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ホグワーツの新学期が幕を開いた。お祝い用の料理がテーブルを埋めている。広間に入ると、見慣れた顔ぶれがあり、思わず駆け寄った。
イ「みんな!」
リパ「イヴァンナ!私の隣空いてるぞ!」
イ「ありがとう!」
杉「久しぶり、イヴァンナさん」
イ「佐一も久しぶり~」
白「俺もいるぜ~い」
イ「相変わらずで何より!百之助も、久しぶり」
尾「おう」
いつものメンバーが無事だったようで一安心した。すると、奥からもう1人、久々の姿が見えた。
イ「アニ!」
アニ「久しぶりだね」
こうして新学期を祝う宴が始まった。
休暇はどうだったとか、選択授業は何をとるかとか、話す内容は至ってシンプルだ。例の件について誰も触れないのは、不安を煽るようなことはしないというそれぞれの配慮なのかもしれないと思い、私もそれについて話すことはしなかった。
各々食事を楽しんでいると、カンカンという教壇の甲高いベルの音が鳴り響き、一同はいっせいに前を向いた。土方校長が登壇し、生徒を左から右へ見渡して、話し始めた。
土方「諸君、よくぞホグワーツへ戻った。実に、諸君らにとって休暇は不安なものだったことだろう。今この世界は混沌を極めている。明日は我が身と恐れるより先に、諸君らが無事にホグワーツへ戻ったこと、また、戻ると決心したその勇気を祝して、精一杯宴を楽しもうではないか」
そう言って土方校長は生徒を鼓舞した。
土方「そして、ホグワーツではある取り決めをすることとした。これは、先生方の思案を持ち寄って決定された、先生方の思いの結晶だ。
ひとつ、不要不急の外出は極力避けること。
ふたつ、外出の際は私に届出をだすこと。
みっつ、極力1人で行動しないこと。
以上の3つだ。生徒諸君は不安で仕方がなかろう。しかし、我々教職員一同は、自らを持って諸君らを、ホグワーツを守ることをここに誓おう。
いい夜を。」
土方校長が降壇すると、生徒たちがざわつき始めた。安全のためと言えど、かなり行動が制限される決まりだった。
リパ「気軽に遊びに行けなくなるな…」
イ「安全のためだし、仕方ないよ…」
レイブンクローの談話室。
何故かあたりが騒然としていた。どうやら、生徒同士で口論になっている…というより、一方がパニックになっている、という方が適切だった。
生徒「俺の妹がいなくなったってのに、まだ例の事件を信じないのか!?」
生徒「落ち着け!信じないなんて言ってない!ただ、過剰に怖がる心配はないって言ったんだよ!!」
生徒「怖がるなだって!?妹が消えて、次は俺が攫われるかもしれないんだ!!どうして怖がらずにいられるんだよ!!」
片方の生徒は半狂乱だった。そうか…彼の妹は…。
そこまで思って、考えるのをやめた。すると、慌てた様子で菊田先生が入ってきた。きっと誰かが寮監である菊田先生を呼んできたのだろう。
先生は、息も絶え絶えに話す生徒の肩をさすり、子供をあやすような口調で宥めた。
菊田「大丈夫、大丈夫だ。落ち着け、よし、そうだ。少し外の空気を吸いに行こう。歩けるか?」
ふらふらと覚束無い足取りの生徒を支えて、歩き出した。
菊田「もうすぐ消灯時間だから、部屋に戻んなさいよ~」
それだけ言って生徒と先生は談話室を出ていった。
談話室に取り残された生徒たちは、先生の言うとおりぞろぞろと部屋に戻っていく。最後の一人が寝室へ向かったところで、談話室に残っている生徒が自分だけでないことに気づいた。
イ「…有古くん」
相変わらず大きな体躯をググッと屈めて、談話室の端に立っていた。名前が呼ばれると彼は、ゆっくりとこちらに歩み寄った。私もそうした。
イ「なんだか、他人事には思えなくなってきたね」
有「ああ…こんなに身近にいたとは」
有古くんのセーターの裾を軽く引いた。2人の体は触れるほど距離が近くなり、おずおずと腕を背中に回した。有古くんの体格のいい胴は、私の腕は周り切らなかった。抱きしめる腕に力が篭もると、セーター越しに彼の体温を感じた。彼は私の背中をさするようにして
有「きっと大丈夫。大丈夫だから」
そう諭すように言った。
イ「有古くんだけは、どこにも行っちゃやだよ」
大切な人を失う痛みはもう懲り懲りだ。
そう本音を零すと、有古くんはぎゅっと抱き締め返した。何も言いはしなかったけど、きっと思いは伝わっているだろうと信じた。
顔を上げると、熱を帯びた視線が私に降り注いだ。長いまつ毛も、潤んだ瞳も、決して手離したくないと私に思わせるには十分すぎるほどだった。
彼に手を伸ばして、親指で頬をさする。すると少し擽ったそうに目を閉じた。腕を彼の首に回して、唇を近付ける。背伸びをしても届くか分からない距離。もう少し、もう少し。熱を感じられるほどの、その距離はあと数mm程度だ。彼がくっと首を下げると、柔らかいキスが私の唇に注いだ。ほんの数秒触れ合った唇は、名残惜しそうに離れた。
有「いつもそばにいる、約束する。」
彼の瞳に嘘はなかった。