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カナデ
顔の前に伸ばされた袖に意識を戻された。
ショウ
カナデ
ブルーと呼ばれた少年 ──その名を、カナデという。 カナデ はぷくぅと頬を膨らませた
ショウの席は教室の前から2番目だ。 これでは居眠りもすぐにバレてしまう。 しかも、ショウの前の席に座っているのは、 クラスの男子の中で1番背の低いカナデだ。
保育園児の頃からショウと親友な彼は、 中学3年生になった今も成長期が来ていないのか、 未だに身長は150cm代を抜けない。 座席もそこまで高くないから、 教卓からは、見事にショウの居眠りする姿が見える事だろう。
カナデ
ショウ
カナデ
フフーンと少し偉そうに腕を組み、胸を反らす
リコ
そんな2人を冷めた目で見るのはリコだ。 彼女はカナデの隣の席だった。 やれやれと言いたげにカバンを置いて、席へ腰かける。
ショウ
リコ
カナデ
カナデは可哀想な物を見る目でショウを見ていた。 だがショウはその視線に気付かなかったのか、話を続ける。
ショウ
リコ
ハー、とため息をつきながらボヤいた。
ヒーロー部とは、ショウが2年生の頃に作った部活動だ。 ショウは2年生の時の春休みに世間を騒がせていた怪物に襲われた。 助けてくれたのは、鋭い紫眼のヒーロー。
名前も性別も、何もかもが分からないような人に貰ったショールを 宝物にしたショウは、あの人のようなカッコいいヒーローになりたい! と思い、部活動をつくったのだ。
部員は5名。部長のショウ、 副部長(にさせられたの)はカナデ。 バズりそう、と思って入部したリコ。 あとの2人は小学生の頃からのショウの友人で、 3年生になった現在はショウ達とは他クラスになった、 ケントとアヤカだ。
ギリギリの所で人数を満たしたヒーロー部は、 予算は少ないながらも そこそこ楽しく活動を行っていた。 困った人を助ける、それがヒーロー部だ。 まあ、他の生徒からは何でも部と呼ばれているのだが。
リコ
ショウ
カナデ
リコ
リコは情報通である。 そんな彼女の情報は間違っている事もなく。 HRでその転校生は教室へやって来た。
先生
そんな先生の声に従って、教室のドアが開かれた。 入ってきたのは、 少し短めな碧いストレートロングの、紫の瞳の少女だ。 緊張しているらしく、たどたどしい自己紹介だったが、 その少女の名前はハルカだということが分かった。
ハルカ
カナデとリコは後ろの席のショウに声をかけた。
カナデ
ショウ
リコ
リコは面白そうに笑っている。 バズりを求める彼女にとって、そういった推測は簡単な物だった。
ショウ
リコ
つれない態度のショウに、リコは興味を失ったようだ。 仕方なさそうに身体を前に向ける。 ショウは、自分を助けてくれたヒーローの事を あまり覚えていなかった。 “そうだ”と言われれば、 ハルカがあの時のヒーローだったかもと思うし、 “違う”と言われれば、違うかもと思う。 だって覚えているのは、長い髪に黒いショール、鋭い紫眼だけなのだ。 ショールは置いておくとして、長髪や紫眼はそう珍しいものではない。だから、ハルカがあの時のヒーローと決めつける事は出来なかった。
先生
ハルカ
そう返事をしたハルカは、ショウの右隣の席へ座った。
ハルカ
ショウ
やや困惑しつつも、学校生活は始まった。
ハルカ
ショウ
最初はドギマギしていたショウだったが、 彼は結構、人に懐くのが早い質の人間だ。 午前の授業を終えた辺りでハルカと仲良くなり、 給食をお喋りしながら食べる程度の仲になった。 勿論、カナデやリコも同様である。
ハルカ
カナデ
ハルカ
リコ
新たな部員もバズりになるかもしれません! と目を輝かせるリコに、ハルカは苦笑いする。
ハルカ
曲げた人差し指を頬に添えながら聞くハルカに、 3人は親指を突き出した。
ショウ
アヤカ
アヤカは、少し困ったような笑みを浮かべながらハルカに言った。 ハルカは頷く。 ショウの狭いとはなんだ、という苦情は無視された。
ハルカ
リコ
ケント
アヤカ
カナデ
ショウ
5人はハルカに向かって言った。力強く。 その姿はまるで本物のヒーローのようで。
ハルカ
えへへ…… と笑いながら、なんとなしに部室を見渡す。 壁の一部分を見たとき、ハルカの動きは止まった。 正確に言うならば、壁ではない。 壁にかかっている物に、ハルカは反応したのだろう。
ハルカ
壁には黒いショールがかけられていた。 ハルカの紫の瞳は、真剣さを示すようにキリッとしていた。
ショウ
ショウが青い目を輝かせながら説明をした。 その顔はお前もヒーローに興味があるのか!? と聞いていた。 体を傾けながら真面目に話すショウ。 4人は少し呆れ半分で(カナデ、リコは特に)話を聞いていたが、 ハルカは熱心に耳を傾けていた。
ハルカ
ショウ
ハルカ
「「「「えーーー!??」」」」
絶叫が響いた。 隣の隣の隣くらいの距離にある音楽室まで聞こえていたかもしれない。 音楽室で演奏中だった吹奏楽部にとってはいい迷惑だっただろう。 後でショウにクレームが寄せられるかもしれない。
まあ、そんな事は置いておいて。 ハルカの入部が決定したのだった。 ちなみに、メンバーカラーはライトブルーである 。
時間の流れは速いもので、あっという間に下校時間になった。 学校を出たヒーロー部のメンバー達は、一緒に通学路を歩いていた。 なんという奇跡か、この6人の家の方向は一緒の辺りだったのだ。 ハルカはヒーロー部の主な活動内容や、以前解決した問題について 話してもらっていた。ハルカはなんて真面目なのだろうか。 5人は感心しながら話していた。
ハルカ
リコ
カナデ
ケント
アヤカ
ショウ
カナデ
リコ
ケント
アヤカ
結構辛辣な意見を述べるカナデとリコ。 フォローをするケントとアヤカ。 まるで茶番劇のような、平和な時間だった。 ハルカもアハハと笑っている。 こんな時間が長く続いたら…… 誰かがそう思った、その瞬間の事だった。
ドガンッ!
大きな衝撃音。 すぐに振動がやってきて、6人は思わずへたりこむ。 立っていられない程に揺れは強かった。 一体何が、と思い辺りを見渡す。 そこにいたのは大きなピエロ。 バランスボールに乗りながらジャグリングをしている。 たまに玉やクラブが建物や地面に当たる。 それが揺れの理由らしい。 黄色や青色のカラフルで可愛らしさ さえ感じるような見た目なのに、威力は高いようだ。あちこちで損傷が酷い。
ハルカ
ショウ
カナデ
ショウとカナデが、ハルカに向かって声を荒げる。 ハルカは真正面からピエロに立ち向かおうとしていた。 止めなければハルカが危ない! という気持ちからである。 美しい友情だ。 けれど、ハルカは自分の方に来ようとするショウ達を片手で制した。
ハルカ
ショウ
ハルカ
ショウ
ケント
アヤカ
カナデ
リコ
ハルカは悩んだように5人を見た。 何かを決心したように頷く。 彼女はキッとピエロを睨み付ける。
ハルカ
ハルカは、カバンに付いていたキーホルダーを掴んだ。 ハルカの手にそれが握られたとき、 それはキーホルダーではなくステッキになった。 水色を基調とした細長いステッキの先には、碧い星が付いている。 彼女がステッキを天に掲げた瞬間、碧い光が彼女を包んだ。
数秒経ったか経たなかったかくらいで碧い光が消えた。 ハルカの服は制服ではなくなっていた。 青いチュニックには金色の刺繍がされている。かなり豪華だ。 白いフレアスカートと共に、長くなった髪がヒラヒラと揺れていた。 頭にはチョコンと冠が乗っている。 凛としたその姿はまるで王子様のようだ。
ハルカ
叫んだすぐあとに、何処からかレイピアが出てきた。 ダッッと地面を蹴ったハルカは、 あっという間にピエロの首元へ跳んだ。 そのままレイピアを突く。そのまま横に動かし、首を飛ばした。 ピエロはキラキラしたチリとなり宙へ溶け、消えていった。
ハルカ
ショウ
ハルカ
5人は困惑しっぱなしだった。 突然大きなピエロが現れたと思えば、ハルカが変身し、 一瞬でピエロを倒してしまったのだから。 これで平常心でいろという方が無理な話だろう。
ハルカ
いつの間にか元の姿に戻っていたハルカは、苦笑いのままそう告げた。