TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

タイトル、作家名、タグで検索

テラーノベル(Teller Novel)
走馬灯ループ

走馬灯ループ

「走馬灯ループ」のメインビジュアル

1

走馬灯ループ

2021年09月03日

シェアするシェアする
報告する

玲奈〜

そろそろおきなさ〜い!

玲奈

ふぁ〜

玲奈

はぁ〜い

朝起きて顔を洗い、朝食をとり、いつも通り家の玄関のドアを空ける。

玲奈

行ってきまーす!

ガチャン

玲奈ぁ〜

起きなさーい!

玲奈

ふぁ〜

玲奈

あ…あれ?

玲奈

(私さっき家の玄関を出たはずじゃ…)

玲奈

(夢だったのかな?)

玲奈ぁ〜!

玲奈

聞こえてるよー!

玲奈

(ああ、もう一回支度するのだるいな)

玲奈

行って来まーす。

ガチャン

玲奈

今日も暑いな〜

季節は8月。 夏真っ盛りだ

朝からセミがうるさい。

玲奈

コンビニで今日のお昼ご飯買って行こ〜っと。

玲奈

ふ〜、すずし〜

玲奈

(どれにしようかな〜
おっ、新作入ってんじゃ〜ん)

玲奈ぁ〜!

玲奈

(うるさいなぁ…)

玲奈ぁ〜!

起きなさ〜い!

玲奈

(もう起きてるよ)

玲奈

(もうとっくに起きて家を出て、コンビニで弁当買ってるとこだよ)

玲奈

(そんなことも気づかないなんて、ばかだなぁ…)

玲奈〜!

あんたいつまで寝てんの!

玲奈

(しつこい…)

私は思い切り息を吸い込んで、起きてるよと叫ぼうとした。

玲奈

おきてるよ!!

玲奈

っは!

玲奈

また……夢……?

なぁ〜に寝ぼけたこと言ってんのあんたは。

起きてるったって、起き上がらなきゃ意味ないでしょうが。

さっさと朝ごはん食べちゃいなさい。

玲奈

(そう……だよね。)

玲奈

(よく考えたら、コンビニまでお母さんの声が聞こえるはずなかった)

玲奈

(それに私、お弁当持って行くからわざわざコンビニで買わなくてもいいんだった)

玲奈

(あの支離滅裂さはまさしく夢だ!)

私は一通りの朝の支度を済ませ、玄関のドアを開けた。

玲奈

うう〜寒い

玲奈

(さすがにもう、夢じゃないよね?)

私はジャンプしてみた。

地面を踏みしめる力強い感触。

それにこの寒さ。 とても夢とは思えないリアルさだ。

今は12月。 寒いのは当たり前だ。

玲奈

よし! 大丈夫。現実だ。

コンビニへは寄らず、まっすぐ駅へと向かい、いつもの電車に乗る。

第一私に朝コンビニへ寄る習慣などない。

それなのに夢を見ている最中はそれが毎日の習慣だと思いこんでいた。

目が覚めるまで、そのことに全く違和感を覚えなかった。

玲奈

(夢って不思議だよね〜
どんなに不思議なことが起きても目を覚ますまで本当に現実だと思い込んでるんだもん)

玲奈

(でも、今度こそ本当に現実だよね。だってあんなに寒くて、起きるのが辛かったんだもん)

アナウンス

次は〜、あさぼけぇ〜、あさぼけぇ〜

玲奈

(あ、着いた。降りないと。)

玲奈

どこ? ここ?

そこは見たこともない場所だった。 どうやら電車に乗る方向を間違えたらしい。

玲奈

(仕方ない。次に来た電車に乗るか。
あーもう遅刻確定だよ〜。)

私は来た時とは反対方向の電車に乗った。

アナウンス

次は〜ジリリリリッ、ジリリリリッ

玲奈

(何だそれ。そんな駅名聞いたことないぞ?)

アナウンス

ジリリリリッ、ジリリリリッ

玲奈

(何回言うんだよ。普通2回繰り返すだけで終わりでしょ。)

アナウンス

ジリリリリッ、ジリリリリッ!

玲奈

(なんか、だんだん大きくなってない?)

アナウンス

ジリリリリッ、ジリリリリッ!!

ジリリリリッ

玲奈

あーもうるさいなぁ〜

私は布団の中から手を伸ばして枕元にあるスマホのアラームのスイッチを切った。

同時に意識は現実へと引き戻される。

私は2年前の春から上京して来て、アパートの一室を借りて一人暮らしをしている大学生だ。高校などとっくに卒業している。

起こしに来てくれる母もここにはいない。 だからこうして自分で起きなければならない。

ちなみに私の通っていた高校は徒歩で行ける距離にあったので電車に乗る必要など全くない。

玲奈

ふぁ〜、ひさびさにはっきりした夢だったなぁ〜。

いつものように顔を洗い、朝食を取り、出かける支度をする。

玲奈

行って来まーす。

誰にともなくそう言って、アパートのドアを開ける。

ガチャン

玲奈

うーん今日も良い天気!

私はアパートを出るとトンネルへと向かった。

少し不気味な場所だが、このトンネルを抜けないと大学へ行くことはできない。

玲奈

(えっと、こっちかな?)

私は適当に脇道へ入る。

入った先にもいくつもの脇道があって、複雑に入り組んでいる。

道幅は細くなったり太くなったりを繰り返し、どこまでも続いていた。

玲奈

(なかなかつかないなぁ…。外が恋しい…。)

玲奈

あっ! 出口が見えて来た!

玲奈

なぁんだ。夜景が見えるビルの屋上かぁ……。

私は再びトンネルへと戻って歩き出した。

玲奈

ここも違う。

玲奈

ここも……。

玲奈

もう、全然大学にたどり着けないじゃない!

…さん。 …佐藤さーん!

玲奈

ああもううるさいな!
確かに私は佐藤だけど。

佐藤さーん!

玲奈

もう! なんなのよ!

佐藤玲奈さーん!

介護士

佐藤玲奈さん。お早うございまーす!

玲奈

(だれ?
ここ どこ?)

玲奈

(からだじゅうに チューブ つながって うごけない)

玲奈

(おかあさん どこ?
ここわたしのおうちじゃない。)

玲奈

(こわい)

玲奈

まぁ……あー

玲奈

(のどがはりついて こえがしゃがれて はがなくて うまくしゃべれない)

介護士

あ、ひさしぶりに喋ってくれたね?
うん、血色も良いし、元気そうでよかった!

玲奈

(うるさい
あたまに キンキンひびく)

玲奈

ひ……ひが……

介護士

今日はずいぶんと機嫌が良さそうだね!
佐藤さんが元気そうで私もうれしい!

介護士

じゃあ、おむつ替えさせていただきますね〜。

玲奈

(やめて わたしのからだに さわらないで)

玲奈

(こわい)

玲奈

(こわい)

玲奈

(たすけて)

玲奈

(おかあさん)

介護士

ふう……やっとひと段落ついた。
今日の利用者さんの記録を付けてっと。

看護師

お疲れ様〜。

介護士

あ、お疲れ様で〜す。

看護師

さっき巡回してきたんだけどさ。

看護師

この仕事長いこと続けてるとわかるのよね。
301号室の佐藤さん、もう長くないわね。

介護士

えっ?
だって佐藤さん、今朝はお元気そうでしたよ?
普段ほとんど喋らない方なのに、今日はひさびさに発声があったんです。

看護師

死期が近づいている時というのはそういうものよ。
それに、佐藤さんが声を発するのは何も楽しいからじゃないのよ。

看護師

あれはね、悪夢にうなされてるの。

介護士

悪夢?

看護師

あなたはここへ来てまだ日が浅いから知らないと思うけど、まだ動けたころの佐藤さんって、凄く気難しくて暴れ出したら手が付けられなくて、大変だったのよ。

看護師

「ここはどこ〜」
「おうちにかえして〜」
「おかあさ〜ん」って。
まあ、認知症患者にはよくあることよね。

看護師

動けなくなってもそれは同じよ。
ここがどこかもわからず、過去と現在の区別もつかず、永遠に悪夢の中をさまよっているようなものなの。

介護士

はえ〜
何だか可哀想。
佐藤さんも気の毒ですね。そんな状態なのに、ご家族もいないから面会に来る方もいないし。

看護師

親からの虐待で碌に学校へは行けず、憧れていた大学にも結局成績が足りずに行けなかった。
唯一の肉親の母親が死んでからは天涯孤独の身。精神病を患って施設に入院して、そのままこの老人ホームに移動されてきたなんて。

介護士

なんか……佐藤さんの人生っていったい何だったんでしょうね……。

看護師

でもね、あの人の思い出話に出てきた「お母さん」は、とても優しい人よ。
毎朝起こしに来てくれたり、お弁当を作ってくれたり。
とてもあの人の経歴からは想像出来ないくらい。

介護士

えっ? それって……。

看護師

認知症って、過去の世界に生きてるって言うでしょ?
でもあの人は認知症と同時に別の精神病も患ってる。

看護師

普通なら明るく楽しかったはずの青春時代。
だけどあの人にはそんなものなかった。だから自分で作った。
自分の過去の記憶を、嘘の記憶で塗り固めてるんじゃないかしら。

看護師

存在し得ない偽りの過去を。
思い描いていた理想的な過去を。
繰り返し繰り返し、追体験しているんじゃないかしら。
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
;