天から降り注ぐ暖かな木漏れ日、それとは似合わない冷たい空気。
土や木々の匂いが私の鼻を通る。
葉擦れの音の中に水が流れる音が混ざり合って微かに聞こえる。
足下は鬱蒼とした雑草だらけ。
頭上は枝分かれした様々な木々から芽生えたばかりの葉。
私は澄んだ空気を思いっきり吸い込み、言葉と一緒に吐き出した。
旅度 さくら
それは丁度一時間前に遡る。
旅度 さくら。
絶賛受験に追い込まれてる一般的な中学生。 勉強自体は凄い出来るわけでも、出来ないわけでも無い。
そんな私が唯一羽を休める事が出来るのは、 旅に出る事。
私自身、アウトドアでは無いが外に出るのは嫌いでは無い。家族と色々出掛けることもよくある。
でも旅といっても県を跨いで行くようなものではなく、近所とかショッピングモールを歩いて散歩するようなものだ。
今日も塾帰りの夕方に、家とは反対の方向に寄り道している最中。
緩やかな道を進んで行くと小さな商店街に着いた。
ガラスケースに並んでいる商品をチラチラ流して見ながら歩く。
そこでニュースが放送されているテレビの前に足と目を止めた。
「近頃、老若男女問わず行方不明者が増加しています。 皆さん、外出時には___」
私は『行方不明』という言葉に嫌気がさす。
私の学校でも幾人も行方不明になっている人がいる。
その中には私と昔から仲が良い人だっていた。 何度も捜索や呼び掛けに参加したが、手掛かりはたった一つも見つかっていない。
こんな暗い事を考え込んでしまうと気休めにはならないと、ニュースから目を離して特に目的地も無くまた進み始める。
日が段々と沈み、世界が夜のカーテンに包まれ始める頃。
旅度 さくら
私は家からかなり離れた沢山住宅が立ち並んだ場所にいることに気付く。
どうしよう、と頭が混乱したが冷静さを取り戻す為に、一度目を瞑り数回深呼吸をする。
旅度 さくら
少し強めに頬を叩き、目を開ける。
そして私は一瞬呆然とした。
私は先程の人工物が立ち並んだ道ではなく、 見知らぬ森の中に立っていたのだ。
旅度 さくら