母
母
玲奈
玲奈
朝起きて顔を洗い、朝食をとり、いつも通り家の玄関のドアを空ける。
玲奈
ガチャン
母
母
玲奈
玲奈
玲奈
玲奈
母
玲奈
玲奈
玲奈
ガチャン
玲奈
季節は8月。 夏真っ盛りだ
朝からセミがうるさい。
玲奈
玲奈
玲奈
おっ、新作入ってんじゃ〜ん)
母
玲奈
母
母
玲奈
玲奈
玲奈
母
母
玲奈
私は思い切り息を吸い込んで、起きてるよと叫ぼうとした。
玲奈
玲奈
玲奈
母
母
母
玲奈
玲奈
玲奈
玲奈
私は一通りの朝の支度を済ませ、玄関のドアを開けた。
玲奈
玲奈
私はジャンプしてみた。
地面を踏みしめる力強い感触。
それにこの寒さ。 とても夢とは思えないリアルさだ。
今は12月。 寒いのは当たり前だ。
玲奈
コンビニへは寄らず、まっすぐ駅へと向かい、いつもの電車に乗る。
第一私に朝コンビニへ寄る習慣などない。
それなのに夢を見ている最中はそれが毎日の習慣だと思いこんでいた。
目が覚めるまで、そのことに全く違和感を覚えなかった。
玲奈
どんなに不思議なことが起きても目を覚ますまで本当に現実だと思い込んでるんだもん)
玲奈
アナウンス
玲奈
玲奈
そこは見たこともない場所だった。 どうやら電車に乗る方向を間違えたらしい。
玲奈
あーもう遅刻確定だよ〜。)
私は来た時とは反対方向の電車に乗った。
アナウンス
玲奈
アナウンス
玲奈
アナウンス
玲奈
アナウンス
?
玲奈
私は布団の中から手を伸ばして枕元にあるスマホのアラームのスイッチを切った。
同時に意識は現実へと引き戻される。
私は2年前の春から上京して来て、アパートの一室を借りて一人暮らしをしている大学生だ。高校などとっくに卒業している。
起こしに来てくれる母もここにはいない。 だからこうして自分で起きなければならない。
ちなみに私の通っていた高校は徒歩で行ける距離にあったので電車に乗る必要など全くない。
玲奈
いつものように顔を洗い、朝食を取り、出かける支度をする。
玲奈
誰にともなくそう言って、アパートのドアを開ける。
ガチャン
玲奈
私はアパートを出るとトンネルへと向かった。
少し不気味な場所だが、このトンネルを抜けないと大学へ行くことはできない。
玲奈
私は適当に脇道へ入る。
入った先にもいくつもの脇道があって、複雑に入り組んでいる。
道幅は細くなったり太くなったりを繰り返し、どこまでも続いていた。
玲奈
玲奈
玲奈
私は再びトンネルへと戻って歩き出した。
玲奈
玲奈
玲奈
…さん。 …佐藤さーん!
玲奈
確かに私は佐藤だけど。
佐藤さーん!
玲奈
佐藤玲奈さーん!
介護士
玲奈
ここ どこ?)
玲奈
玲奈
ここわたしのおうちじゃない。)
玲奈
玲奈
玲奈
介護士
うん、血色も良いし、元気そうでよかった!
玲奈
あたまに キンキンひびく)
玲奈
介護士
佐藤さんが元気そうで私もうれしい!
介護士
玲奈
玲奈
玲奈
玲奈
玲奈
介護士
今日の利用者さんの記録を付けてっと。
看護師
介護士
看護師
看護師
301号室の佐藤さん、もう長くないわね。
介護士
だって佐藤さん、今朝はお元気そうでしたよ?
普段ほとんど喋らない方なのに、今日はひさびさに発声があったんです。
看護師
それに、佐藤さんが声を発するのは何も楽しいからじゃないのよ。
看護師
介護士
看護師
看護師
「おうちにかえして〜」
「おかあさ〜ん」って。
まあ、認知症患者にはよくあることよね。
看護師
ここがどこかもわからず、過去と現在の区別もつかず、永遠に悪夢の中をさまよっているようなものなの。
介護士
何だか可哀想。
佐藤さんも気の毒ですね。そんな状態なのに、ご家族もいないから面会に来る方もいないし。
看護師
唯一の肉親の母親が死んでからは天涯孤独の身。精神病を患って施設に入院して、そのままこの老人ホームに移動されてきたなんて。
介護士
看護師
毎朝起こしに来てくれたり、お弁当を作ってくれたり。
とてもあの人の経歴からは想像出来ないくらい。
介護士
看護師
でもあの人は認知症と同時に別の精神病も患ってる。
看護師
だけどあの人にはそんなものなかった。だから自分で作った。
自分の過去の記憶を、嘘の記憶で塗り固めてるんじゃないかしら。
看護師
思い描いていた理想的な過去を。
繰り返し繰り返し、追体験しているんじゃないかしら。