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ユウヤ
ユウヤ
一瞬、唐突に喉仏の辺りが鋭く痛んだ。
縫い針で軽く突かれたような痛み。
思わず顔をしかめる。
ユウヤ
ユウヤ
ユウヤ
僕は、正面に向き直る。
その言葉の届け先である、彼女-- 立花すずに。
徐々に冷たさを帯びつつある、10月の夜の空気。
今日は特に肌寒かった。
彼女は静かに両目を閉じ、口を閉ざしたままだった。
彼女の表情は、僕の言葉をゆっくりと味わっているようで--
絵画の中の貴婦人が、 その口に含んだワインを舌で転がしているようでもあった。
ユウヤ
ユウヤ
僕の心中はどす黒い液体に浸食されつつあった。
ドロドロの、真っ黒な液体に。
過去のトラウマが、僕をさいなみ始めていた。
ユウヤ
上着の胸ポケットを、ギュッと握る。
母の残したお守りの感触が、手のひらに伝わってきた。
ユウヤ
トラウマという暴力が僕の全てを覆い尽くし、 不安のシャボン玉が無数に生まれてくる。
それらいつまでも割れることはなく、僕の中でねっとりと漂い続けた。
ユウヤ
そんなことすら思い始めた時、
スズ
ユウヤ
スズ
スズ
思わずゴクリと喉を鳴らすが、そこに飲み込むべき唾はない。
一切の水分が蒸発してしまったみたいだ。
その感覚に耐えながら、彼女の薄紅梅色の唇をじっと見つめる。
スズ
ふわりと、 その言葉は、舞い落ちた。
彼女が、おどけたふうにペコリと頭を下げ、言った。
スズ
ユウヤ
スズ
スズ
ユウヤ
スズ
ユウヤ
ユウヤ
安堵のあまり腰を抜かしそうになる。
そんな僕を見て、彼女はくすくすと楽しそうに笑っている。
スズ
スズ
ユウヤ
スズ
スズ
ユウヤ
お世辞でもそんなことを言ってくれるのが嬉しくて、 僕は無意識に右頰をポリポリとかく。
ユウヤ
喉の辺りが痛かったけど、何があったんだろう。
自分の喉仏を触ってみるけれど、違和感はもうない。
ユウヤ
腕時計に目をやると、時計の針は11時近くを示している。
ユウヤ
ユウヤ
スズ
スズ
彼女は小ぶりなバッグを持った両手を後ろで組み、 駅のある方角にくるりとターンする。
彼女の背を追おうと、僕も足を踏み出す。
ユウヤ
ユウヤ
何だかまだ、実感が湧かない。
今日この日まで、散々迷い、悩んできた。
僕は、恋人を作ることを許されるような人間じゃないから。
ユウヤ
ユウヤ
そう自分に言い聞かせ、彼女の手を取ろうと手を伸ばし--…
スズ
スズ
その手に触れる直前。
顔を前方に向けたまま、彼女が唐突に言った。
ユウヤ
ユウヤ
スズ
彼女は小さく一歩、僕から距離を取る。
スズ
そう前置きをした後、彼女は顔だけを僕の方に向ける。
周囲の街灯に照らし出され、半分だけ見えた彼女の表情。
それを見て、戸惑った。
その目には、もの哀しげな色が宿っているように見えたから。
彼女が、小さく息を吸う音がする。
そして彼女は、その言葉を--
僕の前に、そっと置いた。
スズ
スズ