「あ!あれ食べようよ!」
紗良の声につられ俺は 車椅子を押す手を止める
晴翔
紗良
食べようよ!
昼は暑く 夕方になると少し涼しくなるこの季節
俺たちは地元の小さな祭りに来ている
人にぶつからないように 丁寧に紗良の乗っている車椅子を押す
紗良
晴翔
紗良
紗良
晴翔
ベビーカステラの口になってたのに
紗良
紗良
お賽銭しにレッツゴー!!
車椅子の向きを変え 賽銭箱を目指す。
紗良
晴翔
紗良
五円とご縁、をかけているだって!
晴翔
紗良
晴翔
紗良
晴翔
五円を入れる人
10円を入れる人
100円を入れる人。
色んな人がいるじゃん?
紗良
晴翔
10円玉を10個入れた方が良くない?
晴翔
願い事10個叶うかもよ笑
紗良
紗良
紗良
晴翔
そっかー笑
そんな会話をしていると 気がつけば賽銭箱の前に居た
紗良
5円あった!!
晴翔
紗良
5円じゃなくていいの?
晴翔
紗良
パンパン!
賽銭箱にお金を投げ入れると 紗良と俺はそれぞれ目を瞑る。
晴翔
なんて願った?
紗良
晴翔は?
晴翔
来年も来れますように。
だな
紗良は少し黙り込む。
晴翔
紗良
って願った笑
晴翔
紗良
「だからーー!! 買ってよぉ!!」
色んな音が混ざり合うなか とっても大きな声が響き渡る
男の子
ママ!
このお面買ってよ!!
お母さん
どうせ直ぐに捨てるだけでしょ?
男の子
捨てないよぉー!
男の子
男の子
オレンジレンジャーお面買ってよぉ
そんな親子の会話を横目に 俺は車椅子を押し鳥居をくぐり 神社を後にする。
晴翔
紗良
晴翔
ああいう子供が大っ嫌いなんだ
紗良
晴翔
晴翔
晴翔
晴翔
来年が来るかすら定かではない そんな場所で僕らは生活をしている。
俺は生まれつき 心臓の病にかかっていた。
中学3年まではみんなと同じように 生活出来ていたが、 高一の春、教室で倒れてからは ずっと病院で入院中だ。
助かるには 心臓のドナーが必要らしいが 小児の心臓ドナーはそう簡単には 回ってこず
恐怖と戦いながらの 毎日を過ごしている
唯一の楽しみは 一日だけ外出を許される 夏祭りの日だ。
紗良はALSと言う病気だ。 体の筋肉が固まっていき 最終的に心臓すら動かなくなる。
そんな俺たち出会いは当たり前だが 病院だった。
明日が来るかも分からない。 紗良と居ればそんな不安さえも 何だか大丈夫な気がした。
紗良
紗良
晴翔
紗良
それより、ね?
笑ってよ笑
紗良
晴翔
俺は少し無理して口角を上げる。
紗良
晴翔
紗良
晴翔
花火が上がる。
晴翔
夏祭りが終わり いつもの日常になった頃 紗良は突然言い出した。
紗良
晴翔
晴翔
あと半年も持つかわかないんだぞ?
紗良
紗良
紗良
紗良
紗良
紗良
いやだよ。
晴翔
晴翔
晴翔
晴翔
紗良と祭りに行きたいんだ
紗良
親にも言った。
紗良
紗良
晴翔
晴翔
日常は簡単に崩れる。
そう実感した日だった。
深夜2時 大人達の会話で目が覚める。
紗良が死んだらしい。
紗良が死んで1週間が経った。
この一週間は何もしていない。 ご飯を食べる。 寝る。 だけだ。
死因は階段からの転落死
自殺だったのか? ただの事故だったのか。
どちらにせよ 俺と紗良の別れは最悪だった。
晴翔
紗良。
毎晩毎晩、 天井を見ては瞳いっぱいになった 涙が頬伝う。
紗良のお母さん
紗良のお母さん
突如部屋の扉が開き 紗良の母親が入ってくる。
晴翔
晴翔
まだ7時なんで大丈夫ですよ。
紗良のお母さん
晴翔
紗良のお母さん
晴翔
「先日紗良のスマホを見てたら見つかったんだけど、」 紗良の母親はそう言うと続けた
紗良のお母さん
紗良からのメッセージを読んで貰いたい
紗良のお母さん
紗良のお母さん
それだけ言うと 紗良の母親は一礼だけし 部屋から出ていった
晴翔
ピコン スマホの起動音がなる。
通知の溜まったメッセージ欄の中から
紗良を見つける。
晴翔
震える手で タップする。
紗良
紗良
紗良
紗良
晴翔に大切だ!って言われて
紗良
紗良
ごめんね。
紗良
私夢があるの
紗良
紗良
晴翔になりたい!
紗良
君は、「俺はまだ生きてる!」
紗良
紗良
紗良
紗良
紗良
紗良
毎年、毎年、そう祈ってた。
紗良
紗良
紗良
毎年5円をお賽銭していた私!笑
紗良
紗良
紗良
私は生き続けられる。
紗良
どれくらい泣いただろう。 気がつけば外は明るくなっていた。
晴翔
俺は1度だけ叫ぶと 声を殺してまた泣いた。
夜店の人
ベビーカステラはいかが!?
いつもの鳥居を今年は1人でくぐる。
少しベビーカステラも食べたいが 先にお賽銭箱へと向かう。
財布からお金を取り出し 賽銭箱に投げ入れる。
晴翔
やはり、いつも通りの願い事をする
賽銭箱に背を向け 立ち去ろうとした時
「願い事は1人1つ!」
ふと女の子の声が頭に響く。
晴翔
俺は再び賽銭箱へと向かい 財布の中から五円玉を探す。
晴翔
今度こそ 賽銭箱に背を向け立ち去る。
ドン!
腰に衝撃が走る。
晴翔
男の子
後ろから男の子に ぶつかられたらしい。
晴翔
大丈夫。
男の子に背を向け歩き出す。
後ろでは男の子達の声が聞こえてくる
男の子達
お前なにやってんだよ笑
男の子達
そんな時代遅れなお面付けてるから
トロイんだよ!
男の子
これは大切なんだ!!
男の子
男の子達
とにかく早く行こーぜ
男の子
気がつけば 晴翔の口角は少し上がっている。
紗良
晴翔
紗良
晴翔
花火が上がる。