も教わっていない。無知の状態で、今までを生きてきた。

だからこそ、今、教育が大切なのだ。

街で暮らす人々の常識、兵士や幹部としての常識などを、一から教える必要がある。

まあ、幹部としての常識なんて、皆は幹部になってから教わったのだが。

今までたくさんの勉強をしてきて、幹部の中では知識がある方のヒイラギ、凪、隻、奏が勉強を教える事になった。

ヒイラギは文字の読み書きを。ナギは光石の歴史を。セキは丁寧な話し方、様々な国について。カナタは医学知識を。

取り敢えず、今この中で一番大切な事といったら文字の読み書きなので、ヒイラギは多めに入れておく。

二日に一回の間隔でナギ、セキ、カナタの授業を入れる。


「さて、明日から早速勉強を始める。毎日あるから、大変だと思うけど頑張れよ」

「はい!」


ヒカリ以外には別に『承知』と言わなくていい。それも、今日教えられたものの一つだ。

返事が『承知』となったのはヒカリが言えと言ったからではない。ヒイラギ達が勝手に言い出しただけ。

ただ、それが返事の決まりとなってしまった。堅苦しい気もするが…と言われている当の本人は言っているが、皆は気にしない。

双子は、とても勉強を楽しみにしているようだ。何かを学ぶという事は、楽しい。

それが、自分の好きな事だったら尚更だが。

二人が、勉強が始まってからどういう態度になるかが気になるところ。嫌になってしなくなる可能性も、なくはない。

まあ、二人なら楽しんで、進んで勉強をしようとするだろう。


「…ふは」


二人の目はキラキラと輝いていて、とてもワクワクしている様子だった。見ているだけでもわかった。


「明日、楽しみか?」

「はいッ! もう、早く明日になってほしいです!」


ああ、なんかこういう気持ち、数年前までは持っていたかもしれない。淡い記憶。

早く明日になってほしいのなら、言う事はただ一つ。


「だったら、早く寝よう。そうしたら、直ぐに朝になる」


よく、親、というか子供を宥める大人が言いそうな言葉である。

双子は、城へ来て直ぐ戦い始めたし、体は限界を迎えているだろう。ただ、楽しみすぎて気づいていないだけだろうが。

ならば、直ぐにふかふかのベッドに入れてあげるのが大人の役目だ。

直ぐに朝になる、という言葉を聞いて、早く寝なくちゃ!と思い至った二人。

なんか、親になった気分だな。と妙な考えが出てきたヒイラギは、二人に気づかれないように軽く頭を横に振った。

幹部棟は決して人通が多いわけではないが、念の為として二人と手をつないで部屋に行く事にした。

ヒイラギが真ん中で、ミトが左、ミオが右側に立って手を繋ぐ。

それはさながら、本当の親子のようで。まあ、双子は見た目が似ていても親となるヒイラギは全く似ていないが。

部屋について、手を離してドアを開けてあげれば、とても広い空間が待っていた。

ベッドも、棚も、クローゼットに掛っている二人の服も、全部が高級そうだった。


「ここなら、ふかふかのベッドで安心して気持ちよく寝られる。さ、パジャマに着替えよう」


パジャマとはなんぞや、という顔をしていたので、丁寧に教える。

といっても、そこまで深く教えるものでもないが。

寝る時にだけ着替える服で、寝間着とも言う。外からつけてきた菌がなく比較的綺麗な服。

二人はその説明を聞いて、なるほど、と一つ。

二人の服は予め用意はしていたが、身長は測っていないため、少し大きかった。

まあ、それは誤差という事で。少し大きい事で萌え袖になっているのでとても可愛らしくなっていた。

改めて、パジャマを着てベッドに入る。二人はまだ、おそらく幼いため同じベッドだ。

二人も、その方が安心するのか何も言わず。何か言われたら新しいベッドを用意しなければいけなくなるので、正直助かった。


「明日は少し早めに起こす。ゆっくり休んでくれ」

「はぁい…」


早く明日になってほしい、という時の返事とは違って、眠いのかふにゃふにゃとした返事が返ってきた。

この布団は、なにか取り憑いてるのかと疑うほど、入った瞬間に眠たくなる。


「おやすみ」


そう、小さく呟いて常夜灯にして、ドアを閉めた。

常夜灯にしたのは、真っ暗は、流石に怖いだろうと思ったからの配慮だ。

まあ、それすらも気づかないまま、目が覚めたら外は明るくなっていそうだが。

………

……

双子からすれば少し早いかもしれないが、六時頃に起こす事になった。殆どの皆が起きる時間だ。

コンコンコン。

ノックはしてみたが、返事は来ない。未だ眠っているのだろう。

そうっと扉を開けると、案の定、二人はとても気持ちよさそうに眠っていた。

安心して眠れたのは久しぶりか、それか初めてだろう。幸せそうに眠っていた。

このまま寝かせてあげたいが、これからは生活があるし、二人が楽しみにしている勉強がある。起こしてあげなければ、怒られそうだし。


「ミト、ミオ。朝だぞ」


そうして声をかけると、んん、と眠たそうな声を上げた。

数秒経って、漸くミトの目が冴えた。ハッと声を上げて体を素早く起こした。

外は、既に明るく。朝だ!というような目をして、起こしに来たヒイラギをバッと見た。


「…おはよ、ミト」

「おはようございます!」


勉強だ!と既にもうワクワクしている。勉強の前に、服も着替えなくてはいけないし、朝食も摂らなくてはいけない。

まあ、それまではずっとワクワクはできるので、別にいいか、と言わないでおく。


「さ、ミト。ミオを起こしてくれ。扉の前で待っているから、服を着替えて出てきてくれ」

「はい!」


部屋から出るついでに、電気を少し暗めでつけておく。後ろからは、『ミ〜オ〜、起きて〜?』と言う声が聞こえてくる。

さて、二人にどう教えようか。勉強を教えた事はないから、どうすればいいかよくわからない。

しかも、一回目の勉強だ。見よう見まねどころか、ゼロからやらねばならない。

取り敢えず、二人がどこまでできるかを試さないといけないな。まあ、奴隷だったから学ぶところはなかっただろうが。

数分後、そおっと扉が開き、ミトとミオが出てきた。


「来た。…やっぱり、服、デカいな」


やってきた二人の来ている服を見て、苦笑する。今度、というか今日でもいいから採寸をした方がよさそうだ。

昨夜と同じようにヒイラギを真ん中にして手を繋いで歩く。その行先は、今回は食堂である。

光石の城はなかなかに大きいので、兵士用の食堂と幹部用の食堂のふたつある。

幹部用に関しては、人数もそこまで多くはないので、食堂という名にしては小さめだ。

すまん、とひとつ声をかけてミトの手を離すと、ガラスになっているスライド扉を開けた。

人は、ほぼ揃っていた。

いない人といえば、奏(カナタ)のみであろうか。やはり、朝であれど軍医は忙しい。だから、いつも朝ごはんはズレてしまう。

今回だけでも、全員揃いたかったけど、と口漏らしていたのはヒカリだけではなかった。


「ヒイラギ、ミト、ミオ、おはよう。おや、やはり、服は大きかったね」

「おはよ、ヒカリ。だよなぁ、勉強終わった後にでも採寸するか」


ヒカリが声をかけると、双子は少し控えめに『おはようございます』と返した。

それに続いて、幹部達も元気よく挨拶する。まあ、一人か二人ばかりはさほど元気ではなかったが。

カナタ来ないかな、という淡い期待を持って、朝食を摂る前に自己紹介をしてもらう事にした。


「僕はヒカリ。この国の総統を務めているよ」

「あ、総統っていうのは、この国で一番偉い人って事だよ!」


勿論、一番最初に自己紹介をするのはヒカリだ。そして、「総統」という単語にはてなを浮かべていたため、橘(タチバナ)が教えた。

その後も、自分の名前、役職を教える。先程と同様で、双子がはてなを浮かべれば、それについて教える。


「俺は郲諳(レオン)。暗殺部隊の隊長を務めている。…よろしく」


最後にレオンが自己紹介をして、現在の幹部メンバーの自己紹介は終了した。

残念ながら、カナタは来なかった。やはり忙しいか、と思って今度は双子の自己紹介をさせる事にした。


「―――じゃあヒイラギ、二人の自己紹介をしてくれ」

「自己とは」


ボケてツッコんで。それが、光石では当たり前のようだ。あはは、と笑っている人多数。

そして、改めて新メンバーの紹介―――他己紹介をする。


「こっちは双子の兄、ミト。んで、双子の妹ミオだ」


一番反応したのは、今までは唯一の女性メンバーである楓(カエデ)だった。双子のように、目を輝かせていた。


「あら、可愛いじゃない!何歳なの?」

「あ、十歳です」


まさか、思っていた年齢と五歳も離れていたとは。十代とはいえ、その齢にそぐわない見た目。細いし、小さい。十歳ともなれば、もう少し大きいと思っていたが。

奴隷だったから、栄養が十分に摂れなかったのだろう。その可能性がとても高い。

これからは、太るんじゃないかというくらい食べさせてやる。と、決意したヒカリだった。

さあ食べようか。と言って『いただきます』をしようとしたら―――。


「お、おまた、せ…」


走ってきたであろう、息が上がっているカナタがやって来た。朝食を摂る前に来れたようでよかった。

流石に、今日だけは皆で集まって朝食を摂りたいだろう。いつもはゆっくり歩いてくるカナタだが、今日だけは走って来た。


「えっと…水…」

「あ、俺行ってくるよ」


一番先に声を上げたのはレオンだった。単純な話、台所に一番近かったのはレオンだったからである。


「ありがとう…」

「軍医と名乗るやつがはぁはぁ言ってんなよ」


『ほんそれ…』と冗談(?)を抜かしながら、水を飲んで席につく。その頃には疾っくに呼吸は落ち着いていた。


「さあ、改めていただきます」

「「いただきます」」


『いただきます』の文化は、ここが光石国になる前の国、ジューン国の文化だ。

因みに、ジューン国は戦争などして潰れたのではなく、別の場所に移動しただけである。

家族がいなくなり、ヒカリのみになった時。ジューン国は亡くなった総統らを置いて、そこをヒカリに残して別の場所へ行った。

兵士の大半と武器の四分の一程度を持って、別の場所へ。

捨てたのではない。残しただけだ。その他の人は、そのふたつの違いがよくわかっていないようだが。

せめて、ジューン国と繋がりが持てるように、食前の『いただきます』と食後の『ごちそうさまでした』を習慣づけた。

双子にはいつどう言うかのみを教えてあげた。昨日のうちにこれも言っておいてよかったと思う。

少しだけ、ほんの少しだけの後悔。

まあ、他の後悔より断然マシだが。


「お、おいしい…!」


パクッと一口、その体に似合った口の大きさで食べた。すると、声を上げたのは長らく喋らなかったミオだ。

こんな食べ物初めてだ、と言わんばかりの顔で、小さくはあるがパクパクとどんどん食べ進めている。

それはミトも同じようで、声には出していないものの、顔にはすっかり出ていた。

流石双子、とても似ている。特に、直ぐに思った事が顔に出るところ。

他の幹部達はすっかりその美味しい味に慣れてしまっているが、初めて食べた時は皆、二人と同じような反応をしていた。

作ったのは、今回はヒカリだ。

人数が多いため、交代ごうたいで食事を作ろうと決めたのはつい最近の事である。

仕事が多すぎるカナタは気が向いたら作る、という形で。ヒカリも勿論仕事は多いが、自分の意思で作っているのだとか。

新メンバーには、ヒカリの手料理を出すのが、暗黙の掟というか、なんというか。決まりというわけではないが、いつの間にかできていたもの。



朝食を摂ったら城内を案内―――という予定はあったが、双子の希望により、先に勉強をする事になった。

城内の案内は、その後である。

どれだけ楽しみなんだ―――と思ったのは、言うまでもない。皆が思った事だ。

まあ、それはいい事なのだが。

すっかり三人は手を繋いで行動するのが習慣(?)となり、直ぐに手を繋ぐ。

勉強するところは、幹部専用の図書室である。

勿論、幹部の中にも読書家はいるが、他の部屋と比べれば使われない方で。勉強室として使うのには絶好だった。

静かだね、綺麗だね、本がたくさんある―――と言った感想を二人で述べていた。

これまた、微笑ましい。入って直ぐに感想がたくさん言えるのは、素晴らしい事である。


「さあ、やろう。そこに座って」


読書用で図書室にも机はある。二人からしたら少し机が高いかもしれないが、それは今はどうにもできない。

勉強のための筆記する物、書かれる物、本を用意した。本は、たくさんの文字がずらりと並んである。簡単な単語から難しい単語までたくさん書かれている。


「…読めない」


一度本を開いてみたようだが、習ってもいないのに読めるはずがなかった。

取り敢えず、最初はひらがなから学ばせる事にした。その後はかたかな、最後に漢字だ。

基本的に文字もジュール国のものがほとんど。たまに、新しく作った文字もあるようだが。

最初は、自分の名前、次に幹部メンバーの名前。そして身近にあるものという風に幅を広げていく寸法だ。


みと、みお。


「かわいい」


ひらがなは全体的に丸っこい字なので、どの文字でも可愛らしくなる。二人の名前は特にそうかもしれない。

総統がひかり、今教えている人が書記長のひいらぎ。などなど、職業を照らし合わせながら文字を学ばせる。

その方がわかりやすいかな、とヒイラギは考えた。ヒイラギの考え通り、その方がわかりやすかったようだ。

ホッと一息つき、二人に勉強を教えていく。

まだ今は習ったばかりだから、そんなに焦らなくてもいいだろう。と言ってると、後から焦る未来が見えるが。



「楽しかったぁ!」

「それはよかった」


初めて教師もどきをしたが、無事成功に終わった。教え方も上手だったそうなので、何よりだ。

現在の時刻、九時頃。まだ昼時まで三時間ほどもある。勉強が終わったのなら、遊ばせてあげるのが妥当だろう。

正直、この年齢の子供にしては賢いが、この双子はまだ齢十の小さな子供だ。大人達に、助けられる存在。

たとえ、幹部のメンバーになったとしても、その事実は何も変わる事はない。

たくさん学ばせて、無邪気に遊ばせる。楽しそうに笑っている姿を見るのが、大人である幹部メンバーの目的であり、癒しである。

―――いつか、そんな子供達も戦場に赴く事になるのだろうけど。

そう、そんな遠くない未来を考えながら、二人を外へと連れていくヒイラギだった―――。

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚