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これが初恋

これが初恋

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わなかぶ前提のなぐかぶ。秘めし恋、最後の恋の和中視点。切ない。

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2023年05月30日

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自分の不用意な一言が、この事態を招くとは、思わなかった。

その日、俺は親っさんの晩酌に付き合っていた。

天羽桂司

和中、お前は浮いた話一つ聞かんが、身をかためる気はねぇのか?

和中蒼一郎

今のところは

天羽桂司

誰か好いたやつはいねぇのか?

和中蒼一郎

ああ。それならいます

天羽桂司

いるのか。そいつは、俺が知っているやつか?

和中蒼一郎

愚公移山(ぐこういざん)。けれど、驕(おご)らず。そんなとこを好ましく思っております

決して、才能のない事を言い訳にせず、期待に応えようと努力する姿。

意思の強い、エメラルドの瞳。

そして、何よりも、花をほころばせて笑う顔が気に入っている。

天羽桂司

華太か

しかし、俺の想いが報われる事はない。

和中蒼一郎

はい

俺が華太を好いているように、華太は南雲を好いていた。そして、南雲もまた華太を好いている。

この先も華太が、笑って暮らせるなら、それでいい。俺は潔く、身をひこう。そう決めていた。

天羽桂司

そうかそうか

親っさんは、どこか嬉しそうに酒をあおった。

親っさんの晩酌に付き合った翌日、朝から快晴だった。

何時ものように、庭で鍛練に勤しみ、汗を流していた。親っさんが用事があると、永瀬が俺を呼びにきた。

和中蒼一郎

親っさん、何かご用ですか?

天羽桂司

和中、喜べ。小峠が、お前のもとに嫁ぐことを決心してくれたぞ

和中蒼一郎

昨夜の話は、ただの酒の肴(さかな)の話だ。

俺は華太の心を蔑(ないがし)ろにしてまで、 手入れようなど思ってはいない。

その事を親っさんに伝えようと口を開こうとしたが

小峠華太

不束ものですが、よろしくお願いします

それよりも先に、華太によって、遮られてしまった。

表情こそ、何時もと変わらないも、エメラルドの瞳は、どこか諦観(ていかん)めいた色を帯びていた。

そんな顔をさせたかった訳じゃない。

天羽桂司

どこの馬の骨とも知れんやつよりも、気心知れた、お前たち二人が夫婦(めおと)になるほうが、俺も安心だ

これは、慈しみからの計らいだということが、親っさんの喜悦の表情からみてとれる。

天羽桂司

それで、だ。いつ抗争が起こるやもしれんが、幸い最近は落ち着いている。この際に、祝言の日取りを決めてしまおうかと思ってな

もとより、子は親のもの。

全ての決定権は、親っさんにある。

親っさんの言葉を覆す事が出来ない以上、受け入れるしかない。

和中蒼一郎

日取りは、親っさんの都合つく日で、構いません

天羽桂司

むう、そうか。なら、この日はどうだ?

当初、すぐに決まるであろうと思われた日取りだが、この日は忌み日だったりと、親っさんの予定と合わず。話が予想以上に長引いていた。

祝言の日取りを決めている間、華太は俺の側にはいるものの、話には入らず、ぼんやりとした様子で、七曜表(しちようひょう)を眺めている。 (※七曜表:カレンダーのこと)

先ほどまで、ぼんやりとしていた華太の纏う空気が、急に張り詰めたものへと変貌する。

天羽桂司

そうだ。和中、小峠、明日は休みにしておくから、二人で着物を見てきなさい

親っさんの声に弾かれ、華太の張り詰めた空気が一気に霧散する。

小峠華太

お気遣いありがとうございます

小峠華太

お言葉に甘えさせていただきます

和中蒼一郎

親っさん、何から何まで、お心遣いいただき、感謝致します

天羽桂司

いや、二人はよく組に尽くしてくれてる。此れくらいしても罰は当たらないどころか、足りねぇくらいだ

天羽桂司

組を挙げて、盛大な式にしよう。お前たちも当日を楽しみにしておけ

小峠華太

はい

和中蒼一郎

ええ

祝言の日取りも決まった事で、その場はお開きとなった。

その後、華太は嫁入り道具の準備や手配を、俺は華太の親代わりの親っさんと姐さんと盃をかわす為、二手(ふたて)に別れた。 (※婿になる人は、嫁実家に赴き、舅と姑と盃を交わしてから帰り、その夜、嫁を迎える)

粗方の準備が整った頃には、夜の帳(とばり)を迎えていた。

今夜は新月故に、部屋を照らす灯りはなく、蝋燭に火を灯す。

故郷の弟宛に、祝言の知らせを文(ふみ)に、したためようと筆を取り出す。

ゆらりと蝋燭の炎が揺れる。

足音を忍ばせ、部屋の前の廊下を横切る人影が、障子ごしに浮かびあがる。

和中蒼一郎

(このような時間に誰だ?)

障子を開け、確認するも既に人影は去ったあとだった。

親っさんを狙う不届き者かもしれぬ。

念のため、人影を追って、俺も廊下の角を曲がる。

しかし、角を曲がった先には、人影の姿かたちもなし。人影が部屋を横切ったのはついさっき。なら、まだその辺に、潜んでいる可能性があるとして、廊下の巡回を続ける。

南雲の部屋の前に差し掛かると、南雲の部屋から、華太の嘆願する声が聞こえてきた。

小峠華太

俺の初めては、南雲の兄貴に捧げたいんです!

祝言前とはいえ、輿入れ先が決定している以上、華太は俺の妻だ。

本来、俺以外の男の部屋を訪ねることは許されない。

まして、一度きりとはいえ、旦那以外の男と契りを結べば死罪。 (江戸時代、姦通罪(浮気)は死罪)

小峠華太

この想いは胸に秘めたまま、墓場もっていきます。だから、今夜だけは、俺を南雲の兄貴のものにさせて下さい!

しかし、華太の心を思えば、 咎める気にはなれない。

俺にそのつもりがなかったとはいえ、結果的、結ばれる筈だった二人を引き裂いてしまった。

これは、恋仲の二人を違(たが)わせた、俺への罰として、甘んじて受け入れよう。

そう心に決め、俺は気配を殺し、その場を離れた。

あの日と同じく、見事なほどの快晴が俺を出迎える。

何時もの赤を基調とした着物から、白の羽織、白袴に着替え、華太を迎えに行く。

和中蒼一郎

支度は済んだか

小峠華太

はい

白無垢に身を包んだ華太は、とても綺麗だった。

華太の白磁器の肌に、口元の紅、朱色のアイラインが、更に華太の美しさを際立たせていた。

和中蒼一郎

綺麗だ

小峠華太

ありがとうございます。わな、蒼一郎さんの羽織袴姿も素敵です

祝言会場となる俺の屋敷に向かうため、華太の手を引く。

式の参列者たちが、俺たちが歩く度に、祝辞をかけてくる。

参列者の中に、南雲の姿もあった。

華太と南雲の視線が、ほんの数秒、重なりあう。

重なっていた視線は、直ぐにほどけ、華太は視線を前へと戻した。

祝言もつつがなく終わり、その後の酒宴も今、正にお開きとなった。参列者を見送るため、立ち上がる。

天羽桂司

見送りはしなくても構わん。今日は、二人の大事な門出の日なのだから、早めに下がりなさい

親っさんの計らいもあり、俺たちは、その場を後にする。

月明かりが照らす廊下を、華太の手を引き、俺の寝所へと向かう。

和中蒼一郎

華太、疲れただろう?

小峠華太

大丈夫です

和中蒼一郎

初夜だからといって、無理して俺に、付き合う必要はない

小峠華太

お気遣いありがとうございます。でも、俺はわ、蒼一郎さんの妻です。だから、妻としての務めを果たさせて欲しいです

華太の視線とかち合う。あの日、浮かべていた諦観の色はなく、どこまでも清んだエメラルドの瞳が、俺を見つめ返してくる。

和中蒼一郎

そうか

寝所へと続く障子を開け、部屋の中へと入る。

和中蒼一郎

本当にいいのか?

小峠華太

はい

俺は華太の着物の合わせに手をかける。

着物はするりと下に落ち、華太の体が露(あらわ)となる。

月灯りに照らされ、華太のなまめかしい肢体が浮かびあがる。

その様は、伽羅(きゃら)のよう。 (※伽羅:よいものをほめていう語。香木の一種。江戸時代、遊郭の金銭を表す意味もある。同じ漢字で伽羅(カラ)と発音する場合は、古代朝鮮の小国のこと)

冷えた手に、華太の肌を介して、温もりが伝う。

生涯、俺はこの日を忘れる事はないだろう。

俺が壊してしまった二人の恋に報いるためにも

これを俺の初恋としよう。

おわり

あとがき この話のテーマは『苦悩』 二人の恋を引き裂いた事に対し、和中は罪悪感を抱いている。この先、華太が和中を好きになったとして、和中は手放しで喜べるかどうか。心からは喜べないと思う。和中が二人の恋を壊した事実が『華太』という存在として、手元に残り続けるから。 こういう手の話の場合、誰が一番悪いのかと問えば、誰も一番悪いとは言えず、全員が少しずつ悪いという呈になる。だが、明確に誰も悪い訳ではない。全員の根底にあるのは『相手を思う心』 南雲は、華太の幸せを一心に願い、身をひいた。華太は、南雲から向けられた心をないものとして扱えず、心で和中を裏切る事も出来ず、行動に出た。和中も二人の恋に報いるために、南雲が華太を幸せにしようとしていた分の責も負う。そして、親っさんもまた死に急ぐ和中(伊集院VS和中の中の伊集院の台詞から)を、妻子が入れば、死に急ぐ事はないだろうという思いから、華太を嫁がせた。誰も悪い訳ではなく、全員思いの方向が違っただけ。 ほんに、人の心は複雑怪奇。故に時に美しく儚い。 華太と和中の最後の締めくくっている文は、この言葉がもとになってます。⬇️ 『初恋は、これが最後の恋だと思うし最後の恋は、これこそ初恋だと思うもの』 オリジナル設定にしてる部分 *江戸時代の結婚式は夜。 *庶民の結婚は自由。男6対女4の比率なので、嫁を貰うのも一苦労。仲人によるお見合いが主流。武家は家柄重視なので、自由恋愛❌。 *花嫁行列は、歩く人の順番が決まっており、本当は和中ではなく、仲人の妻が華太の手を引く。参列者も花嫁行列に参加するので、沿道に立ってはない。 *風習として婚礼の義礼はあったが、結婚式という言葉や概念はなく、今のような人前式など行われるようになったのは明治時代。 なので、お間違いなきよう願います。

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コメント

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凄い、難しいことをいたから説明するひなひなかっくいい、後南雲の兄貴の名言、、、確かにそうやな初恋は終わりの恋終わりの恋は初恋せやな、自分もせやったけど恋は諦めたんだ、昔の武家は中に恋ができなかったのは知ってる、何でやろな、自由に恋ができないって、難しい言葉を知ってるひなひなを尊敬するわ

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