____はじめまして。
そう言い、物陰から姿を現した、 君の背丈は僕とほぼ変わらず、
夏制服のシャツから覗く白い腕はほんの少し透けていて、
空は青く澄み、
向日葵の花はいつもより早く枯れていて。
_____誰?
そう彼に聞いても、
にこにこ楽しそうに笑ったまま、
“探してるんだ”
とだけ言って、さらに目を細めた。
どことなく_____
“夏の匂い”
がした、夏休み初日の出来事だった。
ほとけ
母
ほとけ
母
母
ほとけ
ほとけ
母
父
父
母
ほとけ
“夏休みだけ、「あのこ」の友達になってくれないか”
そう言われ、連れ出されたのは、
片道数時間の都心から程遠い田舎。
夏休みの間滞在するということで、
友達との予定も、
行く予定だったライブも、
やる予定だったゲームも全部できなくなった。
それに、泊まる祖父母の家にはWiFiが満足に無い。
連絡も取れなければ、
動画も何も見れない。
……………正直行きたくなかった。
ほとけ
父
父
ほとけ
母
その息子さんには余命があるらしい。
幼い頃から体が弱く、
今年の春に“もって8月まで”と、
宣告を受けたそうだ。
学校にも行ったことがなく、 “友達”が欲しかったらしい。
その“友達”に僕が選ばれたそうで。
母
ほとけ
ほとけ
母
母
父
ほとけ
………したいことだってあった
友達との予定だってあったし、
こんなド田舎に誰が行きたいんだよ。
憂鬱な気持ちで、 ため息を吐きながら。
僕は車を降りた。
____相変わらず、無駄にでかい家。
でかい割にWiFiも無いし、
ネットワークもクソ。
テレビもそれほど新しくなかった気がする。
…………なんでこんなとこに1ヶ月も。
なんて思うが、口には出さない。
祖母
ほとけ
ほとけ
祖母
ほとけ
母
母
母
ほとけ
祖母
祖母
祖母
ほとけ
“ないと”
………と、言うらしい。
どんな人なのかは分からないが、どことなく癪に触った。
ほとけ
祖母
祖母
ほとけ
…………そんなのどうでもいい
いい子でも、悪い奴でも、何でもいい
どんな奴でも、僕の中学最後の夏は帰ってこない。
…………最後なのに。
もう…………卒業したら、友達と会えなくなるのに。
…………なんで、
何で、知らない奴のために……… 最後の夏を捨てなきゃならないんだよ
祖母
祖母
ほとけ
……………少しだけ、嫌な予感がしたような気がする。
あまり来ない場所だからか、昨日はよく眠れなかった気がする。
だが、この村はどこか不気味な雰囲気と、
気味の悪い感覚がして仕方がなかった。
_____他の人は何も感じないのだろうか。
あれ?
もしかして、僕がおかしい?
母
祖母
今はそこに徒歩で向かっていた。
…………なんで徒歩なんだろう、
日焼けするじゃないか。
本当に嫌だ。
祖母
祖母
ほとけ
祖母
母
祖母
母
ほとけ
祖母
ほとけ
“村長”の息子………
きっと金持ちのボンボンなんだろな
“友達”どころか“下僕”にされそうでめっちゃ嫌なんですけど
家の外観はとても綺麗で、
ファンタジーの一部を切りとったかのような洋風建築
ヨーロッパにありそうな、洒落た本格的な外観をしていた
とにかく大きい
それが最初の感想だった
…………まぁ、広くて歩くだけで疲れそうではあるが
父
父
父
出てきたのは品の良い男の人だった。
………この人が村長か。
ほとけ
見るからに“お金持ち”
だけど、あまり嫌な感じがしない
見たことないタイプの変わった人だと思った。
父
祖母
……………僕のどこを見てそんなこと言える?
今のところただの生意気なガキだぞ
無愛想だし、
暗いし……………
“いい子”な要素はひとつも無かったはずだけど
ほとけ
父
父
父
……………それはどうでしょうかね。
意味が全く分かりません。
父
父
ガチャリ。
ドアノブを捻る無機質な音がした。
…………母さんだろうか。
俺は読んでいた本から視線を上げ、ドアのある方向を見る。
ほとけ
ないこ
……………誰?
水色の髪をした男の子だった。
ほんのり焼けているがそれでもまだ白い肌、
細い腕、
陽の光を受けほのかに透ける水色の髪、
顰められた、どことなく不機嫌そうな澄んだ水色の瞳。
見たことは無い、
会ったこともない。
ただ、人目見た時、
自分とは別世界に住む人のような…………
存在自体が儚いような、綺麗な印象を受けた。
ないこ
父
ないこ
ないこ
ほとけ
父
ないこ
“友達”という響きを何度も反芻した。
友達、友達、友達………………
ないこ
…………とても、聞き慣れない響きで。
それでも…………どこか、暖かい感じがして。
ないこ
ないこ
ないこ
初めて呼んだ、“友達”の名は、
今まで口にしたどの言葉よりも。
心が…………暖かく、満たされた感じがした。
_____よろしくね、ほとけくん
ほとけ
…………何とも言えない気持ちになった。
さっきまで不機嫌だったのが嘘かのように消えて、
向けられた笑顔に、どうしても応えてあげたくなった。
…………“花”が咲くような、
初めて嬉しさを感じたかのような、
………………周りの人を幸せにできるような。
そんな純粋無垢な顔をされ、
不平不満なんて何も言えなくなってしまった。
母
ほとけ
ほとけ
ないこ
ないこ
ほとけ
ないこ
ほとけ
ないこ
ほとけ
ほとけ
ないこ
ただただ、嬉しそうな声色だった。
初めて外に出た子供のような、 無邪気なはしゃぎ声。
自然と、僕の顔もほころんだ。
ほとけ
ほとけ
ないこ
ないこ
ないこ
ほとけ
ないこ
ないこ
ないちゃんが、庭先の花壇横に目を向けた。
…………何て書いてあるかは、滲んでわからない。
でも、そこには木の板にペンで文字が書かれていたあとがあって、
そこだけ土が盛り上がっていた。
そして、向日葵の花が供えられていて。
ほとけ
ないこ
ないこ
ないこ
ないこ
…………ないちゃんが語る“死”はあまりにも楽観的だった。
ほとけ
ないこ
ないこ
ないこ
ほとけ
……少し、胸が苦しくなった。
ほとけ
ないこ
ほとけ
同い年の子が、僕と同じ歳の子が、
そんな楽観的に………それでも、現実的に、 “死”を語れる事実に、
あまり実感と共感が得られなかったのだろう。
ないこ
ほとけ
ないこ
ないこ
ほとけ
ないこ
ないこ
ないこ
ないこ
ないこ
ほとけ
ほとけ
ほとけ
ほとけ
ほとけ
………できるだけ、
柔らかい言葉で、傷付けないように。
目の前のこの子が、
笑顔を曇らせないように。
ないこ
ほとけ
ないこ
ほとけ
ないこ
ほとけ
ほとけ
ないこ
どこか腑に落ちないようではあったけど、
別にそれでも良かった。
少し気に食わないけど、
ないちゃんがいいならそれでいい
ないこ
……………レースカーテンが揺れる。
隙間から…………
……………外で、のんびりと歩く白い髪の男の子が見えた。
ないこ
…………どことなく不思議な子だった。
いや、“どことなく”じゃない。
確かにその子は不気味だった。
___その子は微かに、
いや確かに。
____身体が、透けていたのだ。
NexT ▶▶▶
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