拝啓、いつかの君へ。
君は。
あの日の事を。
そして…。
私の事を。
覚えているかな…?
私は、この先。
ずっと、ずっと…忘れない。
たとえ君が 忘れてしまったとしても…。
…勿論、僕は忘れないよ。
今でも、時々。
君の事を思い出して 何度も何度も。
この手紙を読み返している…。
僕は父と2人暮らしだった。
父
父
僕
僕
父と母は離婚した。
…そして、僕は父を、 妹は母を選んだ…。
それから。
父は僕に八つ当たりするように なった。
僕が何か言えば、 父はすぐに僕を殴った。
…人目につかない、 お腹をあえて狙って。
そのせいで。
僕の身体はアザだらけで ボロボロになっていった…。
…でも。
僕はもう、耐えきれず。
コンビニに行ってくる、と 嘘をついて。
家出をした。
僕
僕はただ、走った。
ただがむしゃらに、走った…。
どこに行くかなんて、 考えてもいなかった…。
しばらく走って、気がついた。
僕は1人では 生きていけない事。
僕はお金を持っていない事。
だから。
僕はまたあの家に戻らなくてはならない事。
しかし、僕はまだ 知らなかった。
これから君と出会える事。
…そして。
この日が僕と君が会う、
最初で最期の日…という事…。
…気がつけば、僕は 山の中にいた。
喉が渇いている事に気づき、
必死で川を探していた…。
…音が聞こえる。
優しい水の音…。
…水…。
…飲ま…なきゃ…。
僕はふらふらと 水の音を頼りにして
歩いて行く…。
見つけた…。
僕は滝を見つけて すぐさま手に取る仕草をする。
しかし、水は僕の手から 零れ落ちて行く…。
僕はそれを必死になって 掴んで、喉の潤いを取り戻す。
君
君
少し茶色が混じった黒髪。
小麦色に焼けた、 少しヤンチャな肌の色。
そう、君と出会った…。
君は僕に笹舟を差し出す。
その笹舟は、若草色で。
太陽の光を浴びて、 きらきらと輝いていた…。
僕
僕
君
君
僕
僕は知らない女の子である君に 不安を感じながらも
君の押しに負けて、 必死について行く…。
君
一分後。
着いたのは、美しい 清流が流れる、山滝川。
君
君
僕
僕は笹舟を差し出す。
君はそれを受け取る。
その間、僕の手と君の手が 微かに触れた…。
君
君は笹舟を川に流してしまう。
笹舟は川を流れて行く。
清流の流れのままに。
まるで、父に逆らうことが 出来ずに…
父に言われるがままに 行動する、僕みたいだ…。
そんな事を想う僕とは裏腹に
君の目は輝いていた…。
君
僕
君
僕
君
君
君
君
君は笑顔で答える。
…本当に、こんな僕が 素敵だと思うかい…?
身体はボロボロで、 アザだらけで。
それでも平気なフリをしてる、 こんな僕は…
本当に素敵かな?
それから、ずっと2人で 遊んだ。
…楽しかったな…。
こんなに楽しかった思い出は、何年振りかな…?
そしてついに…。
黄昏時。
…そろそろ、戻らなくちゃ…。
僕
僕
君
君
君
君
僕
君
君
君
僕
僕
君
君
僕
こうして僕は君に最初で最期の 別れを告げた…。
本当は、家に 戻りたくなんてない。
…けど。
僕は、1人では 生きていけない。
だから、家に戻るんだ…。
僕
僕
父は無言だ。
この時僕は、
初めて無言の恐ろしさを 知ることになった…。
父
父
僕
僕
父に逆らえず清流を流れる 笹舟の僕。
ああ、また君に会いたい。
そんな願いは儚く消え去る。
父
父
父
父
僕
父
僕
ごめんね。
君に、会いに 行けなくなった…。
あれから5年後。
父は亡くなった。
僕は、父に涙を流すことが できなかった。
僕は父が嫌いだから。
葬儀を終えて、僕はふと 思い出す。
あの日の事、君の事。
…僕は最低な息子だ。
死んだ父の事よりも、君の事を考えているんだ…。
行こう、かな…。
考える前に、足が動いていた。
僕
…着いた。
それと同時に
あの日の記憶が蘇る。
少し茶色が混ざった黒髪。
小麦色に焼けた、 少しヤンチャな肌の色。
優しい水の音。
…しかし、君は居なかった。
何処を探しても、居なかった。
その代わり、 1つの物を見つけた。
あの時の、笹舟…。
その上に、石が置かれていた。
若草色だった笹舟は、 いつのまにか色褪せていて。
大切な思い出さえも色褪せて しまったように感じた。
…でも、きっと君は 忘れてなんか居ないだろう。
僕は石を置いて 笹舟を手に取る。
すると…
笹舟の下に、小さな手紙が 隠れていた。
「拝啓、いつかの君へ。」
その文字は。
なんだか少し、
僕と似ている気がした…。
コメント
56件
凄い感動した…! 最高だったよ!
コメント遅くなってすいません。コンテストに参加して頂きありがとうございます。虐待をする父親、最低な人ですね。僕にとって、彼女は光だったと考えると、この結末は凄く切ないです。彼女は、僕の事をずっと待っていたんでしょうね。だから、手紙を隠した.......良い話、過ぎますよ。笹舟と思い出を重ねた、表現が凄く好きですw
フォローありがとうございます!( *´꒳`*) 他の方々のコメント欄でたまに見かけてまして…丁寧な方だな、と勝手に好印象抱いてました()