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日本の名作シリーズ 夢十夜

日本の名作シリーズ 夢十夜

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Re:夢十夜(第七夜) 2

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2022年11月06日

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語り手

乗合はたくさんいた。

語り手

たいていは異人のようであった。

語り手

しかしいろいろな顔をしていた。

語り手

空が曇って船が揺れた時、

語り手

一人の女が欄に倚りかかって、しきりに泣いていた。

……………っ

語り手

この女を見た時に、悲しいのは自分ばかりではないのだと気がついた。

語り手

ある晩甲板の上に出て、一人で星を眺めていたら、

語り手

一人の異人が来て、

異人

天文学を知ってるか?

語り手

と尋ねた。

語り手

自分はつまらないから死のうとさえ思っている。

語り手

天文学などを知る必要がない。

語り手

黙っていた。

語り手

するとその異人が金牛宮の頂にある七星の話をして聞かせた。

語り手

そうして

異人

星も海もみんな神の作ったものだ

語り手

と云った。

語り手

最後に自分に

異人

神を信仰するか?

語り手

と尋ねた。

語り手

自分は空を見て黙っていた。

語り手

或時サローンに這入ったら

語り手

派手な衣裳を着た若い女が向うむきになって、洋琴(ピアノ)を弾いていた。

語り手

その傍に背の高い立派な男が立って、唱歌を唄っている。

語り手

その口が大変大きく見えた。

語り手

けれども二人は二人以外の事にはまるで頓着していない様子であった。

語り手

船に乗っている事さえ忘れているようであった。

語り手

自分はますますつまらなくなった。

語り手

とうとう死ぬ事に決心した。

語り手

それである晩、

語り手

あたりに人のいない時分、思い切って海の中へ飛び込んだ。

語り手

ところが――

語り手

自分の足が甲板を離れて、船と縁が切れたその刹那に、

語り手

急に命が惜しくなった。

語り手

心の底からよせばよかったと思った。

語り手

けれども、もう遅い。

語り手

自分は厭でも応でも海の中へ這入らなければならない。

語り手

ただ大変高くできていた船と見えて、

語り手

身体は船を離れたけれども、足は容易に水に着かない。

語り手

しかし捕まえるものがないから、しだいしだいに水に近づいて来る。

語り手

いくら足を縮めても近づいて来る。

語り手

水の色は黒かった。

語り手

そのうち船は例の通り黒い煙を吐いて、通り過ぎてしまった。

語り手

自分はどこへ行くんだか判らない船でも、

語り手

やっぱり乗っている方がよかったと始めて悟りながら、

語り手

しかもその悟りを利用する事ができずに、

語り手

無限の後悔と恐怖とを抱いて黒い波の方へ静かに落ちて行った。

終り

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