「んっ…!」
首筋を強く吸われた。だから気を抜いてしまう。股を欲で濡らしてしまった。肩で息をする真夜を本棚にもたれさせて、慎司は立ち上がった。用は済んだのだ。
つい、眼前で翻るシャツの裾を引っ張っていた。慎司の意外そうな表情を、どんな顔で見上げていたのだろう。
「それ、どうすんの」
彼が視線を流しながら返答に迷っているようだった。
「……どうって」
視線から逃れるようにズボンの前の膨らみを隠そうとする。だが真夜の手が股間を鷲掴んだ。熱の塊は掌に納まりきらない。かなりの大きさなのだ。
「いいって。お前できないだろ?」
「できる」
「いいって……。弟にそんなことさせたくないし」
「じゃあ、なんで俺にはするの」
分が悪くなったので、慎司の表情に陰りが落ちる。あらかじめ理由を用意していないのだ。……何だよそれ。気まぐれなのか。
理由があって触れられたわけではない。そんなことぐらい重々承知だ。だけど、それでも多少は期待をしていたのだ。彼が他の兄弟に比べて、特別扱いしているのではないかと。
「ったく、仕方ないなぁ」
どかっと腰をおろし、慎司はズボンのファスナーを下げた。下着から取り出された陰茎は反り返り、先端がすでにぬらぬらと濡れている。自分のものとは、形も大きさも違う存在感に生唾を飲み込んでしまった。
「舌で横舐めて」
教えてくれる気になったのか、彼はもう逃げたりしない。
恐る恐る舌を出して陰茎の側面へ舌を這わせた。硬く脈打つ肉の塊は、生臭い味がする。
「そのまま、上……」
舌を這わせ上げて先端の割れ目を吸う。指示されなかったが、するべきだと思った。苦くて青臭い味が、した。
決して甘くは無いが、兄が興奮しているというだけで股の間が熱くなっていく。あふれ出る精を吸い上げるように念入りに舐め、吸って、息を吐く。
顔が熱い。唾液がとめどなく口腔からあふれ出る。
「まよ、すごいえろい顔だよ」
濡れた前髪を彼の掌が掻き上げる。喉を鳴らし、唾液と精液を飲み下した。
そういう慎司こそ、獲物を前にした獣……雄の欲を宿した赤い目をしていた。背筋が総毛立つ。恐れなのか。それとも、これより先にある欲の気配のせいなのか。
彼の腕が伸びてきて、真夜の後頭部を包んだ。寄せられた唇が重なり、厚みのある舌先が欲望を掴む。重ねて、絡めて、いっそ溶けるのかと思うほどキスをした。
「ん、ふぁ、ッ……」
油断していた股の間に手を入れられ、陰茎を掴みあげられた。膝立ちした真夜は無意識に腰を動かしている。
「ん、ん―…ッ…」
「真夜、俺にケツ向けて」
「え、ぁ、っ」
尻を叩かれて思わず声が裏返る。まともな判断もできずに、言われるままに臀部を向けた。
「見せて。真夜の奥底」
肉をかき分けて、窄まりをさらけ出された。拒むことも忘れ、兄にけがらわしい場所を見られることに興奮を覚えた。
顔をもたげた陰茎が先走りを零して悦に入る。喉を鳴らし、早くその奥底を暴いて欲しいと渇望している。
……兄さん、してよ……ッ……。
どうして欲しいか知らない。だが、してほしい。それこそいっそ壊して欲しい。
振り向く前に、指先が窄まりの皺をなぞり始めた。膝が震え、指が肉襞を割って入ってくるまで息をつめてしまう。
「……っく……」
「真夜、息抜いて。大丈夫、ダイジョウーブ、な?」
頭を撫でてあやされる。何時もの兄だ。真夜を引っ張ってくれる、笑みを浮かべた長男だ。
「ん、は…は……っ」
震えて呼吸を繰り返す。それでも入ってくる骨ばった指の硬さにはからだが強張る。異物を押し返そうと肉壁が蠢く。唇を噛みかけて、慎司の指先に阻まれる。
「怖くないから。大丈夫、兄ちゃんがついてるぞ」
窄まりの間に入り込んだ肉の熱さにため息が零れる。兄も己と同じ欲の沼にいるのだ。恥じらいも拒否も、あってはならない。
「あ」
壁を指で押し広げられた。蕾の入り口に兄の興奮した熱が押し当てられる。慎司が自分に興奮しているという事実が、真夜を『肯定』してくれている。
蔦のように絡みついてくる腕に抱きしめられ、肉壁を押し広げ遠慮なく熱が入ってきた。
「ァ……あ……ッ…」
女みたいな声だとか。あるいは、みっともないとか。そういう考えなどもうない。腰を抱きしめ打ち付け、求められていることがただ純粋に嬉しい。