思い返してみると
僕は君に何も
してあげられなかったように思う。
裕二
(あ、お婆さんが困ってる)
裕二
(声を掛けた方がいいのかな)
裕二
(迷惑じゃないだろうか…)
???
お婆さん
???
荷物持ちましょうか
お婆さん
ご親切にありがとう
あの時も。
???
ノート落としましたよ
裕二
あ、貴方はこの前の…
???
え?
裕二
(覚えてるわけないか)
裕二
(面識あったわけでもないし)
裕二
(でも同じ学校の人だったんだ)
???
私、小春って言います
裕二
あ、僕は裕二です…
小春
裕二さん
小春
次はもう少し上手く
小春
誘ってくださいね
裕二
えっ?
裕二
あっ、いや…ちが…
小春
じゃあ、私はこれで
裕二
(行ってしまった…)
裕二
(誘ったわけじゃないのに…)
あの時も。
裕二
(今日で2回目のデート…)
裕二
(会ってくれるということは)
裕二
(脈ナシってことはない…はず)
裕二
(今日伝えなきゃ…)
裕二
あの、
小春
裕二さん
裕二
…え
裕二
(もしかして)
裕二
(スタッフロール
見たい派だった?)
見たい派だった?)
小春
好きです
小春
付き合ってくれませんか?
あの時も。
小春
裕二さん、見て
小春
あそこに大きな船!
小春
クルーズ船で世界一周
小春
みたいな老後生活って…
小春
少し憧れちゃうな
裕二
(話の流れ的に)
裕二
(言うのは今しかない)
裕二
小春さん
裕二
あの…えっと…
裕二
(言え!言うんだ)
小春
裕二さん
小春
私と結婚してください
小春
十年後、二十年後も
小春
隣にいてください
あの時も。
いつも大事なことは
君の口からだった。
付き合う時もプロポーズも
僕は大事なことを口にする
ひと握りの勇気がなかった。
「愛してる」のひと言さえ
勇気がなくて言ったことがない。
僕は君に何を
してあげられたのだろう。
小春
あ…なた…
裕二
小春…
小春
もっとよく顔を見せて…
苦労を掛けたのだろう。
小春の美しい顔には
たくさんの皺が刻まれている。
裕二
ああ…
静かな病室に電子音が響く。
裕二
小春
小春
なあに
裕二
君は…
幸せだった?
聞こうとしてやめる。
幸せだったはずがない。
こんなに苦労を掛けたのだ。
答えを知るのが怖くて
僕は口をつぐみ顔を逸らす。
小春
幸せな七十年でしたよ
小春
私はとても…幸せでした
ゆっくりと
小春が唇を動かす。
小春
貴方…愛しています
小春
ずっと、愛していますよ
ピ │ ッ
裕二
僕も…ずっと愛してるよ
完