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その夜──
花森小夜子
響ちゃん、コンクールの曲
花森小夜子
リストにしたんだって？
科野響
花ちゃん、情報早すぎじゃない？
科野響
生徒会ネットワーク？
花森小夜子
うふふ、職員室でね
花森小夜子
他の先生に、相羽先生が
花森小夜子
嬉しそうに話してたらしいよ
科野響
相羽先生が？
花森小夜子
科野がやる気出してくれたって
花森小夜子
あいつは情感豊かな音を出すから
花森小夜子
仕上がりが楽しみだって
科野響
科野響
花ちゃんみたいに入賞できるほど
科野響
私、ちゃんと弾けないよ
花森小夜子
私は、正確なだけだよ
花森小夜子
響ちゃんみたいには、弾けない
花森小夜子
聞いていい？
科野響
なに？
花森小夜子
響ちゃん、相羽先生のこと好き？
科野響
好きだよ
科野響
担当の先生だもん
花森小夜子
花森小夜子
そういう意味じゃないんだけどなぁ
科野響
花ちゃんこそ
科野響
上条先輩とどうなの？
花森小夜子
科野響
いい感じなんじゃないの？
花森小夜子
花森小夜子
また明日ね
翌日
科野響
（昨日、花ちゃんとのメッセージ）
科野響
（変なふうに途切れちゃったけど）
科野響
どうしたんだろう…
気になりつつも登校して、教室に入ると
花ちゃんは朗らかに笑って、私を出迎えてくれた
花森小夜子
響ちゃん、おはよう
科野響
おはよう
科野響
花ちゃん、あのさ…
花森小夜子
あ、私、生徒会室に忘れ物しちゃった
科野響
あ、そ、そうなの？
花森小夜子
うん
花森小夜子
ちょっと、取ってくるね
──ガラガラ、パタン
科野響
なんだか、花ちゃん…
科野響
（やっぱり、様子が変な気がする）
科野響
（最近、音も冴えないし）
科野響
（生徒会に新しい書記の人が入ったとか聞くけど）
科野響
（それと関係あるのかな…）
科野響
今も、なんか変な感じだったよね…
科野響
（いつも、面倒見てもらってるのに）
科野響
私が花ちゃんのためにできることなんて…
科野響
（何もないのかな）
花ちゃんの様子が気になりつつも──
私は課題曲のリストを一人で練習していた
紺本真尋
科野さん
科野響
あ、紺本先生…
以前、私の担当教諭だった紺本先生を前に
無意識に身構えてしまう
紺本真尋
最近、花森さん…どう？
科野響
どう？と言いますと
紺本真尋
相変わらず
紺本真尋
課題や僕が指示することはちゃんとやってくるけど
紺本真尋
様子がおかしい気がして
科野響
（先生にもそう見えるんだ）
科野響
…………
科野響
すみません、分かりません
紺本真尋
そう…？
科野響
はい
紺本真尋
分かった
紺本真尋
何か気になることがあったら
紺本真尋
後でも知らせてくれる？
科野響
はい
──ガラガラ
科野響
ふうっ…
科野響
やっぱり
科野響
紺本先生も気になるんだ
科野響
心配だな
相羽奏亮
どうかしたか？
科野響
──っ
科野響
相羽先生…
科野響
いつの間に
相羽奏亮
いつの間も何も
相羽奏亮
これから課外授業だろう
科野響
そうだった…
科野響
（最近、自主練頑張ってて）
科野響
（なんだか、出来るようになった気がして）
科野響
（相羽先生に私からお願いしたのに）
とても弾ける気がしなくて、思わず俯く
相羽奏亮
君は…
科野響
…っ
科野響
（また、小突かれる！？）
相羽奏亮
何かあったか…？
科野響
！？
相羽奏亮
話せることなら話してみろ
科野響
なんで…
相羽奏亮
…ん？
科野響
なんでそんなに、相羽先生には
科野響
なんでも…分かっちゃうんですか？
相羽奏亮
さあ？
相羽奏亮
なんでだろうな
科野響
…………
相羽奏亮
今日は課題曲はやめるか？
科野響
え？
相羽奏亮
気が乗らないようだからな
相羽奏亮
好きな曲を弾くといい
科野響
…本当ですか？
相羽奏亮
ああ
相羽奏亮
君は情感が豊かな分
相羽奏亮
気分がすぐに音に出る
科野響
う…
科野響
子どもっぽいですよね
相羽奏亮
実際、子どもだろ
科野響
子ども…
科野響
（先生には、子どもにしか見えてないんだ）
科野響
（なんだか、寂しい）
相羽奏亮
ほら、好きなの弾いてみろ
科野響
だったら…
──〜〜…♪
相羽奏亮
！！
紺本真尋
悪い、ちょっと次の授業で楽譜を見せて…
紺本真尋
…！？
科野響
この曲…
科野響
小さい頃に、聞いたことがあって
科野響
なんの曲だか、先生、知ってますか？
相羽奏亮
いや…
相羽奏亮
……
紺本真尋
…………
小さい頃から頭の中で流れていた旋律
好きなように弾けと言われて、真っ先に思いつくのは
このメロディしかなかった
それから数日後
科野響
そんな…！
教員室に呼ばれて突然聞かされた話に
頭の中が真っ白になった
科野響
相羽先生が担当教諭を辞める…！？
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