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物凄く言葉遣いが上手でこの世界に引き釣りこまれそうな感覚がしました。電車に乗って出かけたのは夢だったのかとか色々含みを持たせていて改めて凄いなあと感じました。題名も内容がマッチしていて、ストーリー構成も本当に尊敬できるほど凄くて1度読んだらすぐに終わってしまうほど夢中になりました。今回の作品もとても面白かったです。次回の作品も楽しみにしています。頑張ってください
忘れ物をした。
取りに戻ったら、君がいた
「ガタンッ」と 車の揺れる音で目が覚めた。
前を見ると、両親が楽しそうに喋っていた。
私が起きたことに気がつくと、「お腹すいたでしょ?」とパンをくれた
床には、さっきの揺れで落ちた本たちが広がっていた。
拾うのがめんどくさかったから、先にパンを食べる事にした。
窓を見ると一面田んぼ。
前の街とはさほど変わらない。
人の数を数えていると、パンはもう無くなっていた。
ため息をつき、本を拾う。
そこで初めて、ひとつ足りないことに気づいた。
一番大切な本だけど、今更戻るのも気が引ける。
あの本は諦めた。
1時間半くらい走って着いた。
引っ越す意味は無かったんじゃないか。と思ったけど、口には出さなかった。
何故だかは分からない。何となく、言ってはいけない気がしたから。
家の中に入ると、何も無く、とても広かった。
自分の膝に落ちていたパンくずを払ってみた。
何も起きなかったけど、なんか不思議な感覚になった。
新しい家は、畳のいい匂いがする
前は、ここら辺に私の部屋があった。
いつもあの人と漫画を読んだり、勉強したりしてたなぁ。
玄関の奥の階段をのぼると、私の部屋だ。
何も無くて、ただ広いだけ。
部屋に寝っ転がると、天井に落書きがあった。
いかにも「男の子」って感じで。
「どうやって書いたんだろう。」なんて考えながらその落書きを見ていた。
ずっと見てると、どこか見覚えがあるような気がして気味が悪くなった
気分転換に窓を開けた。
隣には、小さな公園があった。
ベンチに私と同じくらいの男の子が座り、本を読んでいた。
何故か目が離せなくて、私の目線はその男の子に釘付けだった。
気がつくと、公園の前に立っていた。
強い磁石で引っ張られるような感覚
何も考えず、公園の中に入った。
あのベンチの前まで来て、足を止めた。
あの男の子は凄く綺麗な顔立ちをしていて、胸がキュッと締め付けられる。
一歩前に出ると、彼はこちらに気づいた。
「待ってたよ」
一瞬、あの畳の匂いがした。
風がふいて、瞬きをしたらその人はいなくなっていた。
ベンチには、1冊だけ本が置かれていて。
こんなに電車に乗ったのは初めてだと思う。
ある忘れ物に気づいて戻っている。
無くなっていないといいけど。
ドアが開くと同時に、財布と1冊の本を持って走り出した。
今までで一番、速く走った。
勢い良く家のドアを開けて、中に入った。
家に入ると、一人で寝っ転がる君がいた。
私はゆっくり近づいた。
「…久しぶり」
彼は驚いた素振りをしてこっちを見た。
でも、すぐに落ち着き、私の方に歩いてくる。
「待ってたよ」
「うん。ありがとう」
そう言って、彼に本を渡した。
また、畳の匂いがして彼はいなくなった。
隅の方を見ると、落書きがあった。
いかにも、男の子っぽい感じで。
もう一度、ゆっくり瞬きをした。
朝、目が覚めた。
けど、天井は見なかった。
私の部屋には、
1冊の本が置かれていた。