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放課後。冷たい風が吹く、屋上にて。
五十嵐は空を見上げていた。
隣で心配そうにマーイーカが寄り添う。
「…これで、良かったんだよな」
どこか遠くを見つめる五十嵐。
「マァ…」
マーイーカは俯き、何も言えなくなる。
「何も良くねーよ」
そんな静寂を打ち破ったのは、雪乃だった。
「…草凪」
「五十嵐、あんたほんと馬鹿だよ」
「…何だよ急に」
「自分で始めたことでしょ、最後までやり遂げなよ」
「…だから、怪我してるから無理なんだって」
「そんな見せかけだけの包帯、意味ないから取ったら?」
…五十嵐が黙る。
「何のことだ」
「…五十嵐、私のために自分を捨てないで。もっと自分勝手でいいんだよ」
大会に出ない口実を作るためにわざと怪我をしたフリをしていたのはバレバレだった。
「自分勝手だよ、俺は」
「…ほんっとに、頑固だなあんたは。そんでもってお節介だ。…逃げないで五十嵐、決勝で戦ってよ。私は大丈夫だから」
「…違う」
五十嵐は背を向けたまま、拳を握りしめる。
「違うんだ、お前らは勘違いしてる…俺は、お前らが思ってるような強くて真っ直ぐな人間なんかじゃない…っ」
絞り出すような声。
雪乃は言葉を詰まらせる。
「…俺は、ただ親に与えられた強いポケモンを使ってるだけだ。サッカーだって、親に言われて始めただけ。…俺はハリボテだ。俺は弱い。大会に出る資格なんかなかったんだ」
切ない声が、静かな屋上にこだまする。
後藤に何か言われたのか、弱音ばかり吐く五十嵐。
「マァ…」
「お前を守るためでも何でもない。俺はただ、逃げる口実を作っただけだ。
…ごめんな、マーイーカ。こんなトレーナーで」
「ーーー勘違いしてんのはお前だ馬鹿!」
雪乃は詰め寄り、五十嵐の襟元を掴んだ。
「親に与えられただけ?そっから努力して強くなったのは誰?サッカー部に入って、そっから猛練習してエースになったのは誰?努力したのは、頑張ったのはあんたでしょ!」
一喝が、静まり返った空気を裂く。
五十嵐は目を見開き、雪乃の言葉を聞いていた。
「私が知ってる五十嵐って奴は、困ってる人見かけたら誰よりも真っ先に体が動く奴で、泣いてる人がいたら誰よりも寄り添ってあげる奴で、どんなに辛いことがあっても、逃げずに立ち向かう根性のある男だ!ハリボテなんかじゃない!」
「………」
「そう、あんたほんとお人好しで馬鹿だから。だから自分を平気で傷つける。…ねぇ、あんた気付いてる?マーイーカの気持ち」
ハッと、五十嵐はマーイーカを見た。
泣き出しそうな顔をしているマーイーカを。
「ずっと、心配そうにあんたの事見てたよ。きっと、言いたいことがあったのに、言えなかったんじゃない?」
「………」
「それにあんた、全部親から与えられたみたいな言い方したけど、この子は違うでしょ」
「…マーイーカ」
家の庭によく遊びに来ていたマーイーカ。
親に内緒でいつも一緒に遊んだ。
親にバレて離れ離れになってしまったけど、初めて家出をして街中探し回った。
そして見つけた、大切な友達。
辛い時も一緒にいてくれた、大事な戦友。
必死で親に抗議して、自分の手でモンスターボールにいれた、初めてのポケモン。
「…マァ」
マーイーカは五十嵐に近寄る。
そしてポコっと軽く五十嵐を叩いた。
「マァ、マーイッカ!マァマァ、マー!!」
そして怒った。
今まで言えなかったことを全て吐き出すように。泣きながら、五十嵐に伝えた。
そばにいるからわかる。
ずっと心配していたのだと。
「…ごめん、俺、気付いてやれなかった。一番近くにいたのに、心配かけてごめんな。お前も、辛かったよな」
「マァ…」
「一番に相談すれば良かった。一番の、友人に」