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侑李
チャイムが完全に鳴り止む前に 侑李が私に必ず声を掛けてくる。
これがいつからかの日課だった。
雫
毎日この瞬間、 こぼれ出しそうな笑顔を必死で隠して 侑李の顔も見ずただの相槌の如く応える。
それが“友達”だから。
財布と携帯と ほんの少しのノートだけ入った 軽い鞄を肩に掛けて 侑李の前を歩いて一緒に教室から出る。
交わす会話に中身なんて無いけど それでも私の脳内はキラキラと輝いて うるさいくらいだった。
本当は侑李の後ろを歩いて、 その後ろ姿を見つめていたい。
だけど、出来るだけ自然に、 出来るだけ“友達としての自分”を 客観的に想像しては 自分の行動を決めるようにしていた。
靴箱まで来ると自分の靴を手に取って 地面に軽く落とすように指から離した。
男子
地面に着地した靴を見ていた視線は 聞き慣れない声の方向へ反射的に向く。
そこには“同じ学年”以上の情報を 持ち合わせていない男子が立っていた。
雫
なんとも間抜けな声で応えてしまう。
男子
雫
そう言いながら侑李を見ると ただ静かに私の前にいる男子を見ていた。
侑李
男子
雫
そう言い掛けた瞬間
侑李
私の言葉を遮るように、 笑顔で侑李が言った。
雫
侑李
そう言うと、 サラサラと髪の毛が鳴るように背を向けて 侑李は私から離れていく。
侑李をただ見つめたまま、 届いたか分からないほどの声で
雫
と呟いた。
出ようとした校舎だったはずなのに、 出した靴を靴箱に戻し 名前も知らない男子の後ろを 無言で歩くこと数分。
気がつくと誰もいない教室に 辿り着いていた。
その教室を見て、 目の前にいる男子が 隣のクラスの生徒なのだということに 初めて気がついた。
男子
突然の謝罪に反応して、目を見つめる。
雫
男子
雫
それ以外に 何か気の利いた返しが出来れば良かったが、その一言が限界だった。
男子
雫
この空気に名前があるなら なんて付けるだろう。
身体の中がギュウッと締め付けられるような、ゾワゾワする緊張感が教室に流れ
窓の外から 微かに聞こえてくる遠くの笑い声が、 この場の静けさを、より際立たせていた。
男子
雫
男子
雫
男子
雫
男子
雫
男子
雫
男子
そう笑顔で話す名前も知らない男子は よく見ると清潔感のある整った顔立ちで 笑顔は可愛らしかった。
男子
そう言って、意を決した様に 勢いよく私に一歩近づいてきて、
彼の足にぶつかった机が ガタッと音を鳴らした。
男子
雫
あぁ、またこの感覚だ。
とにかく肺の辺りが、 ギュウっと締め付けられて息苦しい。
教室内の酸素がさっきよりも薄く感じた。