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テラーノベル(Teller Novel)

太田豊太郎

俺は子どもの頃から年長者の教えをただ守っていただけで、

太田豊太郎

勉強していたときも、働いていたときも、

太田豊太郎

全部強い意志があってやっていたのではない。

太田豊太郎

忍耐力があるように見えたのも、全部自分を欺き他人をさえ欺いて、

太田豊太郎

他人の引いたレールをただ走っていただけだ。

太田豊太郎

迷いがなかったのは、

太田豊太郎

外部の刺激を捨てて顧みないほどの勇気があったからではなくて、

太田豊太郎

ただ外部の刺激をおそれて自分の手足を縛っていただけだ。

太田豊太郎

故郷をでたときも、自分が有能な人間であることを疑わず、

太田豊太郎

また自分の精神力の強さも深く信じていた。

太田豊太郎

ああ、それも一時のことだ。

太田豊太郎

船が海外目指して横浜を離れるまでは、

太田豊太郎

立派な豪傑だと信じていた自分があふれ出る涙にハンカチを濡らしたことを、

太田豊太郎

自分でもおかしいなと思っていたが、

太田豊太郎

それこそが俺の本性だったのだ。

太田豊太郎

この弱い心は生まれながらのものだろうか、

太田豊太郎

それとも早くに父を亡くし、母の手に育てられたことによって生じたのだろうか。

太田豊太郎

彼らが俺を嘲るのはもっともだ。

太田豊太郎

だけどねたむなんてのはばかばかしい。

太田豊太郎

この弱くどうしょうもない心をねたんでどうするのだ……

太田豊太郎

赤い口紅に白い化粧、きらきらとした服を着てカフェで客を待っている女を見て、

太田豊太郎

これに話しかける勇気はなく、

太田豊太郎

高い帽子に鼻眼鏡、貴族のような話し方とする遊び人を見ては、

太田豊太郎

言って話しかける勇気もない。

太田豊太郎

こんな勇気がなければ、活発な同郷人と交際しようもない。

太田豊太郎

このように交際してこなかったために、

太田豊太郎

彼らは唯俺をあざけったり、ねたんだりするだけでなく、

太田豊太郎

俺を疑うことになった。

太田豊太郎

これこそ俺が冤罪でわずかの間に無限の苦しみを味わうきっかけとなったのだ……

豊太郎の冤罪とは? 続く。

日本の名作シリーズ 舞姫(完結)

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