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初めまして、井之上と申します。 お手本のような一人称作品で、張り手型の冒頭から一気に世界観に引き込まれました。 これからほかの作品も拝読していきたいと思います。 素晴らしい作品をありがとうございます!
とても面白く見入ってしまいました!小説の中でも生きられたらいいのにという部分が主人公の生きたい気持ちを強く連想させていてとてもいいと思いました!僕が見た時はハートが少なくてコメントもついていなかったですが諦めないでこのまま書いて欲しいです!続きや別作品も楽しみにしています!恐縮ですがフォローも失礼します!頑張ってください!!
私が最期に見たのは、
無駄に大きくて白い、まんまるの月だった。
文字ばかりの原稿用紙と一緒に落ちていった私を、
君はとても悲しそうな目で見ていた。
最期は君の笑顔が見たかったな。
それが、私の最期の願いで、 叶わなかった願い
私の朝は早い。
そして、起きて直ぐにドーナッツを5個食べた。
この世界では、私が願わない限り、私は太らない。
怪我をすることだってない。
この世界は、全て私の思い通り。
私は友達が多い。
今まで誰かと喧嘩したり、陰口を言われたことだってない。
放課後遊んだり、勉強したり…
とっても楽しい。
恋人だっているんだ。
手を繋いで水族館デート。
とっても幸せ
「あの魚、███くんみたい」
「そうかぁw?」
何気ない会話を、2人で交わすんだ
夜は家族と美味しいご飯を食べる
たくさん話して、たくさん笑う。
みんなのえくぼが面白いなぁ
「おやすみ、また明日。」
その一言を家族に告げて、部屋へ入る。
私は今日、広いお花畑でただただ笑う夢を見る。
周りには沢山の人がいて、時には泣いている人も。
でも時間が経つと、みんなすっかり笑顔になってる。
そんな、幸せな夢を見るんだ
目が覚めると、また別の世界。
この世界の私は、病院の机に突っ伏して、ひたすら手を動かす。
ペンが踊るように紙を滑っていく
私は何も願ってなどいない。
黙々と紙の上に空想の世界を広げていた。
不意に、ペンが自分のてから逃げるように落っこちた。
すぐに拾おうと机から離れたと同時に、ドアが開いた。
背の高い男性が入ってきた。
「███くん……!」
私が目を光らせて、彼の名前を呼んだ。
「おう!土産だ!」
彼は、溢れ出す感情を抑えているような、そんな笑いで言った。
「あと一週間かぁ。」
「.....うん、」
彼からその言葉を聞いた瞬間、さっきまでうるさかった心臓が止まった
『手術』
一週間後の手術で失敗すれば、この私はもう長くないらしい。
そして、この手術。成功例が無いらしい。
...そんな事を考えていると、紙の中に潜りたくなる。
あと一週間、ギリギリまで幸せな時間を過ごしていたい。
私は落としたペンを拾い、もう一度机に向かった。
彼は、虚しい目を私に向けていた
手術室で死ぬのは嫌だ。
最期に見るのが何の思い入れもない医者なんて……
せめて最期に見るのが彼だったらな
それが、この世界で初めて願ったことだ。
手術前日の夜、私は彼を連れて屋上へ出た。
嬉しくて、楽しくて、幸せな気分になった。
小説とはまた違うドキドキ、
私は思わず笑ってしまう。
「外って楽しいね!」
彼からの返事はなかった。
彼は、私を見て瞳から雫を流している。
これじゃあ私の願いは叶わない
「私ね、最期は███くんの笑顔を見たいの!」
紙ではない世界。
そこでの初めての願いを彼にぶつけた。
彼は、泣きながらでも無理やり笑ってくれた。
私の胸はワクワクでいっぱい。
3Dの世界で初めて願ったことが初めて叶うんだから
私は彼に、今まで書いてきた小説を渡した。
何も言わなかった。
破いてしまうほどの強さでそれを握ったまま…
私は、
盗んできた鍵で、屋上非常階段のフェンスを開けた────
落ちている時間はとても長く、
まるで時が止まっているかのようだ
何故か視界がぼやける
自分の目から、水が垂れていた。
ー死にたくないー
本当は、ずっと前から願っていた事かもしれない。
私も小説の中で生きたかった
大きな月を見て、今まで気付かないふりをしていた感情が溢れ出す
小説、もっと書いておけば良かった
真夜中に、「ゴンッ」と 鈍い音が響いた。